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スタートアップ人事はいかにして「手段の目的化」という罠を抜けられるか。

こんにちは。Reesusの小野です。 スタートアップ向け採用総合支援サービス『Reesus』を運営しています。

今回はスタートアップ企業の中で、たまに目にする「手段の目的化」という落とし穴について、書きたいと思います。採用活動において、単なる "人探し" になってしまっているケースはよくあること。(一定規模以上を超えた)スタートアップも例外ではありません。その原因と具体的な解決策を提示します。特に、スタートアップで人事やリクルーターを担当している方に読んでもらえたらと思ってます。

採用における「手段の目的化」という罠

(一定規模以上を超えた)スタートアップの採用活動をご支援する中で、「気づいたら採用要件に見合う人をひたすら探す活動になってしまう」ケースをよく目にします。

こういった事象の背景には、本来 ”事業を成長させること” や "組織の課題を解決すること" のための手段であるはずの採用が、いつのまにか ”採用目標数(経営陣から降りてきた採用計画)を達成すること” が目的になってしまう、人材採用の「手段の目的化」があると考えます。

特に専属の採用担当者がいる、中規模ぐらいのスタートアップが組織を大きくするタイミングで陥りがちな罠です。この罠にハマると、採用は単なる「人探し」になってしまい、ひたすらに採用要件に当てはまる求職者を探すだけの活動になってしまいます。

なぜ「人探し」になってしまうのか

スタートアップにおける採用が単なる「人探し」になってしまうのは、KPIに採用数を設定してしまうからです。

なぜ、KPIに採用数を設定すると「人探し」になってしまうのか。

はじめに、断りを入れておくと、採用数をKPIに設定することを否定するつもりはありません。ここで問題なのは、事業視点や経営視点を持ち合わせていないまま目先の採用数を追い求めると、事業状況・課題や中長期成長戦略と合致した母集団形成ができず、結果的に無駄の多い採用活動となってしまうからです。

組織が大きくなっていき、役割が細分化され、専属で採用担当者が就くタイミングでこの現象は多くみられます。そういった採用担当者はえてして、採用するためのノウハウやスキル(例えば、どの採用媒体を使えばうまくいくのか、エージェントをどう活用するのかなど)は持っている人が多いです。

KPIに採用数を設定された担当者は、そのKPIを達成するために活動を最適化していきます。なぜなら、自分のパフォーマンスはKPIの達成によって測られるし、組織での存在意義にも関わるから。これが元々の事業を成長させるためという目的に立脚していれば問題ないのですが、KPIはいつしか一人歩きし、当初の目的を失いがちです。結果として、採用が単なる「人探し」になり、企業全体の成長を阻害してしまうことがあります。

どうすれば罠から抜けられるか

どうすれば、罠にハマらない、あるいは抜けられるのでしょうか。
ポイントは採用担当者が”事業の勘所”を理解し、”経営者目線”で採用活動を行うこと。これまで支援してきた中で有用だった具体的な対策を3つご紹介します。

  1. 採用担当が実業務の「中身」を経験し、理解する

  2. 各部門の定例会に参加する

  3. 経営会議に参加する(事業計画作成に人事も参加)

対策1:採用担当が実業務の「中身」を経験し、理解する

事業の勘所を掴むには、実際に現場に入って実業務を経験することが非常に効果的だと考えます。 例えば、セールスやカスタマーサクセスの商談に同行させてもらうことや実際の業務を体験することで、現場で何が起きているのか、業務の解像度が上げることができます。

業務の解像度が上がると、例えばこれまで「B2B SaaSでの営業経験3年以上」と事業部から言われるがままだったものが、その妥当性や「B2B SaaSでの営業経験3年以上」という要件に込められた本当に求められている経験やスキルを理解することができます。

対策2:各部門の定例会に参加する

対策1は効果的ではありますが、実際に業務を経験することは、専門的な知識やスキルが求められる(例えば、開発やクリエイティブなど)場合やリソース的に実現が難しい場合があります。

そこで、もう少しライトにできる代案として各部門の定例会に参加するという手段もあります。各部門で日々議論されていることを把握することで、各チームのリアルな状況や課題、進捗、採用要件に込められた背景などを理解することができます。

業務やチーム状況の解像度が上がることは、求職者をアトラクト(惹きつける)する際にも効果を発揮します。また、現場のリアルな話ができることは採用後のギャップを埋めることにも貢献します。

対策3:経営会議に参加する(事業計画作成に人事も参加)

対策1と2は現場や業務にフォーカスをあてて解像度を上げる施策でしたが、視点を引いて経営視点で組織全体を見渡すことも重要です。そのような視点を身につけるため、実施してほしいことは経営会議に参加すること。特に、事業計画の策定レベルにまで関われると、より採用活動と経営課題が結びついていき、「なぜ、いま、この人を採用するのか」というのが明確になります。

経営視点を持てば、採用以外の選択肢にも気づくかもしれませんし、経営陣のインサイトも理解した上で、採用の優先順位も整理することができるようになるでしょう。

バッドケースとグッドケースの事例

ここからは説明してきたことのバッドケースとグッドケースの事例を紹介したいと思います。

バッドケース:ある80名規模の若手人事担当者の話

これは、以前お会いした若手人事担当者Aさんの話ですが、まさに罠にハマってしまったバッドケースです。(この方が悪いというより、構造上の問題でよくあケースだと思います)

その方は、もともとエージェント出身者で、80名規模のスタートアップ(シリーズBくらい)に採用人事として転職した方でした。組織としてはこれから100人の壁を越えるべく、採用を加速していくタイミングで、採用エグゼキューション力を期待されて人事担当として参画。

Aさんは経営陣から指示のあった採用人数目標を元に、採用ファネルを設計し、どこからどれくらいの母集団を形成するかの手段を検討していきます。経営陣からは「20代後半でITメガベンチャーに在籍する人材がフィットする」と言われたので、その通り国内のITメガベンチャーをロングリスト化してピックアップし、エージェントへのコミュニケーションとビズリーチ等の媒体を通じたアプローチしていく方法を選択しました。

しかし、結果的には採用活動はうまくいきませんでした。経営陣が求めた「20代後半でITメガベンチャーにいる人材」は多くの企業が求める層で、採用市場でもレッドオーシャンの領域であり、そう簡単には採用できません。経営陣からのリクエストから経歴と年齢に当てはまるターゲットを探すという「人探し」になってしまったため、次なる一手が打てず、事業課題の解決が劣後してしまう結果になってしまいました。

Aさんの事業理解が深ければ、「20代後半でITメガベンチャーにいる人材」という人材要件に隠された必要なスキルや経験が見出せて、違った母集団形成が行えたかもしれません。

グッドケース:目の前にいる人材に合わせて最適化した話

逆にグッドケースとしては、支援先のスタートアップの例を紹介します。事業視点や経営視点を持って採用活動を進めると、組織の状況によって採用計画を柔軟に変更することもできるという事例です。

そのスタートアップ企業はエンタープライズ向けのB2B SssSプロダクトを提供しています。いかに組織課題に入り込んだ形で社内で活用してもらうかがポイントで、カスタマーサクセスが重要な役割を担っております。そのため、これまでそのポジションは業務改善コンサルの経験があるファーム出身のシニアクラスをターゲットとして採用してきました。

しかし、サービスや組織が成長するにつれ、一定業務を型化できるようになってきたことや、オンボーディング部分をカスタマーサポートに切り出すなどの対応ができるようになり、ハードルを少し下げて採用する選択肢が出てきました。

そんな背景がある中、従前の採用要件であれば見送っていたミドル〜ジュニアクラスの候補者が3名浮上してきました。元々の計画では従来のシニアクラスを1名採用し、ジュニアクラスの人材はもう少し先のフェーズでの採用を計画していましたが、カルチャーフィットも問題なく、採用確度も高い状態だったため、このタイミングで3名採用し、CS再構築プロジェクトとして組織を変革。結果的に、これまでハイレベルの人材を採用し続けないといけない状況から組織化することができ、より効率的にカスタマーサクセスを進めることができるようになりました。

経営視点を持って、他の手段と組み合わせることで、単なる人探しをしているだけではできないような大胆な組織変革につながるような採用も決断できるようになるでしょう。

以前、支援先スタートアップの連続起業家の方が「カルチャーフィットする人、かつ優秀な人であれば、現状ポジションがなくても採用し、人に合わせてミッションを作っていく」と話してくれたことがありますが、目の前にいる人材に合わせて、ポジションの最適再配置を行っていくという視点も重要だと考えます。

まとめ

今回はスタートアップの採用人事が陥りがちな罠について、その原因と対策、事例を紹介しました。

改めて要点をまとめると以下です。

課題:
採用活動が単なる人探しになってしまう。

原因:
採用の数をKPIに置いてしまい、手段が目的化してしまうため。

対策:  
1. 採用担当が実業務の「中身」を経験し、理解する
2. 各部門の定例会に参加する  
3. 経営会議に参加する(事業計画作成に人事も参加)

対策の効果:
1. 事業やチームの解像度が上がることで真の人材要件が掴める
2. 業務の理解度が高いと、候補者をアトラクトにつながる
3. 経営視点を持つことで、採用以外の選択や優先順位も整理することができる

採用総合支援サービス『Reesus』では幅広く採用に関する悩みから、採用とは一見すると関係のないご相談も大歓迎です。ぜひお気軽にご連絡ください。

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