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高嶺の花になりたかった

私が大学生で風俗のアルバイトを始めたての頃に
スタッフさんに言われた言葉を今でも覚えています。

「大学でどんな風に周りに思われたいですか?」

えええ
私なんか普通で平凡な素朴なただの学生ですよ!?
と思っていましたが

そのお店は今思えばバックが他店も比較しても低く
けれど始めたての私は、ソープやヘルスなど職種さえ分かれているのも知らない無知な奴だったので、1時間◯千円の手取りに驚愕していました。

そんな風俗業界のザ・高収入!な部分に触れてしまった頃だったので、内心震え上がっていました。

けれど、就職活動はガチ勢の私だったので
(自慢ではありませんが、これでも数多くの就職合戦を潜り抜けた来た身なので、人にアドバイスできるほどの知識はあるのです)
卒業までで業界に見切りは付けるべきと、
それが当たり前だと、
一般的なアルバイトも卒業したら去るように、風俗も期間限定のバイト程度だと初めの頃は思っていました。

だから、スタッフの方にそう尋ねられても困惑します。



所詮こんな私なのよ、こんな華々しい高収入の世界からはすぐに姿を消す身。
それもお水のお仕事って人気商売だから、初めだけでしょ。予約取れないの。私もその中の、いわゆる時の人のひとりだわって...そんなイメージでした。

その頃は無知だけど、人気商売だから才能が無いと食えないし生きていけないだろう、とか。
本業にするには厳しすぎる0か100かの世界というイメージだけは、心の中に秘めていました。

だからこそ、もし風俗業界でご飯を食べていくにしても、スタッフにならなければ駄目だと勝手に思っていました。
風俗のスタッフさんのお仕事っていいなぁ...とか、本気で思っていました。


生き方に「安定」を求めていました。


結局私は何も言いませんでした。
他、何を言われてもずっと謙遜していました。

ですが未経験の頃は
新人割でネット指名があるだけで心が跳ね上がり
「私に指名!?えっ嬉しい!!」と純粋に喜びました。
それが本指名に繋がると尚更心が喜びます。

新人狙いとか、業界完全未経験だから指名とか、初めの頃はそんなこと思いもせず、経験を積み重ね、知らず知らずのうちにカラクリを理解する事になるのですが...



そんな私、まだ見窄らしい、良い風に言って初々しい。


だから一刻も早く抜け出さなければならない危険な業界なんだと、心に言い聞かせていました。

風俗スタッフと深く交流するな。相手はアッチ系の怖いお兄さんかもしれない人なんだぞ。
って...
ごめんなさい、業界の世間の怖いイメージを意識し過ぎて、スタッフの方をずっと警戒していました。

だから余計に緊張感がありました。
黙りこくる私に、スタッフの方が言いました。


「高嶺の花になりたいですか?」


大学4年生、最後の大学生活。
残るは就職活動と卒業論文のみ。



私には納得する青春がたしかにこの手にあったはず。

ちょっとだけ素敵な恋愛もした。

勉強も頑張った末、専門学校から大学に編入まで叶えた。

就職活動で挫折を味わった。

海外でバックパッカーになって1週間暮らせた。




---けれど私はずっと人の影に隠れて生きてきた。




多分私は、私の好きな私になりたかったんだな。


高校生で引きこもり時代に色々想像してきたが私は、
多分もっと自分の良い所を自分で理解していて、それを周囲に見られたい、でしゃばりさんだったはず。


歌を歌いたい、絵を描きたい。

ちょっと芸能的な、独創的な自分を見せる場所が欲しかったんだと。

けれど勇気が無くて、ずっと手が届かなかった。

私と同じくらいの歳の子なのに、ブランド物いっぱい身に付けて繁華街の街を堂々と歩く女性。

私も、この業界に選ばれる人になりたかったのかも。


あまりにも現実を直視し過ぎて、未来に希望が持てない。
自分の将来を自分が描けない。

数える程、私には思い出があったはずだった。
でも、私には一体あと何が手元に残る?

卒業後の自分の未来に納得が出来なくて、でも一歩踏み出すのも怖くて、自分の心の世界に閉じこもる。

きっと誰かに背中を押して欲しかったんだな。



私も、夢に生きてみたかったんだな。




「経営者はギャンブラーなんですよ。このお仕事も同じかもしれません。でも、案外どうにかなるものですよ」

これは私がいちばん初めのお店で接客をした、最後のお客さんが語った言葉です。

多分、私は相当悩んでいたのかもしれない。
だから私が口開く前に突然、お客さんが語り出すから、私の顔に色んな迷いが出ていたんだなと思いました。


「私、ソープに行くんです。この業界で働くからには、最後までするという所までやり遂げたいんです」

と私はお客さんに言いました。

今思うと正義の中毒のような発言なのかもしれませんが、
強要を断れないなどの様々な理由が私にはありました。

だからソープに挑戦するときに、そのお客さんからは延長と、違う地域でも頑張れのお言葉と、少し多めのチップを頂戴しました。



結局、単位も内定も全部得てしまったので、卒業後まで大学にはほとんど行かなくなってしまったのですが、私はそれで満足でした。


文句を言われない程度にやるべき事を終えたつもりです。
今私に必要なのは、教養ではなく人生の生き方だ!と...
単位は全部習得済みですが。

だから私は学校よりこのお仕事を優先しました。



生き方を学ぶために。
自分の生き方を再確認するために。



高嶺の花、良い響きです。
この言葉、ずっと胸にしまっておこうと思います。

だから私は大学では、私は胸を張って、凛とした表情で、前を向いて歩いていました。

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