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八百屋の大将から教わったこと

昨年の9月まで約2年近くアルバイトを続けた商店街の八百屋。

身体を壊してあまり食事が摂れないけれど。けれど、食べないと死んでしまうのであれば、せめて美味しいものを食べたい。そんな気持ちでふらふらと美味しい食材を求める旅(散歩)をしている中で出会った八百屋さんでした。

「ここだ」と直感で思った私。

じゃがいもの品種“インカの目覚め“を毎日買い、通い詰めること1週間。顔を覚えてもらっただろう、と勝手に思った段階で満を持して大将に言った

「ここで働かせてください」

の言葉。まるで「◯と千◯の神◯し」の主人公のように願い出ることから始まったことは何度かnoteで執筆してきました。(大将は私のこと覚えていなかったそうです笑。奥さんは最近よく来る子、と認識してくれていたみたいです)

願い出たのが、大学4年生の11月。

体調や一度卒業した関係で正式に2年間ではありませんが、自分が想像した以上には続けたアルバイトだなと思っています。

しかし、今こうしてあの頃の身体的・精神的状況を鑑みると。正直よく続けられたな、と思う自分の状態。間違いなくその裏側に存在した八百屋の大将と、そして大将の奥さんの支えがあってこそだったと思います。

今回はそんな大将から教わったこと、背中を見ていて学んだことを自分の心が忘れないように。そしていつでも思い出せるように残しておこうと思います。

①無理なことは「無理」としっかりと伝える

「体調が良い時と悪い時があります。だから◯時~◯時と時間が決まっていたり、シフト制で日程が決まっているのが苦手です」

本当にバイトをしたいのかしたくないのか分からない文言を「働かせてください」に続けて申し出ていた私。

(身体が万全ではないけれど、とにかく働かないとと駆り立てられていた私。八百屋以外にも幾つかバイトに申し込んでいました。しかし、学年的にも勤務可能日数的にも断られ続きだったので、働きたいけど、私が働いて迷惑をかけてしまうなら…と思って伝えるようにしていました)

そんな私に大将が言った言葉。
「君が野菜が好きなのはよく分かった。そうしたら、今は名前を聞かないでおくね。もし、本当に来たいと思ったら。とりあえず9時頃にお店に来てみてね」

願い出たその日に名前を聞かない優しさで応えてくれた大将。心が大丈夫と言ったので翌日9:00に向かった私に、約束通りそこで大将は名前と電話番号を聞きました。

もし嫌だったら引き返せる選択肢を。無理だったら無理をせずやはり勤務しないという選択肢を作ってくれたことに当時の私は凄く救われた気持ちでした。

「9:00にきても、10:00に来てもいい」

と時間という縛りを緩めて心を軽くしてくれたこと。
“来れた日にカレンダーに来た時間を記入する方式”によってその日の気分や体調で行けるかを尊重してくれたこと。    

今でも頭が上がらない想いです。

行けなくても責めず。来れた日には何も変わらず
「おはようございます」から始まり、仕事をくれたこと。

相手に無理強いをしない。
そして自分自身も無理な時は言う。
顔を見ても分からないからそこは言葉で示す。

そんなことを教えてくれました。

以来、出来ないこと、抱えきれないことに「NO」という選択肢を持てることを知りました。

②政治・宗教・仕事・家族の話は持ち出さない

これは、袋詰めなどの裏作業からレジ周りを任されるようになった時に言われた言葉です。

お客さんと商売と関係ない話を少し会話をすると、心がお互いほぐれることがあること。(個人で何か商売をする時は特にだよ、とも)

そんな理由から、お客さんとの何気ない会話を心掛けるようにと言われました。

けれど、その話の中で。と続けた大将。「“政治、宗教、家族、仕事”。この4つは相手から話題を振られるまでは聞いてはいけないよ」そう言いました。

この4つは特に個人によって聞かれたくない人、深入りされたくない人がいるからね。筧さんがご飯のことを聞かれると困ってしまう感じかな」

あぁ、そういうことか。パーソナルなところに土足で踏み込まない、距離感を保つ。

言うだけでなく、実際にお客さんとの距離の温度感を大切にしていた大将。間が持たない時は“天気の話”で相手との距離感を図っていました。

「今日は少し肌寒いですね」
「今日はポカポカしていますね」

誰も傷つけず、誰もが安心して話せる話題。人との距離を考える上で今もすごく学びになっています。

それは私に対しても同じでした。就職せず、そのまま4/1になっても朝八百屋に来る私に対し、何も聞かずに「おはようございます」から受け入れてくれました。

③自分の技術に正当な価格設定をする

おむすびを初めて販売する前に教わったこと。

「ところでおむすびは1個いくらくらいで販売するの?」

と何の気なしに聞いてきた大将。

「えっと.....250円くらいです....」と答えました。実際にその値段で販売しようとしていたからです。

ただ原価を考えると。自分でお米の品種や割合をしたこだわりを考えると。正直もう少し値段を上げたかった私ですが、何せ初めて自分が生み出すものに対して行う価格設定。
少し、いや結構低めに設定していました。私の雰囲気からそれを察したのでしょう。大将は言いました。

「値段を下げることはいつでも、いくらでもできる。だけど、自分が拘りを持って取り組んだなら。相応の値付けをしないといけないよ」

価格はいつでも下げられる。自分の技術に対して値付けをすることに尻込みしない。

価格で自分を低く見積もる必要は無いんだ、と知ることができた言葉でした。高いと感じた人は、たまたまお客さんではなかっただけで。その価格で購入し、価値を感じてくれる人が貴方のお客さんだよ。

初めてのおむすび販売前に大将のこの言葉があって良かった、そう心から思います。

④win -winの関係を意識する

無理なことに対して「無理」という、の部分で大将は無理強いをしなかったと記しましたが正確には「win-winを踏まえて無理強いをしなかった」という表現が妥当です。

実際は「来週の水曜日、子供の運動会で奥さんが午前中に来られないから少しの間だけでも来れたりする?」などのお願いを受ける場面もありました。

必ず1週間以上前に言ってくれていたこと。私も来れない時は来れないと言える聞き方でいてくれたこと。
必ずwin-winとお互いの尊重を感じられてので基本的に断ることはしませんでした。

大将は常にwin-winを意識していました。どちらかと言うとgiverではあるけれど、takeも意識する。そんな人でした。

かなり質の良い野菜を置いていたので、飲食店の店主の方も良く買い物にいらしていたのですが、買ってくださった店主のお店には事あるごとに食事に行っている様子でした。

少し忙しそうだな、と思い「あと1時間どうせ暇なんで働けます」と言った私に帰りにフルーツをたくさん持たせてくれたこともありました。

クリスマスになぜか八百屋に来た私の兄と私にクリスマスだから、といちごを1パックずつくれました。

もちろんここの野菜が好きだった私はちょこちょこ買い物もしていましたが、「ありがとう」と毎会計時に言ってくれました。

しかし、一方で市場の卸で押し付けられるように商品を買わされた、と言っていた日にはその業者の方に連絡をし今後は取引をしないことを明確に伝えていました。

常に対等である。
恩を受けたら自分にできる形で返す。
相手の技術に対して支払う。

win-winでいること、心掛ける大切さを学んだ気がします。

今でもたまにお店に遊びに行くと当時と何も変わらず接してくれる大将と奥さん。
(ただ、勤務していた時はちょこちょこ怒られてもいたので、今の方が優しくて程よい距離感がちょうど良いです笑)

本当に沢山のことを教えてくれて。
背中で見せてくれました。

きっと企業に入社することで知れる世界とは少し違っていたかもしれません。

けれど、1人の人間として。
そして1人の商いをする人間として何が今後大切か。

それを初めて知ることが出来たのが大将からで。
この八百屋でのアルバイトを通じてで、良かった。

何度未来から過去を振り返ってもそう思うに違いないです。

働き始めた頃。
にんじんを500g量って袋詰めしています。

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