「災害が起きたとき、本当に困る人のところに電源を届けたい」 ~人工呼吸器向け非常用電池にかけた想い~
「災害時、電源がなくなってしまうと本当に困るのは、医療機器を使っている人たちなのではないか」
空気発電池エイターナスに出会って以来、一貫して胸に抱き続けてきた思いです。
東北地方を中心に日本全国に大きな影響をもたらした東日本大震災から今年で10年。在宅で人工呼吸器をお使いの方々に、ようやく自信をもって空気発電池をお届けできる準備が整いました。
▼ 空気発電池「エイターナス」のご紹介サイト ▼
http://www.hijouyoudengen.com/
使用体験いただいた、しんじゅ君とご家族
きっかけとなった北海道のブラックアウト
2018年9月6日、北海道胆振東部を襲ったマグニチュード6.7の大地震。
この地震の影響によって北海道全域に停電が起こりました。最大約295万戸、約2日間。エリア全域が大規模停電(ブラックアウト)に陥るのは日本では初めてのこと。異例の事態でした。
3.11をきっかけに、比較的大きな医療施設における非常用電源の整備はかなり進みました。一方、小規模な医療施設や在宅医療においては十分とは言えない状況が続いていました。北海道でのブラックアウトはこの問題を浮き彫りにしたのです。
在宅で人工呼吸器を使用している方の多くが電源確保のために自宅から離れることを余儀なくされました。病院に避難入院できた方、学校や役所、職場など様々な施設から電源を得た方など、対処は様々だったと聞きます。
この北海道ブラックアウトの後、在宅で医療機器をお使いの方々、特に人工呼吸器使用者に対する停電時の電源供給について、国の委員会等でも検討されるようになりました。しかし、問題は山積みだったのです。
山積する非常時の医療用電源問題
災害や停電などの非常時に備えて、以前から勧められていた電源確保の手段は発電機。しかし、各医療機器メーカーは発電機の使用を推奨していません。
● 危険物であるガソリンや大量のガスボンベを使うこと
● 室内での使用は一酸化炭素中毒を引き起こすリスクがあること
● 月1回程度のメンテナンスが必要であること
● 気温5℃以下になるとうまく使えなくなること
などが理由としてあげられます。
医療ステーション等に発電機を設置し、呼吸器の外部バッテリーを持参して充電して持ち帰る等の案もあがりましたが、災害で社会が混乱し、人手も不足する状況では現実的ではありません。停電で信号もついていない道をバッテリーの持ち運びのために運転するのはかえって危険です。
自動車をバッテリーとして考え、シガーソケットから電源を確保する方法も考えられます。しかし、移動のためにも使う貴重な資源を減らしてしまうことになります。
こうした課題は、もし東京など人口の多い地域で災害が起こった場合、より深刻となります。
人口密集地で災害が起こった場合
東京のように人口の多い地域の医療施設では、電源だけを必要とする患者を入院させることが非常に困難となります。傷病者が多く発生した場合には、それらの患者への対応を優先することになってしまうからです。
住宅地や集合住宅では、非常時であったとしても、屋外やベランダで発電機を運転し続けたり、自動車のエンジンをかけっぱなしにして電力を得ることは騒音や排気の面から難しいと言わざるをえません。
現在のところ、最も現実的な手段が蓄電池(ポータブル電源)を用意しておくことです。実際、在宅で人工呼吸器をお使いの多くの方が蓄電池を用意されています。
ただし、蓄電池にも限界があるのです。定期的に充電などのメンテナンスをすること。そして電池そのものの劣化や自然放電による容量の低下を考慮しなければなりません。つまり、いざというときにどのくらいの容量が使えるかを計算することが難しいのです。
「こんなときのために空気発電池はあるのではないか?」
空気発電池エイターナスの存在を知ったとき、即座にそう考えました。しかし、話は簡単ではなかったのです。
力不足だったエイターナス
医療機器に使う電源となると命に関わります。本当に実運用に耐えるのか、実証する必要があると考えました。
まずはパワーです。空気発電池を2個以上並列に接続することで人工呼吸器を動かすのに十分なパワーが得られることは確認できました。計算上では、空気発電池2個並列で10時間、3個並列で15時間運転できます。しかしこれでは1回の使用で20万円前後の費用負担が発生してしまいます。命に関わることとはいえ、あまりに大きすぎる負担です。
そこで、呼吸器の電源特性や電池の特性を考慮し、インバータを使用した交流電源でなく、直流の電気を直接使用することを考えました。それが今回、国内総販売元であるWAホールディングス社とともに開発した「DC12Vシガーソケットケーブル」です。
これにより、空気発電池が2個以上必要だったところが1個でも問題なくパワーを出せるようになったことを確認できました。さらに3個で15時間運転可能だったところを、理論上、約50時間運転可能に改善できました。
人工呼吸器専用の外部バッテリーの運転可能時間は4〜8時間。これでは安心して眠ることもできません。せめて寝ている間だけでも連続使用可能な電源を提供することは大きな安心材料になるはずだと意気込みました。
難航した実証実験
最大の難関は、実際の人工呼吸器を使用した実証試験でした。人工呼吸器を製造販売するメーカー各社に協力を要請しましたが、正規品の外部バッテリー以外の使用は推奨しないという立場からなかなか実現できませんでした。
彼らが消極的であったのも理解はできます。人工呼吸器のような精密機器に家庭用コンセントと同じ交流電源を使用する場合、正弦波という安定した質の良い電気が求められます。一般的な発電機やポータブル電源では適切なインバータを使用しないと正弦波を得られない場合もあるため、人工呼吸器メーカーは他の電源の使用を推奨したくないのです。
しかしながら、一方で、メーカー各社の人工呼吸器にはシガーソケット用ケーブルがオプションとして用意されています。これは万が一のときに外部電源として自動車のバッテリーから電源供給ができるようにと考えられているためです。自動車のバッテリーはインバータが不要な直流電源。そして空気発電池も「DC12Vシガーソケットケーブル」を使えば直流での電源供給です。つまり、自動車バッテリーと同じ原理になるのです。
空気発電池からインバータを介さず、「DC12Vシガーソケットケーブル」を使って直流の電気を直接供給する。これにより、安定した電気が供給できる。
いよいよ準備は整いました。実際の実証事件は、臨床工学技士であるドクターゴン鎌倉診療所の浜本英昌氏の監修のもと、無事実施できました。
次なる課題の解決にむけて
幾多の難関を超えて、ようやく人工呼吸器用の非常用電源としてご提供することが叶った空気発電池エイターナス。しかし、私たちにはまだ解決しなければならない課題があります。
人工呼吸器を使用する医療的ケア児には加温加湿器も必要な場合があります。その加温加湿器を同時に使用するには、現状では空気発電池が2個必要となり、費用負担が大きくなってしまいます。現在、その問題解決にも鋭意取り組んでおります。
私たちがnoteでの情報発信を始めるにあたり、クリエイターページのヘッダー画像に「非常時にも電気のあるくらしを」というコンセプトを掲げました。
いつ起こるかわからない自然災害や停電。そして、電気がなければ安心して暮らすことのできない現代社会。非常時にも、誰ひとり取り残すことなく電気を得られる社会にするために、できることから、一歩ずつ、前進していきます。
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