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秋の夜長の徹夜本【『亡国のイージス』福井晴敏】後編

秋の夜長の徹夜本【『亡国のイージス』福井晴敏】前編 に引き続きこちらの記事でも、私の読書人生において分水嶺となった作品についてご紹介していきます。

既に前編をお読みいただいた方は、このままお進みください。

「まだ」という方は、是非ひとつ前の記事へ。お手間だとは分かっています。でも、やっぱり書き手としては、綴る想いが特別であればあるほど最初から読んで欲しいというのが、隠し切れない本音なのです。

だから。

長い秋の夜の、ほんの数分で構いません。
その時間を私にください。

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『亡国のイージス』福井晴敏


ウィークポイント。弱み。弱点。

散々「好きだ!大好きだ!」と書き散らした作品について、敢えてウィークポイントを挙げるなんて趣味が悪いと眉をひそめる方も、きっといらっしゃるでしょう。
どんな作品であれ、それを紹介するのであれば、優れている点を中心に組み立てるのが暗黙のマナーだと、私だって心得ています。
それでも敢えてこうして書くのは、その弱点すら強みに昇華させる力が『亡国のイージス』にはあると、確信しているからに他なりません。

では、具体的にそのウィークポイントとは…?

◆『亡国のイージス』のウィークポイント

このツイートはかつて私が投稿した『亡国のイージス』の感想の一部。
1年以上前の文章なので、今となっては直視も堪え難いしろものですが、今回の記事における私の主張がぎゅっと凝縮されていたので、恥を偲んで引っ張り出してきました。

ずばり、注目してほしいのは

護衛艦が舞台の物語なので難解な専門用語も多いけど、それで敬遠しちゃうのは本当に勿体ない。

という一文です。

既出の通り、『亡国のイージス』は自衛隊の護衛艦(イージス艦)を舞台にした物語です。
必然的に、紙面の大部分は多くの方にとっては馴染みが薄いであろう自衛隊や護衛艦関連の専門用語で、所狭しと埋め尽くされています。
思わずひるんでしまっても、仕方がありません。
私自身の初読時を振り返ってみても、紙面から発せられる圧力のせいで、特に序盤は何度も心が折れそうになりました。

加えて、『亡国のイージス』は物語が動き出すまでが、かなり長い。

一度最後まで読み通してしまえば、その“動き出すまで”の長丁場が物語にとって重大な意味を持つことも察せられるのでしょうが、初めて読む方にとっては全く知りようのない話です。
ただでさえ難解な専門用語が多い上に、読んでも読んでもなかなか物語が動かないとなれば、次第にページを捲る手も重くなるのも道理。他の本に興味が移ってしまい、それっきり…なんてことになってしまったとしても、ファンを自認する私でさえ驚きません。

驚きませんが、ただ、じりじりと胸の奥が焦げるのです。「勿体ない」という、その一心を火種にして。
こんなに面白い物語を、読まない/途中で読むのを止めてしまうなんて、ただただ勿体無い、と。

やっぱり、私は熱烈なファンですから。

多少押しつけがましくなったとしても、たくさんの方に自分の好きな作品を楽しんで欲しいというのが、正直な気持ちなのです。

読んで欲しいと書きながらウィークポイントを晒し、ウィークポイントを晒しながら読んで欲しいと書き募る。

我ながら矛盾していると呆れる一方で、今、少しゾクゾクしてもいます。

前述した通り、私は‟その弱点すら強みに昇華させる力が『亡国のイージス』にはあると、確信して”います。
それをファンの妄言、と切り捨てることは簡単ですが、では、今これを読んでくださっているあなたに、そういう作品はありますか?

少なくとも、今こうして『亡国のイージス』についてその弱点含め語りつくしている私は、とても幸せな気持ちでいっぱいです。


◆ウィークポイントを逆手にとった楽しみ方

ここまでの内容を踏まえ、『亡国のイージス』について可能な限り簡潔にまとめると、こうなります。

①難しい ②(物語が動き出すまでが)長い
③でも抜群に面白い

以上の3点を踏まえた上で、改めて、私は『亡国のイージス』を激推しします。

とは言え、闇雲にオススメするだけであればここまで長々と書いてきた意味がありませんし、そもそも『亡国のイージス』ぐらい規格外の作品になると、人によって合う/合わないの差も大きいでしょうから、少しぐらいターゲットを絞った方がこれから読んでみようか逡巡している方にとっては、親切なのかもしれません。

だから私は敢えて、大好きなこの作品をカテゴライズすることにしました。

もうお分かりでしょうか?
そう、私は《秋の夜長のお供、つまり一気読み必至の徹夜本》という括りにおける最高にオススメの一冊として『亡国のイージス』を挙げたいがために、駄文を撒き散らしながらここまで突っ走ってきたのです。

『亡国のイージス』は、超が付くほどのスロースターター。
序章だけで冒頭の約90ページを費やし、本編に突入してからも難しい話が続くばかりで、物語が本格的に動き出すには結構な時間がかかります。

もし、あなたがお仕事や私生活の関係で毎回少しずつしか読書の時間がとれないのであれば、『亡国のイージス』を手に取るのはまた別の機会にしたほうがいいかもしれません。
それはそういう読書スタイルを否定したいからではなくて、先の段落でも書いた通り『亡国のイージス』が‟ただでさえ難解な専門用語が多い上に、読んでも読んでもなかなか物語が動かない”という特殊な構成だからです。
いくら私のような既読の人間が「その部分が大事になんです!頑張って読み進めてください!もう少しで面白くなりますよ!」と鼓舞したところで、実際にモチベーションを維持するのはなかなか難しいのではないでしょうか。

逆に、秋の夜長に徹夜してでも読み切りたくなるような超大作を探していて、現実的にその時間が確保できそうな方には、迷うことなく『亡国のイージスを』をオススメさせていただきます。

『亡国のイージス』は超が付くほどのスロースターターですが、一度物語が動き出してしまえさえすれば、その先に待っているのは序盤の‟静”が思わず懐かしく感じられるほどの激動の展開ばかり。
そしてその序盤さえ、物語を読み終える頃には「なくてはならなかった」と抱きしめたくなるような愛おしさを帯びて、心揺さぶる終幕へとなだれこみます。
一般的にミステリーの代名詞である伏線が、この作品内においては、熱く切ない人間ドラマの鍵としても非常に効果的に張り巡らされているのです。
それはもう、最後の最後にまで。

難しくて、長い。一見ウィークポイントのようなそれこそ、『亡国のイージス』の最大の強みだと私は断言します。
その強みは、秋の夜長と称される今の時期に読むことでさらに強化され、そして――…。

上下巻で1100ページを超える超大作だからこそ擁することが許された壮大なカタルシスを、是非『亡国のイージス』で堪能してください。

◆《秋の夜長の徹夜本》について

一口に「本」、と言っても、千差万別。実にいろいろなタイプの本が世の中にはあり、その分類も様々です。

私は今回、《秋の夜長の徹夜本》という基準で『亡国のイージス』を紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?

もちろん、この記事内での《徹夜本》とは言葉の綾であり、「絶対徹夜して読んでね!」と強制するものでは一切ありません。

ただ、せっかくの秋──読書の秋なのです。

秋の夜長にいつもより少し夜更かしをして、本の世界に没頭してみるのも悪くないかもしれません。

その結果、気が付けば朝を迎えていた…なんてことが、

あるかどうかはあなた次第です(^_−)−☆



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