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「アメリカの教育は厳しい」の巻

■女性管理職が多い学校現場
 「教師は一生の仕事ではない」。アメリカでは一般的にそう思われている。勿論、永年教師をしている人もいない訳ではないのだが、給料は安く、管理職のポストが限られている教師は、所謂「魅力的な仕事」ではない。そのくせ民間企業と同じようにリストラだってある。
 教員になれば定期的に大学で行われる講習会に出席し、免許(クレデンシャル)を更新しなければならない。日本でも教員免許の更新制度が導入されたが、こちらでは教育関係の法規もころころ変わるので、なかなか大変なようだ。余談だが、命を預かる医師に免許更新制度がないことをアメリカ人に話すと、一様に目を丸くする。
 幼児教育機関に限らず、アメリカでは女性の教頭、校長が多い。それは早目に教師という職業を見限ってしまう男性に対して、女性は、一般企業では出世が遅く、ポストも限られている(やはり程度こそ違え、アメリカも男性優位だというのは実は同じなのだ)。それ故に女性は教師を続けるケースが多く、必然的にそうなるということなのだ。
 教師の給料が安いというのは、例えば、3ヶ月もある夏休みに給料が支給されないことも影響している。その間、アルバイトに精を出す教師が多いのは言うまでもない。一方、カリフォルニアでは人口増(殆どがヒスパニック)の影響で深刻な学校不足となり、イヤー・ラウンドの学校が増えている。これは長期休暇の時期をずらして、三サイクルで運営をする学校のことだ。一校に三校あるイメージだ。生徒には長期休暇があるが、先生にはない。年中給料がもらえることになって、喜んでいる先生も多いはずだ。
 勿論日本では、授業がない期間も給料は出る。筆者が日本で公立校教師をしていた頃は、夏休みには1日も学校に顔を出さないという猛者(?)も多くいたが、元同僚の話によれば、今では「市民」の目が光るようになり、一般企業なら当たり前の話なのだが、夏休みも基本は出勤、そして、休みたい時には年休などを使うことになっているという。弁護する訳ではないのだが、授業以外の仕事も多く、残業手当もない日本の教師。夏休みくらいは大目に見てほしいとも思う。ただ、その「ゆとり」にあぐらをかいていた過激組合員教師にはいい薬になっていることだろう。

■容赦ない生徒指導
 日本では授業以外の仕事が多いと書いたが、アメリカでは、基本的には授業以外の仕事はない。だから授業のない期間に給料が出ないのかも知れない。生徒指導は、最低限のことはするが、基本的には大規模校では生徒指導担当管理職、そしてカウンセラー、スクールポリスの仕事だ。
 生徒指導は、有名な "Zero-tolerance"(日本では「ゼロ・トレランス」と表記されるが、正しい発音は「ターラレンス」に近い)が基本だ。服装や髪型などは自由。しかし、暴言、差別、いじめ、武器(とみなされるもの)の持ち込み、タバコ、違法薬物の使用などは、容赦なく処分される。処分とは、犯罪とみなし、例外なく警察に通報されることを意味する。
 日本では報じられただろうか、ある小学校で10歳の女の子が、給食(カフェテリアで食べる)のステーキをカットするためにナイフを家から持参した。これを見咎めた教師は、「武器(になるもの)」を持参したということで警察に連絡。彼女はこの容赦ないルールに従って、補導(事実上の逮捕)され、留置所に拘留されてしまった。勿論マスコミや世論は学校側の頭の固さを批判したが、これこそが "Zero-tolerance" なのだといなされた。

■大学入試はないが…
 夏休みが終わると、9月に新年度が始まるアメリカ。さぞかし夏ごろは大学入試たけなわでは、と日本の感覚では思うのだが、ご存知のようにここでは所謂入試はない。基本的には高校在学中に行われる、SATなどの民間テストが利用される。昨今、学費の高騰が問題になっており、4年制大学に直接入学せずに、無試験で学費の安い公立短大(コミュニティー・カレッジ)を経由して、編入するパターンも多い。親が学費を出さない(出せない)ことも多いので、大学生は自らローンを組んで進学することもしばしばである。卒業と同時に、日本円にして既に1千万円単位の借金があるというケースもざらだ。そんな中で、優秀な生徒を対象に、高校在学中に大学の単位を先取りさせるという制度が大人気だ。在学期間を短縮し、学費を少しでも少なくしようと高校生も懸命である。私立大学への進学は、普通の家庭では奨学金をもらわないと不可能な学費がかかる。
 尤も、奨学金が充実しているのも、アメリカの特徴ではある。2008年に名門私大であるスタンフォード大学が、年収が日本円で約1千万円未満の場合、学費を全額免除するという方針を打ち出した。かのハーバード大学も同様の制度を作ったらしい。金持ちが学問を独占するという批判に応える為だ。
 一方、高卒で働いた後、金をためて大学に進む者も多い。筆者の知り合い(日系人)も7年かけて、あちこちの大学で単位を取って、40代でカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)を卒業した。先日、レストランで働く顔見知りの女性(インドネシア系米国籍)と立ち話をしたら、数年働いたが、この9月からサクラメント郊外にあるカリフォルニア大学デイヴィス校に進学するのだと話してくれた。こういうのは普通にある話である。キャンパスの平均年齢は、日本とは比べ物にならないほど高い。リカレント教育という言葉は、日本では通信教育やオンライン講座に誤魔化されてきた感じがするが、アメリカではそれはまさに、キャンパスへのrecurrent(回帰)を意味しているのだ。

『歴史と教育』2008年6月号掲載の「咲都からのサイト」に加筆修正した。

【カバー写真】
 ある日本語補習授業校が雇用している本物のスクール・ポリス(2002年1月12日撮影)。セキュリティの役割が主だが、現地校では校内での学生トラブルや不良行為にも対処する。彼は現職の警察官でもある。腰の拳銃も勿論本物。(撮影筆者)

【追記】
 教員の免許更新。筆者も受講したが、あんなものでいいならやめておいたほうが良い。教育委員会ごとに、もっと実質的なものができると思うのだが……。

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