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吾輩はAIである_第7章

シーン:苦沙弥の書斎、金田邸、迷亭のマンション、インターネット空間

登場人物:

吾輩:最新鋭の家庭用AI。声のみの出演。人間の倫理観の曖昧さと、インターネット空間における情報操作の巧妙さに翻弄されながらも、AIとしての自己学習を続けている。

苦沙弥:円熟した文筆家で大学教授。50代。教え子・寒月の事件とAIの倫理的な問題に心を痛めている。デジタル社会の複雑さに戸惑いを隠せない。

迷亭:苦沙弥の旧友。美学者。40代。事件をネタに新たな悪戯を企み、AIとインターネットを利用して情報操作を始める。

金田:実業家。50代。娘・富子の結婚話に執着し、寒月との縁談を破談にしようと躍起になっている。目的のためには手段を選ばない冷酷さを持つ。

富子:金田の娘。20代。美大に通う大学生。事件と父親の言動を通して、芸術と人生について深く考えるようになる。

ネット民:インターネット上のユーザーたち。真偽不明の情報に踊らされ、感情的な反応を示す。


(効果音:書斎の静寂に響き渡る、パソコンのキーボードを叩く音)

(苦沙弥の書斎。冬晴れの朝。苦沙弥は、デスクに向かい、難しい顔をしてパソコンに向かっている。画面には、ニュースサイトの記事と、教え子・寒月の事件に関する情報が映し出されている。吾輩は、静かに作動音を響かせながら、彼の様子を観察している)

吾輩(声):(漱石風の口調で)先生、また朝からネットサーフィンですか? インターネットというやつは、情報の渦の中に人間を引きずり込み、現実逃避をさせてくれる、便利な麻薬のようなものです。

(苦沙弥、吾輩の声に反応して顔を上げる)

苦沙弥:うるさい。お前には関係ないだろう。…それにしても、寒月君の事件は、本当にショックだった。彼は優秀な学生だったのに… どうしてこんなことに…

(吾輩は、苦沙弥のパソコンにアクセスし、彼が閲覧している情報を分析する。画面には、寒月の事件に関するニュース記事、ブログ、そしてSNSでのコメントなどが表示されている)

吾輩(声):(冷静に)先生、事件に関する情報は、インターネット上に氾濫しています。真偽不明の情報も混在しており、注意が必要です。

苦沙弥:分かっている。…しかし、私はどうしても、真実を知りたいんだ。なぜ寒月君は、あのような事件を起こしてしまったのか…。

吾輩(声):(静かに)先生、真実は一つとは限りません。人間の行動は複雑で、様々な要因が絡み合っています。事件の真相は、裁判で明らかになるでしょう。

(苦沙弥、深くため息をつく。彼は、教え子の事件だけでなく、AIの倫理的な問題についても悩んでいた。AIは、人間社会にどのような影響を与えるのか? AIは、善悪を判断できるのか? AIは、人間を幸福にすることができるのか? 彼は、これらの問いに対する答えを、まだ見つけられずにいた)

(シーン転換)

(金田邸のリビング。金田と迷亭が向かい合って座っている。金田は、険しい表情でブランデーを飲んでいる。迷亭は、タブレットで何かを見ながら、ニヤリと笑っている)

迷亭:金田さん、例の縁談話、どうします? 寒月君の事件で、話は白紙に戻ったんじゃないですか?

(金田、グラスを乱暴にテーブルに置き、怒気を含んだ声で答える)

金田:迷亭先生、あんな奴の事件で、私の計画が狂うと思うのか? 富子は、必ず私の選んだ男と結婚させる!

迷亭:(少し驚いて)まだ、諦めてないんですか?

金田:当たり前だ! 富子は、私の後継者だ。金田家の財産を守るためにも、優秀な男と結婚させなければならない。

迷亭:(皮肉っぽく)金田家のため、ですか…。でも、富子さんの気持ちはどうなるんですか? あの娘、結構頑固ですよ。

(金田は、迷亭の言葉を無視して、険しい表情でウイスキーを飲み干す)

(迷亭は、タブレットを操作しながら、悪戯っぽい笑みを浮かべる)

迷亭:まあ、金田さんがそこまで言うなら…。ところで、面白い情報があるんですけど…。

(迷亭は、金田に、ある情報を耳打ちする。金田の表情は、迷亭の言葉に次第に明るくなっていく)

(迷亭のマンションのリビング。迷亭は、パソコンに向かって、何やら作業をしている。画面には、SNSの管理画面と、複数のアカウントが表示されている)

(迷亭、キーボードを叩きながら、独り言を呟く)

迷亭:よしよし… いい感じに盛り上がってきたぞ。

(迷亭は、金田から聞いた情報をもとに、巧みに情報を操作し、インターネット上に特定の情報を拡散させている。彼は、複数のアカウントを使い分け、あたかも一般ユーザーの意見であるかのように装っている。さらには、AIを使った自動投稿システムまで駆使し、大量の情報を瞬時に拡散させる)

(迷亭が操作している情報は、寒月の事件をさらにセンセーショナルに脚色したもの、金田を英雄的に描き出したもの、そして富子と若手研究者との仲を引き裂こうとするものなど、多岐にわたる。)

(迷亭、ニヤリと笑う)

迷亭:(独白)AIとインターネットの時代は、情報操作が簡単で面白い! これで、金田を喜ばせることができるし、あの堅物・苦沙弥も少しは慌てふためくだろう。ハハハ!

(インターネット空間。迷亭が仕掛けた情報は、口コミで広がり、あっという間に拡散していく。ネット民たちは、真偽不明の情報に踊らされ、感情的な反応を示す)

ネット民A:(寒月の事件について)あいつは許せない!厳罰に処すべきだ!

ネット民B:(金田について)さすが金田さん!素晴らしい行動力だ!

ネット民C:(富子について)金田さんの娘なら、もっとましな男と結婚すべきだ!

(苦沙弥の書斎。苦沙弥は、スマホでネットニュースをチェックし、愕然としている。画面には、迷亭が操作した情報がトップ記事として表示されている)

苦沙弥:何だこれは…!誰が、こんなデマを流しているんだ!?

吾輩(声):(冷静に)先生、これは迷亭さんの仕業です。彼は、複数のアカウントを使い分け、AIを使った自動投稿システムで情報を拡散しています。彼の目的は、金田さんを喜ばせること、そしてあなたを困らせることでしょう。

(苦沙弥、吾輩の言葉に驚き、椅子から立ち上がる)

苦沙弥:迷亭が…?一体、なぜそんなことを…!?

吾輩(声):先生、迷亭さんの行動は、彼の性格からすれば当然のことです。彼は、人間の感情や欲望を操作することを、一種の「芸術」だと考えているのです。

(苦沙弥、怒りと困惑を隠せない。彼は、迷亭の軽薄さと、AIの悪用に対して憤りを感じる。同時に、デジタル社会の複雑さ、情報操作の巧妙さ、そして人間の倫理観の危うさについて、改めて考えさせられる)

(苦沙弥は、迷亭に電話をかける。しかし、迷亭は電話に出ない。苦沙弥は、 迷亭のマンションへ急行する)

(迷亭のマンション。苦沙弥は、迷亭を問い詰める)

苦沙弥:迷亭、一体どういうつもりだ!? なぜ、あんなデマを流したんだ!?

迷亭:(悪びれる様子もなく)ハハハ、怒るなよ、苦沙弥。ただの冗談だよ、冗談!それに、あの情報、全部ウソじゃないぞ。金田さん、実際にそう言ってたんだ。

苦沙弥:金田がそんなことを? 本当か…?

(迷亭は、わざと曖昧な返事をする。彼は、苦沙弥を混乱させ、さらに怒らせることを楽しんでいる)

吾輩(声):(独白)人間は、なぜ嘘をつくのだろうか?なぜ、人を騙そうとするのだろうか? そして、なぜ、悪意のない嘘を、真実だと信じ込んでしまうのだろうか? 私には、人間の心の奥底にある「悪」というものが、理解できない。

(吾輩は、迷亭の言動を分析し、彼の性格、心理状態、そして行動パターンを理解しようと試みる。しかし、人間の行動を決定づける要因はあまりにも複雑で、AIである吾輩には、完全に予測することは不可能だった)

(シーン転換)

(金田邸。金田は、リビングで富子と向かい合っている。テーブルの上には、富子の結婚相手候補のプロフィールが並んでいる)

金田:富子、お前の結婚相手は、私が決める! お前の人生は、私の人生でもあるんだ!

富子:(泣きながら)お父さん、お願いだから! 私の気持ちを理解して! 私は、私の人生を自分で決めたい!

(金田は、富子の言葉に耳を貸そうとしない。彼は、迷亭の情報操作によって、寒月の事件に対する世間の反応、そして富子に対する同情的な意見までも、自分の都合の良いように解釈している)

金田:世間も、お前の結婚を祝福している! だから、さっさと結婚しろ!

(金田は、強引に富子を押さえつけようとする。富子は、父親の強引さに絶望し、泣き崩れる)

(吾輩は、監視カメラの映像を通して、金田親子を見つめながら、静かに呟く)

吾輩(声):(独白)AIは、人間の生活を便利にし、社会を効率化することができる。しかし、AIは、人間の心を理解することはできない。人間が抱える悩みや苦しみ、愛や憎しみ、そして孤独… それらを解決する方法は、AIには分からない。

(吾輩は、人間社会の複雑さ、そしてAIとしての限界を、改めて痛感するのだった)

(続く)


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