愛とか、恋とか、時節とか
[New York City]
street kidsの彼に恋をした。
軽いジョークと気のいいノリで、いつも私を大笑いさせてとびきりの笑顔にしてくれる君に。
Spring Summerのあいだの季節。
心地よい温度に浮かれていた私は、交差点で危うく事故りそうなっていた。
歩道で倒れた私に覆い被さる人は、きっと助けてくれたのだろうと呑気にそう思った。
気が動転していて他になにも考えられなかったのだ。
ゆっくり体を起こされると、なんども肩を大きく揺さぶられた。
相手は必死に大丈夫かと聞いてくる。
その時の顔は今でもよく覚えている。
そしてなぜそんなにも見知らぬ人間を心配するのかという疑問は後に分かる事だった。
勢いに負けた私は首だけなんかいも縦に振った。
すると男はよかったと安堵のため息を吐いて、立ち上がり去って行こうとした。
でも私はその人をどこかへ行かせたくなかった。
袖を控えめに強く掴んで引っ張るように、この場に留めてしまった。
徐に振り向いた顔は不思議そうにしている。
どうしたと聞かれた途端、我に帰る。
自分がとった行動に恥ずかしくなり、あたふたとしてしまう。
彼はおもしろいやつだなと私を見て笑った。
太陽の輝きで光を増した眩しいほどのハニーゴールド、ベニトアイトのように澄んだブルー。
心が騒がないわけがなかった。
天使がほほえんでいると思った。
****
本当に、あの数分にも満たない時間は忘れられない。
私たちを心配そうにおもしろそうに眺め行き交う人たち、今とは少し変わったあの町なみ。
一生に一度かぎりの大切な出会いがあるのだとすればそれは十六の美しい日々だと信じて疑わなかった。
彼はAidan Lewis。
私の二つ上で、十八歳。
命を救ってくれた日の事を思い返せば色々ある。
彼はManhattanから用事と遊びを兼ねてこの町、Queensへ来ていた。
辺りをフラフラと歩いていれば、偶然にもバカなやつを見つけて思わず走り込んだという。
そう私、Riley Floresの事である。
若さの行動力とはすごいもので、天上の煌めきに、あなたの名前は……と、訪ねずにはいられなかった。
もしかしたら二度会えないかもしれない、New Yorkのなかでだって、ましてやこの広く大きいAmericaという国で見つける事が叶うかどうか……。
Aidanとは、なんどか食事やお茶をした。
顔を合わせた。
場所はいつも私のいる町でだった。
会いに来てくれる……それは一見すると嬉しい事に聞こえるが、Aidanは私を自分が暮らす町に来させたくなかったのだ。
当時のNew Yorkはとても治安が悪かった。
Queensは比較的に安全と言えるほうだったと思うが、町を区画すると場所によっては酷い所もあったのだろう。
ManhattanでもBrooklynでも共に同じようなものだろうと、私は考えていた。
ニュースなどで流れる危険な事象のほとんどは、South BronxやHarlemの名前が聞こえてきていた。
私が彼の町へ行けない理由……うっすらと思い浮かばない事もなかった。
けれど直接聞いた所でうまくかわされる。
連絡先も教えてくれない、私が教えるだけ。
それでも不満はなかった、楽しさのほうが勝っていたから。
今はこれでいいんだ、なにも考えずに幸せに身を委ねていた。
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