![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/108548443/rectangle_large_type_2_2df841909ef6cf6d67c67e000df811ad.png?width=800)
冬眠していた春の夢 第4話 喪失感
テレビのニュースで事故を知った翌日からちょうど1カ月、父は仕事を休んで私のそばにいてくれた。いや、途中で一週間は家に帰ったけど、その間は名古屋の叔母がいてくれた。
こっちにいる間、父は黙々と遺品整理に明け暮れていた。
私は普段通りに学校に通い、帰宅すると殆ど猫達と過ごしていた。
私の知らないところで、大人達による今後の私の生活について、話し合いが行われていたようだ。
普通だったら、実の両親がいる私の身の振り方など、そんなに時間をかけなくてもいいように思えた。
母が病気がちだとはいえ、もう中学生なのだから手はかからないし、逆に家の手伝いも出来るのに…。
私がなるべく見ないようにしている内に、見慣れた祖父母の家はガランとしてしまっていた。
いつの間に?父が黙々と片付けている姿を見ていたはずなのに、すっかり様子が変わって初めて私は呆然とした。
そして急激に、心の中に大きな穴が空いたような喪失感に襲われた。
もう会えない事の悲しみはずっとあった。
でも、これほどの喪失感に襲われたのは、祖父母が亡くなって以来初めてのことだった。
当たり前の生活というのは、失って初めてその有り難みに気づくとよく言うけど、よく言われるだけあって、それは本当だった。
不在という名の大きな大きな存在感。
喪失感って、悲しみよりもずっと辛いな…。
そんな喪失感に襲われた夜、夕食の焼き魚をほじくりながら父は、私が家に帰る日を決めようと淡々と伝えてきた。
もうここにはいられないんだ…。
私は、10年ぶりに母に会えることよりも、ここを離れる寂しさを感じていた。
「せめて二学期が終わるまで、ここにいちゃダメかな?私、おばあちゃんと一緒に料理もしていたから、1人でも暮らせるよ」
「未成年の女の子を1人になんかさせられるわけがないだろう」
「だったら…、猫達を連れて行っちゃダメ?」
「うん。お母さんが動物アレルギーだからな」
父の言い方は優しかったけれど、これほど明確な【否】は他になかった。
私は自分に意外と行動力があることを知った。
引越しの日が決まった翌日に、私はいくつかの犬猫の保護団体に連絡して、一番対応が親身だったところで、おもち、ミケ、クロ、3匹とも預かって貰えることになった。
3匹を見送る時、祖父母が亡くなった事で、いつからか心の準備を始めていたんだなぁ〜私…と思った。
寂しい、悲しい、辛い…それでもその厳しい現実を受け入れなければならないのが、生きていくっていうことなのだと、私は13歳だけど、わりと理解していた。
3匹を乗せた車を見送りながら、幼児の私を見送った母も、寂しかったり、悲しかったり、辛かったりしたのかな?と、考えた。
私が家に戻る事を、母は喜んでくれるのだろうか?
第5話に続く。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?