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給与制度はなぜ形骸化するのか?~覚悟をもって本音で向き合う重要性~

【認知を揺さぶり心が震える、彩り豊かな人生を味わい楽しむ】をテーマにした、rebornの揺さぶるメディア(仮)です。

今回は、すべての人が生きがいを持って働くための人事コンサルティングをされている、生きがいラボ株式会社代表の福留幸輔さんにインタビューをさせていただきました。
生きがいラボさんの「成果や利益を最大化するためのコンサルティングではなく、働く人や組織のあり方を大切にするという価値観」は、rebornとよく似ていると感じます。
インタビュアーはreborn株式会社の田中健士郎。昨今注目を集めている、社員に点数をつけない「ノーレイティング型人事制度」の中でも「自己申告型給与制度」にフォーカスし、reborn株式会社代表の羽渕彰博とともに、福留さんの熱い思いを伺います。

正直、給与という聖域に踏み込みたくなかった

田中:給与って、組織開発や人事系のコンサルティングの中でも、すごくセンシティブな領域ですよね。あえてその難しいところに着手された経緯やきっかけなどがあれば教えてください。

福留さん:私が社会に出たころの話なんですけど、組織の中でなかなか本音が言えないということにずっと違和感があったんですよね。人が幸せであるために存在するはずなのに、組織のために我慢したり、組織のせいで人の幸せがないがしろにされたりする状態に納得がいかなくて。ずっと悔しさや悲しみの感情が根底にあったように思います。
そのあと人事の世界に入ったんですが、そこでもやっぱり自分の理想とする人事制度や組織の世界観とはちょっと違うなと。もっと本音で語り合える関係性や社員さん一人ひとりがありたい姿を描けるような組織をつくりたいなと思ったのが最初でした。

田中:なるほど、いきなり給与制度がどうこうって話ではなくて、まずは本音で語り合える組織を目指したんですね。

福留さん:そうなんです。2010年に生きがいラボを立ち上げた当初は、給与に関してはあまり触れていませんでした。自分のやりたいことや成長にフォーカスして、一人ひとりがよりよい人生を歩んでいってほしいというメッセージが主で、お金のことはいったん脇に置いておくような感じでしたね。ただ、評判は良かったんですけど、自分の中では物足りなさというか、モヤモヤとした違和感があったんです。

田中:どんな違和感だったんですか?

福留さん:経営者さん(会社)と社員さんがパートナーとして対等な立場で一緒に進んでいくためには、給与に対して社員さんが何も意見を言う場がないというのはやっぱり変だよなぁって。一般的な評価制度のように、自分のうかがい知らないところで給与が決まっていくという構造自体、おかしいんじゃないかなって思っていました。
とはいえ、給与という聖域に踏み込みたくない気持ちはありました(笑)。だって、お金のことになれば、みんな感情が動くじゃないですか。大変に決まってるんですよ。
でも、きっと今の制度のままでは、本当に自分の目指している社会のあり方には到達しないな、と。一人ひとりが自分の給与に対してもちゃんと意見が言えるような構造にしていかないといけないなと思ったんです。

田中:なるほど。福留さんのある種、使命感のような熱い思いがそこにあったんですね。

とんでもない申告が出てくる

田中:実際に企業さんに自己申告型給与制度を導入してみて、困ったことや葛藤はありましたか?

福留さん:想定はしていましたが、どの会社さんでもとんでもない申告が出てくることもあります。「仕事の内容はそのままでお給料を倍にしてほしい」だとか「役員さんのお給料より多い金額にしたい」だとか。
自己申告型給与制度に取り組み始めた当初は、こういう申告があったときは「困ったなぁ」という捉え方をしていました。申告を受ける側のストレスもあるし、どう解釈すべきか悩むことも多かったですね。

田中:確かに、経営者さんやマネジャー陣は頭を抱えそうです。

福留さん:でも、自己申告型給与制度に取り組んで確信したことですが、そういうとんでもないように思える申告というのは、そこに至るまでに自分の頑張りが認められていないという「つらさ」や「悔しさ」があったからなんですよね。急に生まれたんじゃなくて、もともとあったんだけど言えなかった感情。それを、この制度を通して初めて伝えてくれたんですよ。
だから当然、受け手側も、そこに共感しようとする姿勢を持たないと、本当の意味でのパートナーとしてやっていけないんです。思わず頭を抱えたくなるような申告があったときこそ対話のチャンスなんですよ。いままで言えなかった根深いものを言ってくれたんです。大変ではあるけれど、本音を言ってもらえるってありがたいですからね。

田中:まさにピンチはチャンス!給与の自己申告の裏側に、隠れていた本音がでてくるんですね。

福留さん:そうそう。あと、そういうとんでもない申告をした人ほど、より本音で対話ができて、その後の関係性が良い方向へ構築されていくような感じがあります。ご本人としては、これまで蓄積された怒りや悲しみを伝えたかったんですよね。だからそもそも最初からその申告が通ると思っていないことがほとんどなんです(笑)。つらかった感情を伝えることができて、本音で対話できたということに一番意味があると思うんですよ。

羽渕:受け手側がどういう姿勢でどう解釈するかが重要なんですね。制度は作ったけど、組織や人の実態、姿勢が変わっていないとうまく機能しないということもありますしね。やっぱり関わる人自身のあり方や価値観、組織の文化がまず大切だなと痛感します。

福留さん:おっしゃる通り、制度って単なる仕組みなので、どんな思想や価値観で運用するかが大事なんですよね。例えば、先程のようなとんでもない申告があったとき、「そんなことを言い出す社員は早くやめさせてしまおう」という考え方ではうまくいかない。なぜそういう申告になったのか、奥に隠れている感情があるんじゃないか、それを知らなければいけないという思想が大切なんですよね。まずは対話をしようという姿勢が必要なんです。それが、私の理想とする社会の価値観ですね。

田中:受け手側の経営者さんやマネジャー層の思想やあり方がまず整っていないと、理想とは全く逆の世界が描けてしまうんですね。

経営者だってお金の話はなるべくしたくない

田中:他に、この制度において難しいところはありますか?

福留さん:そうですね、本当は経営者さん自身もお金の話はなるべくしたくないというところなんじゃないかな。

羽渕:うん、僕もそれはよくわかる…。

福留さん:お金の話って、自分も相手も感情が動くし、簡単なことじゃないですから。本当はもっとお給料を出したいのに会社の業績が伴わなくて出せないというような、経営者としての力量や弱さを吐露しないといけないこともあるかもしれない。そういう場面はやっぱりつらいです。お金の話はしたくはないという気持ちも、もちろんよくわかります。ただ、経営者さん自身も本音でちゃんと語れるような覚悟を持たないと、本当のパートナーとしてやっていけないし、本音を隠して表面上だけ取り繕った施策になっていってしまいます。「それが本当に望ましい状態ですか?」と問いかけることはよくありますね。

田中:給与を申告する社員側が本音を言うのはもちろん大事なんですけど、受け手側の経営者さんやマネジャーの方々も相当な覚悟をもって向き合う気持ちがないと成り立たない制度なんですね。

福留さん:そうやってお互いが覚悟をもって本音で向き合うことを、私は「覚悟の交換」って呼んでいます。覚悟の交換があった方が、より良い関係が築けると思っていて。ほとんどの経営者さんは、私のところに相談に来てくださるときにはすでにかなりの覚悟が決まっていらっしゃるんですけどね。でも、やっぱり人間なので「この話は避けたい」「これは言いたくない」というような弱さも持ってるんですよ。
経営者さんがどの程度覚悟が決まっているかがわかるバロメーターのようなものが、会社の情報をどれだけ公開できるかなんだと思ってます。覚悟ができていないと、情報って隠したくなりますから。

羽渕:そう、隠したい(笑)。僕も最近メンバーに経営状況の数字を徐々に公開するようにしていて。解釈によっては批判される可能性もありますし、最初は不安な気持ちが強かったですね。rebornの場合は、その数字をどういうふうに捉えるべきなのかみたいな、文脈や背景を共有するための研修などを社内でやりながら公開しました。

福留さん:それが一番良い手順かなと思います。
情報をどこまで公開できるかによって、その経営者さんがどの程度覚悟ができているのかわかるというのは大いにあると思うんです。とはいえ、マネジャーさんや社員さんたちがしっかりとその情報を扱えるリテラシーも養わなければいけないんですよね。全公開に向かってどうステップを踏んでいくのか。制度が独り歩きしないように、リテラシー養成や制度の背景理解、心理的安全性への取り組みなど、いろいろなことを両輪で進めていかなければいけないんです。

羽渕:制度や施策って、実行したら問題が解決する魔法のつえではないというのを、僕もいつも思ってますね。制度を効果的に運用するための文化や思想、いわば土壌づくりが先だし、ないがしろにしてはいけない部分。土壌がある程度できあがって、さらにこういう制度があったらもっとスムーズにやれるよねっていうのがきれいにはまる気がしました。

さいごに

福留さんは『この制度そのものは「給与は話し合いで決めましょう」「そのためには本音でちゃんと語り合いましょう」というとてもシンプルな仕組みです』とおっしゃっていました。

大事なのは、制度を運用するための思想や文化であり、それに加えて当事者同士の「覚悟の交換」なんですね。

「こういう本音で語り合える会社って、経営者はほんとに丸裸になっている気分なのよ(笑)」と羽渕。

社員さんの幸せと健全な会社の成長を願う経営者のみなさん、裸になって腹を割って話し合う覚悟はできていらっしゃいますか?


最後までお読みいただきありがとうございました!

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今回お話を伺った方:
生きがいラボ株式会社 代表取締役 福留幸輔様

reborn株式会社 代表取締役 羽渕彰博 https://www.facebook.com/habchin

インタビュアー:
reborn株式会社 田中健士郎 https://www.facebook.com/kenshiro.tanaka

編集・ライター: 早田早弥香
校正: 森まゆみ
アートディレクション: 羽渕彰博


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