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過去の研究を活かして未来の技術を切り拓き、水産業界の発展を推し進める(グループリーダー ハットリヒカルドショウヘイ)

「これまでの研究を社会に役立てられることにやりがいを感じています。新しい技術を使って、日本全体の水産業を盛り上げていきたいです。」
そう話すのは、ブラジルと日本を股にかけて水産業界の発展に貢献し、リージョナルフィッシュに参画して間もなく魚類育種グループリーダーに抜擢されたハットリヒカルドショウヘイ。
社員インタビュー第五弾では、これまでの経験と豊富な知識でリージョナルフィシュの魚類育成を牽引するハットリさんに、同社への参画理由や研究におけるやりがい、執筆論文の裏話、日本の水産業界の課題、今後の展望について聞きました!
※取材当時の内容となるため現在の肩書・業務内容と異なる場合があります。

ハットリ ヒカルド ショウヘイ
サンパウロ大学を卒業後、東京海洋大学博士課程を修了。東京海洋大学で博士研究員まで務めたのち、ブラジルの農務局に就職し魚の研究と養殖に従事。招聘教授として再来日し、東京海洋大学にて研究および学生の指導に携わる。2021年4月にリージョナルフィシュに参画。現在は魚類育種グループリーダーとして、魚類育種研究を牽引する。

「多種多様な魚と触れ合える環境から、魚への興味が深まる」

ーーーよろしくお願いします!はじめに、ハットリさんのご経歴を教えてください。

私は生まれも育ちもブラジルで、大学までブラジルで生活をしていました。親に連れて行ってもらったことをきっかけに、小さなころから釣りをするのが好きで、家から車で10分ほどの距離にあるイグアスの滝の近くでよく釣りをしていました。次第に父親よりも自分の方が夢中になって、最終的には朝3時に起きて友人と釣りに行ったこともありましたね。
日本では、一つの場所で釣れる魚種はある程度限られますが、ブラジルでは、一つの川でも20~30種類の魚が釣れるような環境だったので、何が釣れるのかがわからない状態でした。大きさに限らず色や形も様々なので、竿を上げる度に、何が釣れるだろうかとワクワクして、とても楽しかったことを覚えています。小さい魚は家に持ち帰り、飼って繁殖させてみたり、大きい魚はその場で焼いて食べたりもしていました。家の水槽で飼っていた魚が犬に魚を食べられてしまったことがあったので、今度は木の上に水槽をおいて育てていたら、結局鳥に食べられてしまったこともありましたね(笑)でもそれも含めて全ていい思い出になっています。
魚は小さなころから身近な存在だったので、大学でも魚類を専門にした学部がないか色々と探したのですが、見つけることができなかったので、サンパウロ大学の生物学部に入学しました。生物学部では授業の幅がとても広かったのですが、魚を釣るのも食べるのも飼うのも大好きだったので、徐々に魚の方で専門知識を積み重ねるようになりました。一つだけ魚の遺伝子について研究している研究室を見つけ、そこに大学3年生の頃から足繁く通っていました。研究のために、目的の魚を獲りにブラジル中をあっちこっち駆け回る学生時代でした。

大学を卒業する頃には、さらに深く魚、特に魚の繁殖について学びたいと思い、そのためには海外に行くしかないと、大学院に上がるタイミングで日本に来ました。留学先を考えるときには、日本かカナダかで迷いましたね。カナダはサーモンの研究が進んでいて、当時一度行ったこともあったので選択肢に入れていたのですが、両親が日本人であることと、当時のサンパウロ大学水産学部の学部長が東京水産大学(現・東京海洋大学)出身の日本人だったということもあり、日本の東京海洋大学に入ることを決めました。在籍した研究室では、南米原産の魚・ペヘレイの繁殖生理学について研究をして、修士課程、博士課程を修了、後に博士研究員として、「ペヘレイの性決定遺伝子」を発見しました。「性と水温の関係」についての研究を通して、後にヒラメの性決定遺伝子も発見しました。
再びブラジルに戻り、ブラジルの農務局で研究を続けました。大学で研究していたペヘレイ類から魚種は変わり、ニジマスなどのサケ科魚類を主に扱っていました。そして、招聘教授として再来日し、東京海洋大学での研究期間終了後、2021年4月にリージョナルフィッシュに入社しました。

ーーーハットリさんは多くの論文を発表されているとのことですが、そちらについて聞いてもいいですか?

大学とブラジルの国立研究所で行った研究から得た成果について、論文をいくつか書きました。詳細な数は今パッと思い出せないのですが、恐らく40本くらいは出していると思います。
私が最初に日本に来た当時は、世界中の研究者が「魚の性を決める性決定遺伝子」を探している、というゴールドラッシュのような時代で、私もペヘレイからその遺伝子を探す研究をしていました。修士が終わってもこれといった成果がなく、カナダに留学した方が良かったんじゃないかなんて思ったこともありました(笑)教授に「もう少し頑張れ」と励まされ、研究を続けながらも将来進む道の方向性について考えていた時に、ちょうどその性決定遺伝子が見つかったんです。メダカやヒトやアフリカツメガエルは遺伝子が似ているのですが、その時見つかったペヘレイの性決定遺伝子は、それらとはちょっと違う遺伝子でした。そのため、研究成果を発表した学会などで、「このデータはおかしい」と批判されることもありました。この性決定遺伝子を発見したのは2006年のことになりますが、それからも研究を積み重ねて、実際に論文として発表できたのは2012年でした。6年かけて追加実験や、論文を書き直したおかげで、PNASというアメリカの学術雑誌に論文を掲載することができました。PNASに魚類の研究成果が掲されることは珍しいため、この研究にはそれなりのインパクトを持たせることができたのではないかと思います。

「自身の研究を学術論文として終わらせるのではなく、技術として直接社会に還元したい」

ーーーアカデミアで活躍されていたハットリさんが、リージョナルフィッシュへの入社を決めた理由は何だったのでしょうか?

自身がこれまで積み重ねてきた知識や経験を活かしながら、社会の役に立つことができると思ったからです。
サンパウロ大学に通っていたときに、研究には社会からのフィードバックがとても重要だということを教授から聞いていました。アカデミアでは、基礎研究や応用研究を通し研究能力を鍛えていきますが、最終的に論文を出すことを目的としています。しかし、教授の話もあってか、私自身の中で、これまでの研究を活かして、社会へフィードバックをしたいと大学院の頃から考えるようになりました。
ブラジルのサンパウロ農務局で研究をしていたときには、研究と並行して、ニジマスやサーモンの種苗生産・販売も行っていました。そこで養殖業者の方ともコンタクトをとるようになり、その過程では養殖業者のニーズに応じる形で研究を進めることもありました。産卵期をずらすことで、通常卵を得られない時期に卵を産ませるようにしたり、不妊魚という繁殖できない魚を作ったりしました。また、ブラジルは気温が高いので、高温耐性のある系統魚を作る研究も行いました。このような実用的な研究をしていく中で、私の研究が直接社会に還元されていくことに満足感や達成感を覚えるようになりました。
そんな中、日本に戻って研究をしていた時に、リージョナルフィッシュの公募を見かけ、リージョナルフィッシュが目指していることと私がやりたいことがすごくマッチしていることに気付き、シナジーを感じて応募をしました。入社後は、自分が持っていた知識や経験がすぐに活かされましたし、私のために用意されていたポジションなのではないかと思えるほどでした。 

あとは、私と仲のいい共同研究者が木下先生(現・リージョナルフィッシュCTO)の研究室で研究していたことも一つの要因です。一度ブラジルに帰った時、アルゼンチン人の共同研究者からゲノム編集について習ったことが、自身がゲノム編集を始めるきっかけになったのですが、彼は木下先生のラボで、荻野(現・リージョナルフィッシュグループリーダー)や岸本(現・リージョナルフィッシュ研究開発部長)などリージョナルフィッシュの初期メンバーと研究をしていたんです。このような繋がりに縁を感じたことも大きいですね。

ーーー現在、リージョナルフィッシュでハットリさんはどのようなことをされているのでしょうか?

フグやマダイを始めとした10種類程の魚類を扱い、ゲノム編集技術を使って高速に成長させる研究を行っています。開発期間は魚によって異なるので、一種類ずつ進めるのではなく、同時並行で複数の魚類の研究を進めていくことで、スピーディーに成果を出せるようにしています。あらゆる技術を使って、高速に優良品種を作成していくことがグループとしての目標です。

私自身は、サーモンやニジマスなどのサケ科魚類をメインに扱っています。研究分野としては遺伝学で、温度耐性やストレス耐性について研究を重ねています。最近では温暖化や異常気象などを背景に、高温耐性のある魚に対するニーズが高まっているので、温度ストレスに強いマスやサーモンを作っています。他には、代理親魚技術や不妊化などの繁殖バイオテクノロジーをゲノム編集に上乗せして、品種改良を加速させながら、新しい手法の開発や基礎研究を行っています。
また、新しい養殖設備の設計・拡充についても担当しており、海外からの水槽等の輸入などにも携わっています。

現在は、研究だけではなく色々な仕事を経験することができ、さらに私が積み上げてきた研究に関する知見を日本の水産の育種に役立てられていることにとてもやりがいを感じています。日本とブラジルで研究を続けてきたペヘレイやサケ、マスといった魚種だけではなく、リージョナルフィッシュで幅広く日本で食される魚種の育種に直接携われていることが楽しいです。これまでアカデミアで培ってきた技術やノウハウが社会のフィードバックに活かせていることが何よりの喜びです。

「オープンイノベーションがリージョナルフィッシュの研究開発の推進力に」

―――社会に必要とされる魚を生み出しているんですね!アカデミアで長く研究をされてきたハットリさんが感じるリージョナルフィッシュの魅力は何でしょうか?

スタートアップ企業ならではのスピード感と、オープンイノベーションによって広い視野を持って研究に臨めることだと思います。
スタートアップは、研究開発のスピードが事業を左右するので、アカデミアと比べて2、3倍くらいの速さで進んでいきます。入社当初は、時間軸がアカデミアとはこれほどまでに違うのかと驚きました。
また、梅川(リージョナルフィッシュCEO)がオープンイノベーションと掲げている通り、たくさんの企業と共同研究をできるのが、他の民間企業とは違う、リージョナルフィッシュならではの強みだと思います。特にアカデミアでは、研究室ごとに独立するきらいがありますし、ラボの先生の研究目標が優先されがちなので、どうしても研究に偏りが出てしまいます。だから、オープンイノベーションは、リージョナルフィッシュに入って初めて実感できました。リージョナルフィッシュに出資してもらっている企業はレパートリーに富んでいるので、多種多様な方々と一緒に研究ができるとても貴重な機会となっています。アカデミアでは得られなかったインプットや刺激をもらえる新鮮な環境で研究できるということがリージョナルフィッシュの大きな魅力です。

現在出資企業とともに、水を一切変えずに魚を飼えるようにする完全閉鎖循環システムについての研究も進めています。私の得意分野は、ゲノム編集やバイオテクノロジーを利用して、出来るだけ早く新たな品種を作るソフト面ですが、出資企業の強みを活かして、ハード面である水槽のシステム構築についても携われることは、オープンイノベーションを体現した事例だと思います。日本企業は、北欧や北米とは比べ物にならないくらい陸上養殖のインフラが追いついていないので、全く違う分野の方からインプットをもらいつつ、インフラ整備に尽力できることは非常に有意義だと感じています。

―――研究がしやすい環境が整っているんですね!ハットリさんが考える日本の水産業の課題は何でしょうか?

やはり、陸上養殖のインフラ整備が追いついていないことだと思います。もちろん取り組んでいる企業はありますが、北米や最近伸びている中国のスケールと比べてしまうと遅れている印象を受けます。日本はこれまで海面養殖に力を入れていて、陸上養殖は試験的にしか行われていなかったのが原因だと考えています。
ただ、ゲノム編集した魚は、海面ではなく、陸上で飼う必要があります。そうすると設備を整える必要がありますが、初期費用やランニングコストが低いものでないと成り立ちません。日本では陸上養殖をメインに据える企業が少ないこともありますが、水槽一つにしてもとても高価ですし、少子化によって人件費も上がってきているので、ものによっては輸入に頼ったりしながら急いで環境を整えています。魚を飼うためには、ただ水槽があればいいという訳ではなく、それぞれの魚種にあった飼育システムを考えなくてはなりません。これらをリージョナルフィッシュと他企業が組んで開発をすることができれば、大分効率が上がりますし、コスト削減も叶うので、日本の水産業をより盛り上げることに繋がるのではないかと考えています。

「リージョナルフィッシュが技術開発面を推し進めることで、日本の水産業界を盛り上げていけたら」

―――ハットリさんは、今後リージョナルフィッシュでどのようなことに取り組みたいと考えていますか?

 私がこれまでに作った高温耐性のあるニジマスは、ゲノム編集によるものではなく、エピジェネティクスという技術によるものです。今後は、ゲノム編集だけでなく、様々な技術をリージョナルフィッシュで開発して、出来るだけ早く市場に出せる品種を作る研究を進めていきたいと思っています。
また、リージョナルフィッシュの目標として、日本の水産業を盛り上げていきたいですね。オープンイノベーションの名の通り、大学や民間企業など垣根を超えて研究を進め、日本全体を巻き込んでいけたらと思っています。現状のルールでは、ある県が作った魚を他の県で育てても、ライセンスなどの関係から、他県で販売することはできなかったりします。そのため、企業や公的機関ごとに孤立してしまいがちなのが、日本の水産業の進歩を遅くしてしまう原因なのではないかと思っています。だから、それぞれの立場を尊重しながら、様々な企業や公的機関が手を取り合って研究開発を進めていけるようになれば、日本の水産業がもっと活発になるのではないかと思っています。そんな中でリージョナルフィッシュが技術開発の部分を担っていけたらいいですね。

―――とても素敵な構想ですね!今後はどのような方と一緒に働きたいですか?

やはり、魚類育種のグループリーダーとしては、魚が好きな方と一緒に働きたいですね!もちろん技術面も大事ですが、最終的に魚が死んでしまっては元も子もないので、本当に魚が好きで、魚をよく観察できる人であってほしいと思います。生き物を扱うのはとても難しく、一見すると同じようでも見るたび毎回何かが違うんです。「ゲノム編集をしています」と言うと他所からはいつもクールに遺伝子をいじっているという印象を与えてしまいますが、実際は研究員も飼育員も愛情をもって魚と接している人たちです。だからこそ、生き物が好き、魚が好きというのは、リージョナルフィッシュで一緒に働くうえで大事な要素だと思っています。
あとは、基本的なことになりますが、お互いを尊重しあい、柔軟性、協調性をもって働くことが出来ることも大切です。一人だけでは何もできないので、いい魚種をつくるという意識を共有しつつ切磋琢磨できる仲間と一緒に働きたいです。
また、新しいことを積極的に取り入れていく方だとなおいいですね。この分野が栄えていくためには、新たなものを導入していこうという姿勢が大切だと思っています。新しい品種を作るためには新しい技術が求められるので、自分のできることはこれだからと一つのことをやり続けるだけではなく、新たな魚種を作るためには何をする必要があるのか考えて、必要なことはなんでもやるという意識をもった方が来てくれたら嬉しいです!

―――ハットリさんの研究開発における熱意が感じられる素敵なインタビューになりました!本日はありがとうございました。

いまリージョナルフィッシュは人材採用を強化しています。
是非私たちと日本の水産業界を変えていきましょう!

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