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冬眠していた春の夢 第9話 出会い

 なぜか実際の神社に行った日から、しばらくあの夢を見ていない。
 不思議だとは思ったけど、私の意識は期末試験に集中していた。
 偏差値の高めな仁美と、絶対に同じ高校に行きたいというのが、今の私のモチベーションになっている。
 でも、私は理数系が苦手で、小テストでも全然点数が上がらず、焦りを感じていた。
 なので、仁美の家にお邪魔して一緒に勉強する事が増えていった。
 たまに仁美のお兄さんがいて、教えてくれる事もあった。

 仁美兄妹のおかげもあって、期末試験の結果はかなり良かった。
 勉強に関して何も言わない両親も、とても喜んでくれた。
 一緒に暮らし始めてもう半年以上経つのに、未だにどこかぎこちない生活の中で、両親が私に注目してくれる事が、すごく嬉しかった。

 「よく頑張ったご褒美に、何か欲しいものある?」
 母が成績表を見ながら言った。
 「うーん…」私は悩んだ末に遠慮がちに言った。
 「…スマホかな〜」
 「そうか、今時の中学生は皆持ってるものね。気がつかなくてごめんね」
 母が一瞬私の目を見た気がしたけど、一瞬すぎて確信はなかった。

 そして、期末試験の結果が良くてスマホを買ってもらえたのは、ひとえに仁美とお兄さんのおかげなので、私は新しいスマホと母が買った小洒落たお菓子を持って、仁美の家にお礼に行った。

 仁美の家の玄関には、見慣れた賢吾さんのスニーカーの横に、見慣れないスニーカーが一足揃えて置かれていた。
 「今アニキの友達が遊びに来てるの」
 出迎えた仁美が言った。
 「橋本さんってアニキの一番仲の良い友達」

 私は仁美と一緒に賢吾さんの部屋に顔を出した。
 「よお!美月ちゃん、いらっしゃい」
 振り向いた賢吾さんの友人が、その言葉に驚いた顔をして、私の顔を見つめた。
 ドキッとして、私は全身が硬直した。

 仁美兄妹が何か喋っていたけど、少しも内容が入ってこなかった。
 「美月?」
 ボーッと立ちすくんでいる私の顔を、仁美が心配そうに覗き込んだ。
 「あ…ごめんなさい…」
 私は慌てて持ってきた菓子を差し出して、賢吾さんに向かって期末試験の結果とお礼を伝えた。

 その間、橋本さんにずっと直視されているのを感じて、頬が紅潮した。

 仁美の部屋にいってからも、頬の熱が治まらずドギマギしている私を見て、仁美がニヤニヤしながら言った。
 「ナニナニ?いよいよ異性に目覚めた?」
 「…そ、そんなんじゃないよ…」
 「じゃあ、どんなん?」
 「……」
 そんな事、私にわかるわけがない。

 第10話に続く。

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