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ベンチャーキャピタリスト『和田圭祐』が選ぶ3冊。“読書は自分の考え方の土壌になって長く反芻されるもの”

(この記事は2019年に作成したものを再掲載しております。)

業界のトップを走る「プロフェッショナル」が薦める本とは?読書をもっと面白くする実名ソーシャルリーディングアプリReadHubが、独自インタビューをお届けするReadHubTIMES。インキュベイトファンドのパートナーとして数々のスタートアップを支援している和田圭祐氏。和田氏が、ベンチャーキャピタリストとしての考え方と共に、厳選した3冊を紹介する。ベンチャーキャピタリストを目指す方は必見。【Professional Library】

2004年フューチャーベンチャーキャピタル入社、ベンチャー投資やM&A アドバイザリー業務、二人組合の組成管理業務に従事。
2006年サイバーエージェントへ入社し、国内ベンチャー投資、海外投資ファンド組成業務、海外投資業務に従事。
2007年シード期に特化したベンチャーキャピタル、セレネベンチャーパートナーズを独立開業。

ベンチャー投資の魅力

僕は新卒でベンチャー投資の道に進みましたが、自分にとってのベンチャー投資の最大の魅力は、起業家の壮大な挑戦に長期間伴走できることです。特に僕らのファンドは、基本的に創業間もないタイミングに投資するので、新しい事業ならではの不確実性も高く、社会の変化も予想しきれないのが現実です。

この仕事の一番の醍醐味は、そういう挑戦の過程の苦楽を共にしていけるところですし、起業家が描いている未来を正しく理解すること、そして、事業の可能性を信じ抜く覚悟を持って意思決定を行うことが、僕の仕事の重要な要素だと思っています。

投資しようと思うポイント

僕が、投資を判断する事業や創業者のポイントは三つあります。

一つ目は、掲げている世界観に共感できることです。もちろん理想論やアイデアだけではスタートアップは成功しませんので、実現に向けてのアプローチやロードマップへの納得感を持って応援したいと思えるかです。

二つ目は、経済合理性です。これは強調するまでもないかもしれませんが、事業に関与するすべてのステークホルダーにとって持続可能な事業構造が組み立てられそうかという点です。

三つ目は、信念に基づいて前に進む力を強く感じられることです。起業をするということは楽しいことばかりではありません。むしろうまくいかないことも日常茶飯事です。執念深い実行力が伴わないとスタートアップの成功には繋がらないと思っています。

これら三つを総合的に高いレベルで備えている起業家だと判断できれば投資します。

逆境下のレジリエンス

起業をすると、計画通りに行くことばかりではなく、不測の事態も起こります。むしろ思い通りにならないことの方が大半ですが、諦めずに前に進み続けることが大切です。このような逆境下のレジリエンスは、起業家にとって一番大切な推進力だと思うし、応援するサポーターの一員として僕自身も持ってないといけないと思っています。

起業家が未知の領域に挑む以上、心血を注いでも解決できない難易度の高い応用問題にぶつかることもあります。我々が力になれることは限られていますが、支援できるものがあれば何でもやりますし、直接的にできることがない状況でも、前を向いてファイティングポーズをとる起業家を敬意を持って応援する姿勢を大事にしたいです。

大きなことを成し遂げたいことにオススメの本

ベンチャーキャピタリストとして起業家と大きなことを成し遂げたいと思う時に、真っ先に思い起こす本は司馬遼太郎の『世に棲む日々』です。この本は、明治維新の転換を吉田松陰と高杉新作という二世代の活躍を通して描いた歴史小説です。

吉田松陰のような第一世代の思想家は、早くに刑罰にあったり、酷い死に方をしています。実際に吉田松陰も非業の死を遂げています。そして、それらに続く高杉晋作のような第二世代の革命家は、新しいものを提示し率先して激しい行動を起こす人が多いのですが、この世代もまた戦死したり、早く力尽きる運命を背負っている人が大半です。二つの世代が時代に求められる役割と、それらが繋がる系譜がとても印象深く大好きです。既存の価値観や社会体制が崩れて、新しい社会に転換される過程というのは、ある瞬間を境に単純な線形で全てが変わるわけではなく、多くの事象が複雑に混沌と干渉しあって螺旋階段を上がっていっているような印象です。

起業家にとっての現実にも通じるところがあると思っていて、起業の道中は良い時も悪い時もありますが、良いニュースの方がメディアに露出されやすく、線で繋げると外からは一見、綺麗に線形で成長しているように見えます。でも実際の経営や事業の現場は決して美談だけではありません。もちろん僕らは焼き討ちしたり、幕府を倒したりはしませんから、実務に直接活かせるという読み方はできませんが、時代の転換点の、裏側の苦悩を想像したり、自分の中の思考の材料に加える意味で、この作品は面白いです。彼らと比べることで、自分たちの挑戦や苦悩もまだまだ小さいことと思えるし、そうやって自らを鼓舞しています。

大きな規模になったものの黎明期を知ってみたい人のための本
同じような観点になるかもしれませんが、北康利の『銀行王 安田善次郎』も、現在誰もが名前を知っている企業グループの源流となる創業者の物語や社会背景をイメージする教材として愛読しています。

みずほ銀行や明治安田生命などの金融業界を代表する企業群の出発点はなかなか想像し難いかもしれませんが、そこには苦労を倹約精神で乗り越える一人の創業者の物語があり、社会の流れに合わせて大胆な挑戦をしていく姿勢は、志を再確認させてくれます。

今の企業活動からは想像がつかない、誰か始めた人がいて、どんな時代にどんな始まりをしていたのか、安田善次郎の生涯を描いたこの作品で追体験することができます。


僕にとっての最高の指南書

僕にとっての最高の啓発書はレイ・ダリオの『PRINCIPLES』です。これは、ブリッジウオーターという大きな運用会社を経営してる金融業界の最前線の経営者が考え方の原理原則を整理した本です。世界トップクラスの運用会社の背景となっている経営思想であると同時に、彼自身の物事の向き合い方とか自分の律し方とか仲間に求めたいことを書き記しています。題名は自己啓発っぽいですがそれを超えて、経営論や組織論に適用可能な普遍性の高い金言が凝縮されています。明確な筋が通っていて、とても良書です。啓発書というよりは投資会社経営の指南書というべきかもしれません。

例えば、本書の中で「投資の聖杯」という概念を発見するくだりがありますが、自分たちの発見を理論化して再現性を高め発展させていく姿勢や、経験から何らかの機会や課題のヒントを発見して進化させるメカニズムに洞察と執念の深さを感じます。一つのアイデアを出発点として、そのモデル自体がどこまで完璧なのかよりも、発見して改善して実証しながら自分たちを進化させていく一連のプロセスと姿勢に感銘を受けます。自分たちの思考過程やコミュニケーションスタイルを厳密に定義して、それらの相互作用や体系を作るのを高い完成度で仕上げています。

ちなみに、レイ・ダリオの経済概論を学びたいなら、この本とは別に、経済がどんなメカニズムで回っているかを30分で解説した人気動画がYoutubeに公開されています。これもとても学びになるのでオススメです(笑)。

参考:



読書は考え方の土壌になって永く反芻するもの

僕にとって、読書は自分の考え方の土壌になって永く反芻されるものです。今回選んだ3冊は記憶に残る本というか永く読める本を選ばせてもらっています。

仕事に寄せると、もちろんスタートアップに関する良書もたくさんありますし、実務的な意味で非常に学びは多いです。具体的なHow-Toだけが書かれている本もかなりありますが、すぐに陳腐化しそうなHow-Toが書かれている本は敬遠しています。一部が切りだされて、目立つエピソードやシンプルな方法論に視線が集まってしまいがちですが、記憶に残りやすくて語りやすい内容と、本当に従うべき原理原則は次元が違うと思っています。テクニック論も不要とは言いませんが、「××するための○つの方法~」のようなTipsはWebにも溢れているので、本にそういうナレッジは期待していません。

むしろ、エピソードベースの本の方が好きですが、1つ1つのエピソードが全く同じ状況で自分に起きるわけではありません。経営の方法論も、成長企業からそのまま導入できるベストプラクティスもありますが、今の時代に合わせ会社の環境に応じて自分たちなりの工夫をしないといけない部分もあります。両方が大事だと思います。その引き出しを増やすために本を読んでいます。

ベンチャーキャピタリストがこの3冊を選んだ意味

この3冊は自分ならではの職業観を色濃く反映した選書だと思います。もし、金融ビジネスとかベンチャー経営に直結する実務的な知識を習得したいのであれば、これらの本は対象外もしくは後回しで良いと思います。

ベンチャーキャピタリストは、起業家の描く未来に一緒に向かって、必要な資本を提供する仕事だと思っています。今回の3冊を選んだ背景にあるのは、自分なりのベンチャーキャピタルに対する職業観というか哲学だと思います。

もしベンチャーキャピタリストを志望される方がいれば、同じような考え方を共有できたら嬉しいです。



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