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#9 珊瑚さんと急接近

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なんだか新人の割合が多いことに納得はしたのだが・・


劇団の中はキャラがかぶるとバチバチ

劇団には中堅女優が二人いたのだが、どちらも同じ年齢。
先述した珊瑚さんごさんと、もう一人は紫苑しおんさんだ。
(私も同じ年だが後から入ってきた後輩となるので彼女たちとタメ口で話すことはない。)
二人は新人たちよりほんの少し早く入団したというだけで
実践を積んでいるわけでも実力があるわけでも無さそうだった。
とはいえ珊瑚さんごさんと紫苑しおんさんは
事あるごとにバチバチしてる。配役がやや被るのだ。

両者とも配役ではオンナを売りに出来るキャラの女優。
とはいえ、違いはもちろんある。

珊瑚さんごさんは、はすっぱなオンナを演じさせると
これ以上は無いほど当たる。ギャル系までいけるが
紫苑しおんさんはアンニュイな雰囲気から母性を感じさせる。
演技なのか素なのかはわからないが、そんな役がはまる。
同じ役をはめても、全く違う人物像が浮かび上がるというわけだ。
エチュードでも女性役を持ってくると、どちらが先に違ったオンナを出してくるか進行具合とバランスを取りながら競っていた。

紫苑しおんさんはコミュ力が低いのか団員と和気あいあいとするタイプではなくミステリアスなイメージの人だ。
珊瑚さんごさんと紫苑しおんさんは稽古以外の会話は無く
いつも賑やかにしていたい珊瑚さんごさんは、私に狙いを定めて話をするようになった。

珊瑚さんごさんのキャラとは被らない

珊瑚さんごさんと私のキャラは全く被らなかった。
私ももちろん女性ではあるが、私の得意分野は真面目な女性
幼児~主婦、老婆もOK、少年までは守備範囲内。
ギャルやはすっぱな役も出来るが珊瑚さんごさんには及ばない。
菖蒲あやめさんは、ほとんど全て説得力ある演技でこなせる)
ということで、珊瑚さんごさんは自分に害のない私を気に入ったようだ。
菖蒲あやめさんの秘密を自分の口から私に漏らした、という点も大きいのだろう。

どんどん不機嫌になる菖蒲あやめさん

公演日が決まり、台本を書くために高麗こうらいさんが稽古場に来なくなってからは稽古の進行は菖蒲あやめさんに任されるようになった。
高麗こうらいさんの目が届かない場所で菖蒲あやめさんは女優に対してのあたりがきつくなってきた。
何をしても気に食わないのだ。イライラした雰囲気が稽古場に広がる。

菖蒲あやめさんが大好きだった私は、誰よりも早く稽古場に行き
稽古場を隅から隅まで掃除して磨き上げていた。
菖蒲あやめさんが演じているときに這いつくばる、流れによっては床に口づける、舐める(そんなところは見たことが無いけど)
芝居の流れでは何が起こるかわからない、でも安心して稽古して欲しい。
そんな気持ちからだったが
つき!あんた掃除してたら芝居がうまくなるとでも思ってんの?

菖蒲あやめさんをたてようと半身下がった瞬間
後ろに下がって芝居してんじゃないよ!

何をしても怒鳴られるようになった。
劇団内にヤレヤレ、という空気が流れ
私は珊瑚さんごさんに連れられて、飲みに出かける回数が増えていった。
私と菖蒲あやめさんの守備範囲が大きく被っていたのだ

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