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【感想文】小川洋子『密やかな結晶』
✒️あらすじ
その島では多くのものが徐々に消滅していき、一緒に人々の心も衰弱していった。
鳥、香水、ラムネ、左足。記憶狩りによって、静かに消滅が進んでいく島で、わたしは小説家として言葉を紡いでいた。少しずつ空洞が増え、心が薄くなっていくことを意識しながらも、消滅を阻止する方法もなく、新しい日常に慣れていく日々。しかしある日、「小説」までもが消滅してしまった。
有機物であることの人間の哀しみを澄んだまなざしで見つめ、空無への願望を、美しく危険な情況の中で描く傑作長編。
✒️ 感想
2021年11月28日 読了
お気に入り度 ★★★★☆
小川さんの書く文章はとても美しい表現が多いです。西洋の陶器のティーカップのように洗練されていて、綺麗だったり可愛かったり、時折ひんやりと冷たかったり、そんな文章を書きます。
この小説の世界では、様々なものが「消滅」し、人々の記憶から消え去ってしまうのですが、その現象について無理やりなトリックや設定を説明せずに、主人公の目線で最後まで書ききっているのが、逆に世界の理不尽さが強調されて良いなと思いました。
いろいろな記憶とともに、知らぬ間に感情すら失われてゆく主人公のわたしと、消滅の影響を受けない数少ない人物であるR氏とのやりとりが本当に切ない……。そして、読んだ後、この小説はこの結末だから良いのだと私は感じました。
作者のあとがきにもあったが、新型コロナウイルスで日常が失われつつある今、読むとじんわり染み入るものがあります。感服……。
✒️こんな人におすすめ
忘れたいことがある人、忘れたくないことがある人、どちらにもオススメです。忘れたいほど辛い思い出も、時が過ぎれば経験として人を支えることもあります。他方で、忘れたくないけれど失われていく恐怖を感じる人も同じくらい多いのではないかと思います。
そんなとき、この物語は今一度自分の記憶と向き合ういい機会を与えてくれるんじゃないかなと思います。読む人によって、違う教訓を与えてくれる素敵な1冊。
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