見出し画像

貴志祐介『新世界より』と攻撃抑制とホーガンの優しい巨人の話

私はSF読みなのですが、先日Twitter(とはもう呼ばないということを未だに受け入れられていません)でバズっていたこちらのランキングで、トップ10の中に読んでいないものが3作…。

読まなきゃなあということで、ひとまず貴志祐介さんの『新世界より』から手を伸ばしました。

いやあ、駆け抜けましたよ。あっという間に読みました。
上巻は1日で読んだし、上中下巻合わせても5日くらいで読み終わったというのは、大して読むのが速くない私としては、かなりの爆速。
こんなにかじりついて駆け抜けたのは、マーガレット・ミッチェルの『風と共に去りぬ』以来です。(あれは全5巻を7日で読んだ)

SFランキングから入っているので、当然SFのつもりで読み始めたのですが、最初のうちは「SFというより和製ファンタジー感がつよいな」と、上橋菜穂子さんや荻原規子さんの作品(好き)を思い出しながら読みました。あのあたりのファンタジーが好きな人は、SFというよりそちらの文脈で、結構ハマるんじゃないかと思います。


ただ、ある時点から急に「おい!やっぱりこれSFやん!マジか~!」となるんですよね!! 読んだことある人は分かるであろう、例の「は?図書館?」のあそこです。解説の大森望さんも同じあたりを物語の転換点として挙げてましたし、やっぱりあそこは爆上がりですよね~~!

あまりストーリーラインのネタバレをするつもりはないのですが、今後の話をするために必要な概念だけ説明すると、この小説には「攻撃抑制」「愧死(きし)機構」というキーワードが出てきます。

「攻撃抑制」とは、同種攻撃を避けるための生得的なメカニズムのこと(実際オオカミなどの動物にはこういう仕組みがあると言われていた時代もあったらしい)。
「愧死機構」というのは、人間が同種の人間を攻撃しようとすると、警告発作が起き、さらには攻撃しようとした側が死に至る、という攻撃抑制を実現するためのメカニズムのこと。『新世界より』の世界では、遺伝子操作により人類にこの愧死機構が埋め込まれている、らしい…ということになっています。

この本をSFとして読んだときに、私がとても気になったのは、この攻撃抑制と愧死機構というモチーフが、「人間は暴力的すぎる」という前提で、この世界に導入されていることでした。
人類がサイコキネシス(念動力)を持った世界において、人間が人間を攻撃する、殺す、戦争をする、みたいなことがどうしても起こってしまう。それも取返しがつかない規模で。
その危険を回避するために、遺伝子を改変してできないようにしてました、実は。という話なんですね。

この設定を読んだときに、SFの名作、J.P.ホーガンの『星を継ぐもの』から始まる「ガニメアン三部作」にも似たような設定があったなあと、それを一番に思い出しました。(『星を継ぐもの』はまじで私のNo.1おすすめ小説なのでいつかちゃんと記事も書きたい)

『星を継ぐもの』の続編『ガニメデの優しい巨人』で人類が出会う、異星の優しい巨人・ガニメアンたちに言わせると、地球の人類がなぜこんなにも好戦的なのか分からないと。彼らの世界には、「戦争」という言葉も「武器」という言葉もないらしい。そんなものは人類という種の利益に反しませんか?(意訳)と問われたら、確かにね…としか言えない、地球人です。

ガニメアン三部作の詳しいことはまたの機会に譲るとしても、「どうして人間はこうも好戦的で、同じ種族同士でこうも不毛に殺し合うのか」というのは、洋の東西を問わず、SF作家たちの心に到来する問題意識だったのだと思います。


同種族の中で攻撃しあうことは当たり前のことなんかではなく、そんなことをしない知的生命体や、そんなことが決して起こらない世界だってあるかもしれない。
SFが提示してくれるパラレルワールドは、そういうことを想像するきっかけを与えてくれます。

人間同士殺しあえてしまう。
このどうしようもなさの中で、でも本当はそれを遺伝子改変や地球外生命体の侵略(ガメニアンは侵略はしませんけどね!念のため。彼らは優しいので)によってではなく、人間自身の理性でもって乗り越えていかないといけない。

殺人も、戦争も、人を殺さずとも傷つけるような暴力や人権侵害やいろいろなものも、そんなことをしない人間性を全人類にインストールできたらそれは楽だけれども、『新世界より』の中のように遺伝子改変でそんなことを実現するのはやはり人倫にもとると思ってしまうし、結局そんな力技ではうまくいかないということも、同じ作品の中で明確に描かれているわけですし。

理性と想像力でもって、このどうしようもない人間の性を、乗り越えていかなくてはいけないーー。
すみません、特に解決策とか提示できるわけじゃないんですが、ちょうど原爆の日から終戦の日にかけての時期に読んだこともあり、ちょっとテーマが大きすぎる、そんなことを考えたお盆でした。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?