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「他人は変えられない」というけど、自分も簡単に変われない

これまで様々な年代の社会人に対して研修を行ってきましたが、私自身を含め、研修の講師が大好きなセリフが「他人は変えられない」(だから自分が変わりましょう)という言葉です。

これはこれで間違っていないとは思いますが、じゃ「自分が変われるか」というとそんなに簡単に変われるなら誰も苦労しません。

私も昔は研修で「他人は変えられないのでまずは自分が変わりましょう!」なんて力説していましたが、共感する人がいる一方で白ける人も結構いることに気づきました。

ある企業で管理職の方向けに「パワーハラスメント防止」をテーマに研修を行ったときのことです。

研修では「パワハラは許されません」「部下の人格否定はやめましょう」「人を責めずにやったことだけ指摘しましょう」「それでも頭に来たら6秒数えましょう」といったことをお伝えしましたが、受講者の皆さんは「ふーん」「そんなのわかっているよ」という白けた反応でした。

そこで態度に問題のある部下の事例を挙げ、「こういう部下が居たらどうしますか?」と皆さんに尋ねたところ、「コイツは許せん!」「厳しく言わないといけない!」という意見が多く出ました。

今までなら「いやいや、こんな部下に対してもパワハラ的な言動はいけませんよ」なんて正論を言っていましたが、そんな正論は1ミリも響かないという予感がしたので、私はあえて「こういうやつがいたら頭に来ますよね?私もキレると思います」と言いました。

つまり、暗に「自分も変われない」ということを正当化したのです。そのとき、多くの受講者は初めて「そうだ!」という共感を示してくれました。

とはいえ、研修の目的はパワハラ的な言動を止めていただくことなので、次の仕掛けとして「なぜコイツが許せないのか」を考えていただくことにしました。

このとき興味深いことに、事例の部下に対して「絶対許せん!」という人もいれば「ちょっとムカつくけどそこまでは」という人もおり、中には「別に気にならない」という人もいました。

「絶対許せん!」という人に更に問いかけると、「相手の行動が自分の大事にしているもの(例:職場の和)を踏みにじった」ということが根底にあることがわかりました。

すなわち、上司がパワハラ的な言動を取ってしまうのは部下の態度が絶対的に悪いのではなく、部下の態度がたまたまその上司の地雷に当たった、ということです。
逆に「この部下の態度は別に気にならない」という人はたまたま自分の地雷に当たらなかったとも言えます。

しかし、上司自身は自分の中の地雷を自覚していないため、「自分を怒らせるようなことをする相手が悪い」と捉えてしまい、いくら研修でパワハラについての知識を学んでも「自分は変われない」と思ってしまいます。

ここでは「地雷」という言い方していますが、言い方を変えると自分の中のこれを守りたいという「こだわり」やこうあるべきという「信念」ともいえます。

研修では最後に「人は無意識のうちに自分のこだわりや信念に捉われているので、簡単に変われない」ということを紹介し、「変わらない自分が悪い」のではなく、「変わるためには自分の中にある喜怒哀楽のスイッチを自覚して初めて自分をコントロールできる」と伝えたところ、皆さんはようやくパワハラをしてしまう自分に向き合おうと前向きな気持ちになりました。
(「地雷」は喜怒哀楽で言えば「怒」のスイッチともいえます)

自分自身を変えようと思ったとき、外からの刺激を取り入れるものいいのですが、やはり自分自身と対話し、普段自覚していない自分の中にあるものに気づくことが大切かもしれません。

今回もお読みいただきありがとうございました。

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