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冬眠していた春の夢 第4話 喪失感

 テレビのニュースで事故を知った翌日からちょうど1カ月、父は仕事を休んで私のそばにいてくれた。いや、途中で一週間は家に帰ったけど、その間は名古屋の叔母がいてくれた。
 こっちにいる間、父は黙々と遺品整理に明け暮れていた。
 私は普段通りに学校に通い、帰宅すると殆ど猫達と過ごしていた。

 私の知らないところで、大人達による今後の私の生活について、話し合いが行われていたようだ。
 普通だったら、実の両親がいる私の身の振り方など、そんなに時間をかけなくてもいいように思えた。
 母が病気がちだとはいえ、もう中学生なのだから手はかからないし、逆に家の手伝いも出来るのに…。

 私がなるべく見ないようにしている内に、見慣れた祖父母の家はガランとしてしまっていた。
 いつの間に?父が黙々と片付けている姿を見ていたはずなのに、すっかり様子が変わって初めて私は呆然とした。
 そして急激に、心の中に大きな穴が空いたような喪失感に襲われた。
 もう会えない事の悲しみはずっとあった。
 でも、これほどの喪失感に襲われたのは、祖父母が亡くなって以来初めてのことだった。
 当たり前の生活というのは、失って初めてその有り難みに気づくとよく言うけど、よく言われるだけあって、それは本当だった。
 不在という名の大きな大きな存在感。
 喪失感って、悲しみよりもずっと辛いな…。

 そんな喪失感に襲われた夜、夕食の焼き魚をほじくりながら父は、私が家に帰る日を決めようと淡々と伝えてきた。

 もうここにはいられないんだ…。

 私は、10年ぶりに母に会えることよりも、ここを離れる寂しさを感じていた。
 「せめて二学期が終わるまで、ここにいちゃダメかな?私、おばあちゃんと一緒に料理もしていたから、1人でも暮らせるよ」
 「未成年の女の子を1人になんかさせられるわけがないだろう」 

 「だったら…、猫達を連れて行っちゃダメ?」
 「うん。お母さんが動物アレルギーだからな」
 父の言い方は優しかったけれど、これほど明確な【否】は他になかった。

 私は自分に意外と行動力があることを知った。
 引越しの日が決まった翌日に、私はいくつかの犬猫の保護団体に連絡して、一番対応が親身だったところで、おもち、ミケ、クロ、3匹とも預かって貰えることになった。
 3匹を見送る時、祖父母が亡くなった事で、いつからか心の準備を始めていたんだなぁ〜私…と思った。
 寂しい、悲しい、辛い…それでもその厳しい現実を受け入れなければならないのが、生きていくっていうことなのだと、私は13歳だけど、わりと理解していた。

 3匹を乗せた車を見送りながら、幼児の私を見送った母も、寂しかったり、悲しかったり、辛かったりしたのかな?と、考えた。
 私が家に戻る事を、母は喜んでくれるのだろうか?


 第5話に続く。

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