「○○することも出来る」を「○○しなければならない」にしないように!

仮定の話として、ある電車内で痴漢事件が発生したとする。

その時周りが……

「電車内で痴漢はあるものだ」
「痴漢に遭いたくなければ女性(あるいは男性)専用車両にどうぞ」

……なんて言ったら身も蓋もない。

確かに現実問題として電車内に限らず痴漢事件は度々耳にする。

しかもNHKの番組によれば痴漢の被害に遭った被害者の9割は恐怖や羞恥からか被害届を出さない……というより出せないでいるらしい。

タレントのスマイリーキクチさんも痴漢に遭ったことはあるそうで、「振り向けず声も出ず動揺するだけ。痴漢で助けてと言えない人の気持ちがわかりました」と当時の心境を綴っていた。

……ということをふまえてみると、痴漢事件の発生件数は実際に報告されている件数よりも遥かに多い可能性が高いのだ。

だからもしかすると「電車内で痴漢はあるものだ」とか「痴漢に遭いたくなければ女性(あるいは男性)専用車両にどうぞ」という発言には「実際問題として痴漢の発生件数は多く、防止するためにこういった対策を講じています。どうぞご利用下さい」という意図があるのかもしれない。

だがその一方であってはならない犯罪を「あるものだ」と言ったり悪いのは明らかに犯人の方なのに被害者となり得る側の人に対して「痴漢に遭いたくなければ」等と言って自己責任を問うているということは失言であると言わざるを得ない。

言った側が「電車内で痴漢はないと言ったら嘘になる」とか「被害者となり得る側の自己責任を問うているわけではない」とか「言葉尻ばかり取るな」等と言い訳をしても失言の要件を満たしている以上、言われた人が怒ったり、「そういった失言はNGだ」と言われたりすることがあればそれを受け止めなければならないだろう。

「電車内で痴漢はあるものだ」や「痴漢に遭いたくなければ女性(あるいは男性)専用車両にどうぞ」ということを言われた側の人が「実際問題として痴漢の発生件数は多く、防止するためにこういった対策を講じています。どうぞご利用下さい」という風に受け取ってくれたら言った側は「自分は失言してしまったがそういった意味に受け取ってもらえてありがたい」と思わなければならないのだ。

この際なのではっきりさせておかなくてはならないことがある。

地震や台風は自然が相手であるため、「あるものだ」と言えるだろう。
発生に備えての対策をしていなくて被害に遭ってしまうということのないように懐中電灯を近くに置いておいたり非常食を用意しておいたり危険なときは速やかに避難できるようにして下さいということを呼びかけても問題はない。……というよりむしろ積極的に呼びかけて地震や台風による甚大な被害を被る人を減らしていくべきだろう。

だけど先程例として挙げた痴漢だったりいじめのような行為は人為的な物だ。
「こういった対策を講じていますのでよろしければご利用下さい」という呼びかけは決して悪いことではないということを踏まえた上でも「あるものだから被害に遭いたくなければ」と自己責任を問うてしまえば、あってはならない犯罪をあるものだとして後押しすることになるのだという自覚を持って、そういった失言はしないように気をつけなければならない。

……と言っている僕自身、人為的な不法行為の被害者となり得る、あるいはなってしまった側の人に対して「気をつけて下さい」と言ってしまったことはあるから自戒の念を込めておかなくてはならないのだが……

何らかの事件の被害者となった(あるいはなり得る)人や何らかのトラブルに見舞われた人達に対して、その事件やトラブルに遭った際の対策を提示する場合は「その対策を取ることも可能なので選択肢に入れることも考慮されてはどうか?」に留めて、それで断られたらそれ以上その対策をその人に推し進めるのはやめておくのがベターではないだろうか?

『名探偵コナン』のエピソードである『月いちプレゼント脅迫事件』や『ツイてる男のサスペンス』であったような相手が不正や犯罪を起こそうとしている時にそれを止める場合などを除けば、「○○することも出来る」はあくまでも選択肢としての提示に留め、絶対に「○○しなければならない」にしないようにしなければならない。

1971年に公開されたスティーブン・スピルバーグ監督の『激突!』(原題は『Duel』)でガソリンスタンドに立ち寄った主人公のデヴィッドに店員が「車のラジエーターホースが劣化している」と声をかけるシーンがあった。

デヴィッドは修理しようという店員の申し出を断るのだが、修理を断られた店員は「オーナーはあんただ」(←だと思います。間違ってたらごめんなさい!)と、デヴィッドの意向を優先したのだった。

結果、デヴィッドの車は煽り運転のタンクローリーに追いかけられている途中でオーバーヒートして大ピンチに陥るのだが、あくまでもこれは結果論だ。

ガソリンスタンドの店員の「オーナーはあんただ」は決して間違ってはいない。

例えばデヴィッドが修理を断った理由が「修理費を持ち合わせていない」とか「修理には時間がかかりそうなので、後日にしたい」だったとしたら、修理費を持って後日修理に来てもらった方が要らぬトラブルを招かずに済むわけだ。

さらにオーバーヒートの原因も劣化したラジエーターホースをそのまま使っていたからというのもあるが、タンクローリーに煽られたデヴィッドが逃げるために多少運転が荒くならざるを得なかったということがなければあるいは目的地に辿り着いて、帰りに銀行でお金を下ろし、再度ガソリンスタンドに立ち寄ってラジエーターホースを修理してもらうということも出来たかも知れない。

まあ、正確なオーバーヒートの原因は「煽ってくるタンクローリーから逃げる途中でオーバーヒートしたらハラハラドキドキの展開になって面白いのではないか」と思ったスピルバーグ監督にあるのだが……

もちろん車の部品が傷んでいたら早めに修理した方が良いに超したことはない。

だが、最終的にどのタイミングで修理するか、どこで修理を頼むかあるいは自分で修理するかといったことは重大な事故につながりかねない違反行為にならない限りは車の持ち主(オーナー)の意向に任せなければならないのだ。

上記の例は創作物の中のエピソードだから、実際にあったエピソードも例示させていただこう。

以前の記事で取り上げたスマイリーキクチさんの“#しょこたんを応援しよう”というタグを思い出して頂けるだろうか?

 キクチさんはタグと同時にこうツイートしている。

「誹謗中傷や脅迫に苦しむ人が、泣き寝入りしない社会にするためにも、刑事告訴して欲しい」
「事件化すれば、ネットの言葉でも犯罪になると世間に広められるし、警察官が捜査マニュアルを共有すれば、被害者がたらい回しされないで済む」
「被害者を救い、結果的に加害者を減らせる」

キクチさんが作ったタグをツイートも含めて僕がすぐに拡散することにした理由は以前の記事の通り“#しょこたんを応援しよう”のタグの拡散であればあくまでも今回の被害者である中川翔子さんの意思を尊重して応援しようという姿勢でいられる人が多いだろうし、自身の正義を暴走させてしまう人が出る危険性も低いと思ったからなのだが、それと同時に中川さん自身が「警察に相談します」と明言していたからというのもある。

「被害者が泣き寝入り、加害者に甘かったりなにもなく、という例がありすぎると思う。世の中。 そんなことにならないために 抑止のためにも……」というツイートが中川さん本人のものではなく、且つ中川さんが事件化を望まないのであれば逆にキクチさんに対して「中川さんを応援するのであれば本人の意向に沿わない形はやめた方がいいのではないか?」と言わなければならなかっただろう。

ところで、僕等が「○○することも出来る」はあくまでも選択肢としての提示に留め、絶対に「○○しなければならない」にしないように気をつけなければならないのは決して何らかの事件の被害者となった(あるいはなり得る)人や何らかのトラブルに見舞われた人達に対して、その事件やトラブルに遭った際の対策を提示する時だけではない。

例えばネットを見ていると、たまに「コンビニで現金払いしてはいけない理由」などという迷惑千万な広告が出てくることがある。

「カード払いはお得」とかそういった宣伝目的なんだろうけど正直マナー違反でも何でもないことを「してはいけない」等と真っ先に目に止まる場所で言ってしまうような広告は見ようと思えない。

こっちはお釣りで小銭が欲しい時だってあるし、現金払いを同調圧力で出来なくされたら逆に小銭を使いたい時にも困ることになる。

むしろその場でお金を出さずにものを買うことに慣れてしまい、値段を見ずに買ってしまってせっかくの預金が必要以上に減ってしまうというデメリットだってあるわけだし、予め必要なお金を用意しておくという準備を怠った結果、カードが使えないお店で恥をかくことだってあるわけだ。

現金を使わない買い物を否定するわけではないし、カード払いが出来るお店がもっと増えれば皆さんに与えられる選択肢は大きく広がるだろう。

ただ、現金払いとカード払いはどちらも一長一短だし、何を選択するかは本人の自由であるべきだ。

新しい選択肢が出て来た時にマナー違反でも何でもない従来の選択肢を選びづらくするようなことをすれば、当然従来の選択肢を選びたい人にとってははた迷惑ということになる。

その結果、新しい選択肢が受け入れられないような状況を生んでしまうことだってあるというのにはた迷惑な行為はかなりの高確率でまかり通っている。

新しい選択肢を取り入れたい、選択肢を増やしたいという思いで例えば……

『制服の自由化』
『学校以外の学ぶ場所の造設』
『夫婦姓自由化』(←これ『選択的夫婦別姓』というと同調圧力によって選択肢を1/2から1/3に狭められるかもと思ってしまう人もいるだろうし、夫婦で新しく名字を作ったり、海外では一般的な2つ以上の名字、現在自民党が提案している旧姓を名乗る自由なども取り入れて欲しいので『夫婦姓自由化』と表現しています)
『同性婚』
etc……

……を取り入れるための活動されている皆さんにお願いがあるのだが、従来のマナー違反でも何でもない選択肢を選びづらくするような行為があった場合は違反報告して頂けるだろうか?

……否、“頂けるだろうか?”と書いた時にそうしなければならないのかと思われる方もいらっしゃるかも知れないから、任意であることを明言させていただこう。

まあ、『自分達の“許せない”を暴走させてはならない』とか、『“親ガチャ”なんて言っている暇があるなら“環境ガチャ”を改善しろ』とか、『街頭演説なんかやめてしまえ』とかそういった記事を書いた僕も一応違法行為や迷惑行為などのマナー違反以外は選べる余地を残して記事を書いたつもりではあるが、もしかしたらマナー違反でも何でもない選択肢を選びづらくしてしまっているかも知れないから、自戒の念も込めてのお願いだ。

……え?まさかとは思うけど、『本当にアニメが好きならフェミニストへの攻撃を絶対に許すな!』をマナー違反でも何でもない選択肢を選びづらくしてしまっている記事だとは思ってないよね?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?