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桃太郎という名の天才。

つまり、善悪はさておき、「時代を進める人物こそ天才」というイメージがあったということです。そして、「流星の如き」と表現されるように、刹那的なもので消えゆくものなのです。


【#168】20211215


人生は物語。
どうも横山黎です。

作家を目指す大学生が思ったこと、考えたことを物語っていきます。是非、最後まで読んでいってください。

今回は「芥川龍之介が描いた桃太郎という名の天才」というテーマで話していこうと思います。

前回、前々回の話の続きとなりますので、未読の方は、是非、そちらからお読みください。


☆どうして巨大な桃の木?


芥川龍之介の『桃太郎』は、「どうして川上から桃が流れてきたのか」「どこから桃はやってきたのか」という疑問と向き合い、雲よりも高い巨大な樹の枝に成った桃を、ヤタガラスが落としたという神話的な世界観のシーンから始まります。


もちろん、桃の出どころの謎について真摯に向き合おうとしたからではありますが、どうして巨大な桃の木を登場させたのでしょう? 他にもいろいろなストーリーがつくれそうな気もします。


神話的なストーリーから始まるのには、何かしらの理由があるはず、そうは思いませんか?


僕が調べる限り、なるほどなあと思ったのは、「旧天皇制に対する批判を示唆する」ためという説です。


本文には次のような文章があります。

この桃の根は大地の底の黄泉の国にさえ及んでいた。何でも天地開闢の頃おい、伊弉諾の尊は黄最津平阪よもつひらさかに八つの雷を却けるため、桃の実を礫に打ったという、その神代の桃の実はこの木の枝になっていたのである
(引用」芥川龍之介『桃太郎』)


お察しの通り、ここでは古事記のエピソードを挿入しているんですね。黄泉軍を桃で追い払ったあのエピソードと繋がることで、読者に古事記を意識させることになります。



これがなんで、旧天皇制の批判の話になるかというと、当時の日本には、国家神道という思想がありました。天皇の祖先は天照大神で、特別な血を継いでいる日本は、日本人は他の国や民族よりも優れていると刷り込まされていたんです。

戦争期であれだけ国民が一致団結できたのも、この思想が当たり前のようにあったからだと考えられます。戦後に昭和天皇が人間宣言をしますが、僕らからしたら「え?」って感じですよね。いや、それ宣言しないと分からないことだったの?って思っちゃいますよね。でも、当時の日本人は人間宣言を受けて、国家神道から解放されることになるわけです。


このような歴史をふまえると、芥川がここで古事記の世界を融合させたのは、国家神道に基づいた旧天皇制に対する批判を示唆するためであり、そこから派生した帝国主義、さらには軍国主義を批判するための仕掛けだったと考えられるわけです。



しかしですね、前回の記事の最後でも共有した通り、この物語の最後では桃太郎を「天才」と表現しているんです。


殺戮を行った桃太郎を「天才」と呼んだんです。


なぜでしょう?


 人間の知らない山の奥に雲霧を破った桃の木は今日もなお昔のように、累々るいるいと無数の実みをつけている。勿論桃太郎を孕んでいた実だけはとうに谷川を流れ去ってしまった。しかし未来の天才はまだそれらの実の中に何人とも知らず眠っている。あの大きい八咫鴉は今度はいつこの木の梢へもう一度姿を露わすであろう? ああ、未来の天才はまだそれらの実の中に何人とも知らず眠っている。……
(引用:芥川龍之介『桃太郎』)



☆桃太郎という名の天才


芥川龍之介の『桃太郎』の「天才」の要素だけ抜き取って書かれた論文があったので、それを参考にしつつ説明していきますね。

※渡部麻美「芥川龍之介『桃太郎』――天才と圧政者」


そもそも、天才とは何でしょう?どんな人のことを指すのでしょう?


いろんな定義の仕方があるかと思いますが、ここでは「人類の進歩に如何に多大な貢献」をなす「偶々地上に現れて忽然と消え失する流星の如きもの」と定めることにします。


イタリアの医学者ロンブローゾの『天才論』という書物があり、その思想が、明治末から大正にかけて流行したらしいんですね。文学界にも影響を与え、芥川もそうだといいます。今回の天才の定義も、ロンブローゾの思想に基づいたものです。


つまり、善悪はさておき、「時代を進める人物こそ天才」というイメージがあったということです。そして、「流星の如き」と表現されるように、刹那的なもので消えゆくものなのです。



これらをふまえて、芥川の『桃太郎』のメッセージは何なのか、まとめていこうと思います。


何度もいうように、この物語の桃太郎は「悪」の存在として描かれています。犬、猿、雉を連れて鬼たちを退治しにいくわけですが、やりすぎ感が否めません。鬼ヶ島の惨劇からは、大義のない暴力や圧政、戦争への懐疑的な姿勢がみえてきます。


しかし、時代は止まらないのです。新時代を築き上げる英雄の登場を待ちきれないのです。関東大震災、恐慌、経済不況、多くの辛苦に耐えながら生きていた当時の人々にとって、善悪ではなく、新しい時代を切り開く存在に重きが置かれていたのです。


芥川龍之介は、帝国主義や旧天皇制、圧政、侵略行為を批判する姿勢をとりつつも、桃太郎のような圧倒的な英雄の登場を期待せずにはいられなかった当時の空気と、人々の心を、この物語に込めたのではないでしょうか。



☆時代を見つめてつくる『桃太郎』


三回に渡って芥川龍之介の『桃太郎』について見てきました。当時の時代観を丁寧に組み込んだ作品だったと思います。


これまでにも『桃太郎』について紹介してきました。時代によって求められる物語が違って、ひとつの民話が再定義されたり、再構築されたり、多種多様に変身してきたことを物語ってきました。



僕は今、新しい桃太郎をnoteで共同制作しようという企画を進めていて、今、そしてこれからの時代に求められるヒーローを描こうと考えています。過去、今、未来の繋がりを意識しながら、紡いでいこうと思います。

「共生」をテーマに、『桃太郎』を一緒に作り直してみませんか?


興味を持たれた方は、是非、下のマガジンを覗いみてください。


最後まで読んで下さりありがとうございました。
横山黎でした。



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