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冬眠していた春の夢 第8話 夢の中の神社

 二年生になっても仁美と同じクラスになれた事を、私は世界中の神々に感謝した。
 私は幼い時から親と離れて暮らしていたから、親ばなれは出来ているけど、いつか仁美ばなれが出来るのか、それが心配だった。

 私は、他人からどう見られたいとかの欲求がなくて、オシャレや今時の話題にも興味がなかったし、男子への関心もなかった。
 読む小説は推理小説か歴史小説ばかりだったし、漫画も少女漫画は読まず、スポーツ系や時代モノの少年漫画ばっかりで、二次元三次元ともに初恋は未経験だった。
 だから仁美以外の女子とは、どうしても波長が合わないのだ。

 そんな風に、実家に戻って狭い世界だけで生きているせいか、何度も見ているあの夢が、なんだか現実味を帯びて感じられるようになって、私の心をどんどん支配し始めていた。
 だから小学3年生で叔母に話した時以来、久しぶりに夢の話を口にした。

 ゴールデンウイークに行くところもやりたい事もなく、仁美の部屋で2人でゴロゴロしながら、不思議系のYouTube動画を見ている時に、私はごく自然に自分のずっと見続けている夢の話をした。
 ナチュラルに話題にできたけど、内心はドキドキしていた。
 でも思いの外仁美は、興味津々で聞いてくれた。

 「きっと現実にあるんだよ。その神社」
 仁美がおもむろに言った。
 「えっ?」
 今まで考えた事もなかったけど、確かにそうかもしれない。

 「どこか思い浮かぶ場所はないの?」
 「…わからないけど…もしかしたら、元の家の近くかも…って気はする…」
 「じゃあ、行ってみようよ」
 「え?今から?」
 「だって気になるじゃん」
 そんな事考えた事もなかった。
 「きゃ〜なんかワクワクする〜!」
 私の不安をよそに、仁美はあからさまにはしゃいでいた。

 そして私達は以前の実家の住所へと向かった。

 元の家にたどり着く前に、その場所は唐突に現れた。
 夢で見た通りの風景。
 正確には、手前の鳥居から奥の鳥居に行くまでの風景は、夢の中とは違っていて、新しい家やアパートが立っていた。
 あの夢は、私が3歳くらいの時のままなのだ。
 でも、奥の鳥居を抜けると、まるで夢の中に入り込んだような風景が広がっていた。

 右手には社務所らしき小さくて古い建物があり、左側には大きな木に囲まれて、コンクリートで舗装されたカーブが緩やかなスロープがあり、真正面には、石で作られた古くて急な階段があった。
 その急な階段を登っていくと、ささやかな参道があり、その先に歴史を感じさせる小さなお社が、山を背負って鎮座していた。

 すごく懐かしい…。
 そう思った刹那、感動とも動揺ともつかない震えが心に湧き起こり、訳もわからず泣きそうになった。

 「なんか…こじんまりしているけど、すごく雰囲気のある神社だね」
 仁美が言った。 
 ゴールデンウィーク真っ最中の今日は、予報通りの夏を思わせる天気で暑かったのに、山に囲まれた境内には、ひんやりと厳かな空気が流れていた。

 お社の裏の山には、【立ち入り禁止】と【土砂崩れ注意】の看板が大きく掲げられ、山を登る石階段の前にはロープが張られていた。
 夢では見た事のない光景だ。
 きっと私が3歳の頃にはなかったのだろう。

 しばらく境内を見渡してみたけれど、長年見続けてきた夢の世界が現実にあることの感動と動揺以外は何もなかったので、私達は神社を後にして、元の住所に行ってみた。

 元の家は取り壊されていて、新しい家の骨組みまで出来上がっていたし、隣り近所の家も、増改築されていたりリフォームされているようで、何も思い出せないし懐かしくもなかった。

 第9話に続く。

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