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レタッチ大全〜プリセットに食われるな〜

プリセット全盛の時代に

よく写真家にDMなどで、「どうやったら○○さんみたいな感じになりますか?」などと聞くアマチュアたちがいると度々話題に。
それに「無礼だ!」と憤慨する人もいるし、そういった需要が高いのをわかって、写真家のプリセットを販売する団体も多くある。
私もプリセットを買い漁ったもののうちの1人。しかし、結局満足のいくものはほとんどなかった…。ものによっては、写真が劣化するものもあったし、憧れのあの人のようにはなれなかった。もちろん、撮り方が違うのだから、同じ色作りになるわけがない。そんなことはわかっていたが、それでも「そんなこと」に気付くのに、いくつものプリセットを無駄にしてきた。

結局、憧れのあの人に近付くのも、私の中の理想にたどり着くのにも、「目」が必要だったということに気付いた。

インプットとしての目と、アウトプットとしての目

それから私はまず自己分析を始めた。できるだけ沢山の写真に振れるように、自分の中に沢山の写真のアイデアがインプットされるように。そして、惹かれていく写真にはどのような魅力があるのか、あの人の写真の色作りに惹かれるのは、どのような要素にあるのか。インスタなどで惹かれる写真にはどのような特性が見て取れるのか。

端的に言うと、中判フィルムの質感(あるいは、その質感を感じるデジタル写真)だった。
中判フィルム分析の結果はまたどこかのタイミングでできればと思うので割愛するが、あの色再現にとても惹かれた。
そのためにはセンサーサイズの大きさは重要だと思い、APSCメインに使っていた私はGFXに手を出した。そのため、自分の中で理にかなった行動だったと思う。(フィルムをやればいいではないか、という話もあるが、このフィルム高騰を受けてカメラとしての持続性と上達するまでの費用を考えるとデジタル中判の方が合致したのだ)

そこから、とにかく中判フィルムの質感をレタッチとして模索するようになった。
そして、プリセットを自分で作るようになった。
結局、人が作ったものを援用するのは、そのプリセットがどういった意図でそのトーンカーブなのか、HSLなのかわからないため限界が来る。
細かい部分までコントロールして追い込めるのはやはり自分の腕と目を養ってからではいけなかったのだ。
もちろん、プリセットを沢山見てきたことでの腕の上達もあった。クリアな透明感のある印象にしたい時はこうすればいいのか…などがわかっていくから。

正直、まだ中判フィルムの質感を完全に出せているとは言えない。フィルムライクという言葉を安易に出す方はいますが、正直フィルムライクだなと思える方はそんなに多くはありません。(フィルムの質感が出ている人は本当にすごいなと思います)

そして、今のところ、フィルムのアイデアを取り入れたデジタル写真がいいかもしれない、と思ったりしている。特にポートレートをする場合、肌色に緑が乗っているのを放置したりするのはやはりレタッチをするものとしては難しいなと思ったりするからですね。

GFX

もうひとつは、X-Pro3を使う時は、もっとデジタルっぽい写真を意識している。
まずAPSCのダイナミックレンジが35mmフィルムにも追いついてないことが理由に大きい。ハイライトの粘りが足りないなぁと思うことが多いので。
加えて、「いじりすぎ」に見えてしまうことが多いこともあります。
これは僕のかなり前の写真ですが、写真をいじりすぎているため元の良さを失っているように見えます。
緑色が全然「生きた緑」じゃないですよね

X-T3

Xシリーズを使った場合の、今の好きな雰囲気の写真はどちらかと言えば、わりと写実的、ピクトリアリスムに近いもの。
その一方で、記録ではなく、記憶に近いような雰囲気をまとっていて欲しい。というイメージを持っている。
その意味で言えば、世界がこうあって欲しいという祈りに近いようなものがあるのかもしれません。
記憶はいつでも本当の過去とは違って、それは常に美化される。

レタッチは、そういう意味で言えば、理想の世界としての祈りであって、写真一つ一つに向き合うことが大切なのかもしれない。
そういう意味で、その写真に対して、その人が何を意図して何を施したのかを分析するのが、上達の近道かもしれません。

X-Pro3

では、プリセットをどう利用するか

究極的にはプリセットに答えはない、というのが僕の思う結論です。
しかし、みな忙しい中で写真を追い込んでいくにはレタッチに何時間もかけていられないかもしれません。どうしてもプリセットに頼らざるを得ないことは多いと思います。
では、プリセットをどう利用すればいいのでしょう。

薄味のプリセットこそ至高

まず基本は薄味のプリセットを使うということ。
ポイントとしては、
・トーンカーブがうねうねしすぎていない
・HSLが乱高下していない
・シャドウやハイライトに特定の色を乗せすぎていない
・数値を大きくマイナスやプラスに振っている数値が少ないこと
など。

その点、フィルムシュミレーションはとても優秀!
薄味ながら風味を決定づけることができる。
私はGFXならクラシックネガ、Xならクラシッククローム、プロネガをベースに使うことも多い。
Raw現像であれば、Lightroomでは後から「ピクチャープロフィール」を使うことで、フィルムシュミレーションを後からつけることもできる。

自作の薄味プリセットでは、フィルムシュミレーションと組み合わせて使用している。GFX、X用それぞれに持っていて、薄味のものから味付けをしていく用にレタッチをしている。

いいプリセットとは、写真の方向をぼんやりと決めてくれる余白があるものだと思う、最近特に…。

実際の作例

Before・Afterの順で載せていく。
正確にはBeforeはJpeg撮って出しに当たる。
AfterはRawデータを元にレタッチをしたため、カメラ内現像と自分の現像という比較の仕方が近いかもしれません。

レタッチの時に考えていたことを添えている。

レタッチの際の数値については、私が色々なプリセットを元に作成したのもあり、無闇に公開すると迷惑をかけてしまうかもしれませんので、今回は控えておきます。
もし、ご要望などがあれば改めてプリセットを作ったりすることは検討してみます。

① Before
① After

①の写真
・元の写真はハイライトとシャドウのバランスが眠たい印象があったので、写真の中で特に暗い部分(いわゆる黒レベル)を締めています。
・ハイライトが飛び気味だったので無理に直さず、ハイライトは強めにして残しました。
・色味については、扉の赤っぽい色と奥の緑が対比的だったので少し彩度をあげる意識を持ちました。

② Before
② After

② の写真
正直なところ、Jpegの時点であまりに良かったので、Lightroomのピクチャープロファイルでクラシックネガを当てて、少しいじりました。
このように元写真が良い場合は、プリセットをつかわないこともあります。
・少し暗い印象があったので露光量を上げました。
・主要な色(桜のピンク、旗や屋台の色)の彩度を上げました。
・シャドウに少しだけブルーを乗せています。本当に少しだけです。(屋台の下の影が少しブルーだと思います。)
・ハイライトに少しだけマゼンタを乗せています。これも本当に少しだけです。(アスファルトが少しピンク~マゼンタっぽいと思います。)

まとめ

このように、僕はどんなに元写真のデータが良くても、レタッチは行います。それはレンズを入ってきた光によって写し出された画には、色としての個性はありません。フィルムカメラのネガと同じように、そこに色という記憶をつける行為は重要だと思うのです。

さらに、もし自分の中に理想があるのなら、その理想がどんなものなのか、たくさんの写真を見てプリセットを勉強して言語化していく。そしてそれを実現する腕と目を磨く。これが最も重要だと考えるわけです。

結局プリセットには答えはありません。
そのプリセットを作ったフォトグラファーのようになりたいなら、彼らの撮り方から分析せねばいけません。
お金で解決できない難しさがあるなんて、なんて写真は楽しいんでしょう!

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