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33.悲しみがあって、幸せが色をなす

大学4年生の頃。

当時、教学の勉に勤しむ大志よりも、毎晩深夜3時半(最早早朝?)まで遊び呆け、毎日がホリデーじみたダラダラした生活に飲み込まれ、それを謳歌していたわたくしピーナッツ。

何の資格取得も選択していなかった為、講義はたった2コマ。
卒論のゼミと、教義英語だけで、後はバイトして友達と飲み歩いて夜はひたすらゲームばかりの絵に描いた堕落の日々…。

ちなみにゼミも教義英語も富野良彦先生が担当で、しかも私が加入していた某サークルの顧問もまたまたそうだったので、そっち方面の相談で先生の研究室にも出入りし、あの頃はとにかく富野先生とばっかり顔を合わせていたような気がします…(^_^;)

サークルの後輩たちをブリスベンに見送った後、関空で先生にお蕎麦をごちそうになり、蕎麦湯の美味しさを教えていただいたのが良き思い出です。おかげで私は今でも蕎麦が大好きで、近くの美味しい評判の蕎麦屋で最後に蕎麦湯を飲むたびに、その頃のことをふと思い出したりします。

いや~ホントにお世話になりました。


…さて、どうでもいい脱線話はそれぐらいにして、本題に入ります。


その富野先生の教義英語の時間、用いられたテクストは天理教学研究の大家・深谷忠政先生の英語冊子でした(題名はもう忘れました…)。

その中で論じられていたことの中に、“二つ一つが天の理”という教理の説明がありました。ざっくりとした内容になってしまいますが、深谷忠政先生はこの“二つ一つ”を合理主義の西欧文化圏に英語で表現するのに大変苦心されていたそうで、その旨を富野先生は私達学生に語ってくれました。

英語が本当に苦手で、講義自体に出席するのも憂鬱だった私でしたが、何故かその時の話が不思議と際立って心に残り、余韻を残しました。


二つ一つ。

相反する二つの作用。


刃物がそれのいい具体例でしょう。

どんなに切れ味のいい鋭利な刃でも、上から下まで全てが刃なら、掴むことができません。使おうとする人を傷つけてしまいます。
切る道具には、切る部分と絶対に切れない部分と相反する性質が組み合わせられるので、そこでようやく道具として成立させることができます。



幸福を裏付けるもの

ユング心理学の大家・河合隼雄先生の書籍をいくつか読んでいた時期があり、印象に残っている言葉があります。

ネガティブなものをかかえこんで抱きしめている時期が必要なのです。醸成する期間といいますか。そういうものをがたっぷりとあるほど、それに見合ったポジティブなものが自然に出てきます。(中略)
ポジティブなことを単純に思いついた人の話というのはアホくさくてとても聞いていられません(笑)。

村上春樹著『約束された場所で』より

幸福の絶頂期にあるようなときでも、それに対して深い悲しみ、という支えがなかったら、それは浅薄なものになってしまう。

河合隼雄著『河合隼雄の幸福論』より

幸福ということが、どれほど素晴らしく、あるいは輝かしく見えるとしてもそれが深い悲しみによって支えられていない限り、浮ついたものでしかない、ということを強調したい。恐らく大切なのはそんな悲しみの方なのであろう。


どうですか?
河合隼雄先生は“ポジティブ”を語る上で“ネガティブ”を、
“幸福”を語る上で“深い悲しみ”を、それらが土台となったものでなければ、どんなにポジティブだろうと、どんなに幸福を感じているつもりであろうと、それらは浅く、浮ついたものに過ぎないと語っています。


だから私は、たとえば“本当の強さ”弱さ、失敗、挫折、後悔…そういった苦汁を味わった上で磨かれるものだと思っているし、辛い、悲しい経験の積み重ねを経て見つけた幸せの実感こそが、真のそれなんじゃないかと感じるわけです。


二つ一つ。

相反する作用。


夜の暗がりがあって、朝の光の美しさを知る。


“弱さ”を知って、“強さ”の意味を知る。


“深い悲しみ”に裏付けられ、“幸せ”の意味に気づく。


本当に嬉しいことばかりに満たされていたら、確かに最初のうちはいいかもしれないけれど、そればっかりだと、そのうちすぐに絶対飽きます。


都合の良いことばかりの日々は、退屈へのまっしぐらです。

不自由を知るから自由が嬉しい。

制限があるから解放感を味わえる。


誰にだっていつかは必ず死が訪れるから、生きることの充実を意識する。


いつかはみんなともお別れの日がやってくるのだから、今日一緒にいられるそんな時間が尊い。


痛みも悲しみも、辛いことも苦しいことも、孤独さえも、

“幸せ”を味わい深いものにしてくれるスパイスなんだって、しっかり抱きしめて。

【2013.冬】



ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
それではまた(^O^)

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