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リザエレ! エレミネイション+ウィンクルム EPISODE 01 『リ:スタート』 Vol.2

はじめに

 この度は数ある記事、作品の中から本作品(「リザエレ! エレミネイション+ウィンクルム」)をお手に取っていただき、心より感謝を申し上げます。

 度々のお願いで恐縮ですが、お読みいただく際の注意事項を以下に添えさせていただきます。

 本作品は現在『note』のみで連載しております。その他のブログサイト、小説投稿サイト、イラスト投稿サイトでは連載しておりません。この作品は一部無料にて公開しているものですが、掲載されている画像、文章などは著作権フリーではありません。無断転載、コピー、加工、スクリーンショット、画面収録、AI学習はお控え頂くよう、ご理解の程よろしくお願い致します。

 この作品の物語はフィクションであり、登場する人物、場所、団体は実在のものとは一切関係ありません。また、特定の思想、信条、法律・法令に反する行為を容認・推奨・肯定するものではありません。本作には、演出上一部過激な表現が含まれております。お読みの際は、十分ご注意ください。




Chapter 04 「出会い」


 石畳の通りをしばらく歩き、小さな路地を左に曲がる。
 アパート、マンション、古びた一軒家が連なる人通りの少ない道に一際目立つ一軒の煉瓦造りの建物。
 アーチ状の窓ガラスには屋号である名前とコックの帽子からたくさんの料理が出ているデザインのロゴマークが。
「ここが喫茶レストランオストロか……はぁあ~、ソースのいい匂いがする~。早く何か食べたい!」
 排気口から出る匂いに食欲をそそられ、愛叶は店の前に置かれているおすすめランチメニューの看板を見ずに入店した。入店を知らせる鐘が鳴ると、店員さんがすぐに駆けつけてきた。
 白を基調としたストライブ柄の制服を纏う濃紫こむらさき色の髪の女性店員さんは、束ね髪を揺らしながら純情な笑顔で応対する。
「いらっしゃいませ。お客様は一名様でしょうか?」
「はい、そうですぅ」
「ただいま二人席が空いておりますので、そちらでよろしければすぐご案内できますが、いかがいたしましょう?」
「あ、二人席で大丈夫です。お願いします」
「かしこまりました。では、ご案内いたします」
 女性店員さんの案内で愛叶は空いている二人席へ。移動中、彼女は店員さんのしなやかに揺れるポニーテールを見つめていた。
「こちらの席でお願いいたします。ご注文の際はテーブル中央のタッチパネルをご利用下さい」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
 女性店員さんはしっかりと頭を下げ、席をあとにする。
「あの店員さん、かわいいなぁ……」
 愛叶は小声でつぶやき、着脱したコートを背もたれに掛けて席に座る。目の前のテーブルに視線を向ける。
 テーブル中央にある画面にはレトロポップなデザインのメニュー一覧が表示されていた。愛叶は単品メニューのボタンををタッチした。
 ジャズの音楽、厨房と客席から様々な声が耳に入る中、彼女が座る席の左側、スモークガラスを隔てた向こうから、二人の女性の会話が聞こえてくる。

 『さっきの女の子助けられてよかったわね。あと一歩遅れてたら……』
 『まあな。あの女子、ここの地元民じゃないかもな。初めて怪物を見た感じだったし』

「怪物? もしかして……」
 恐る恐る向こう側の席を覗いてみると、そこには先ほどの水色髪の女の子と深緑色の髪の女性が座っていた。
「わっ!」と、小さく声を漏らし、愛叶は慌てて頭を引っ込める。何も見なかったかのように平静を装い、再びメニューを見る。
「どれにしようかな~……。さっきの二人組、すぐ隣にいるよ。こんな偶然ある? 話しかけてみようかな……。いや、二人は何者かを突き止めるまではやめておこう。様子見、様子見」
 聞く耳を立てながら席に備え付けられている棚から空のガラスコップを取り、隣にある無料のウォーターサーバーから水を汲む。水を一口飲んだ。

 『ノゾミ、今日は何食べる?』
 『あたしはいつものイカ墨カレーでいいよ。サキは?』
 『じゃあ私は、まだ食べたことのないオストロオムライスにするっかな』

「(オストロオムライス?)」

 ディスプレイにタッチし、メニュー一覧から、

 『オストロオムライス(化学調味料不使用、新鷹にいたか県産平飼い卵、ランスタリア産オーガニックキヌアを使用)』

 を、選択する。

 黄色いふわふわな卵と茶色のキヌアの香ばしさ、それを幸せそうに食べる自分の姿が彼女の頭の中で生成される。これは美味しいに違いない。そう確信した瞬間、またお腹からぐぅうの音が鳴った。
「早く食べたいからわたしもこれにしようっと。えっと、お値段は850バースコイン……安い!」

 日和ではデジタル通貨『バースコイン』と、『コンドルコイン』が使用されている。
 バースコインは主に日和とレジア諸国を中心に使われ、コンドルコインは全世界共通で使える通貨。
 1バースコイン=0・5コンドルコインという換算レート。

 『なぁサキ、聞いたか? 飲料水に歯磨き粉が混ざってた話。あれヤバくないか』
 『あっ、それ聞いたよ。大手飲料メーカーの水と緑茶に入ってたんだよね……あそこの商品好きでよく飲んでたのに、これからは飲めなくなるわ……』

「(水とお茶に歯磨き粉? 何の話だろ? )」

 店内にいる他の客たちの声が大きくなっていき、二人の会話がだんだんと聞こえづらくなってきた。
 愛叶は聞くのを一旦やめて、商品と数を入力し注文を行った。注文後は一分間遊べるリズムゲームが始まり、慣れた手つきでゲームを攻略していく。
 【PERFECT CLEAR!!】の文字とともに、テーブル下の中央の柱から球体のカプセルが出てきた。取り口に手を入れて景品を取る。
 カプセルの中身はトイプードルのぬいぐるみキーホルダーだった。
「あ、プーちゃんだ! かわいい~。どこに付けようかなぁ~、あとで考えようっと」
 カプセルをコートのポケットにしまった。

 オストロオムライスが来るまでの間、NSNS(ニュー・ソーシャル・ネットワーキング・サービス)アプリ『フェイスライン』で怪物と派手な色の女性に関する情報がないかを検索した。だが、一切その言葉に関連する記事、投稿は上がってはおらず、ただあの場所で事故が発生したとしか伝えられていなかった。
「さっきのアレ、結構なことだったよ?……日常的に起きているから詳しくは取り上げないのかな?」
 愛叶はあきらめてネット動画を見て暇を潰した。その約三分後、彼女が頼んだ商品が到着する。
「お待たせいたしました、オストロオムライスです」
「ありがとうございます!」
「ごゆっくりどうぞ」
 店員さんが去った後、愛叶はオストロオムライスの匂いを嗅いだ。
「はぁ~いい匂い~。いただきまーす!」
 手を合わせ、フォークスプーンを取ってオムライス裂き、湯気立ち昇るふわふわな卵と茶色に染まったキヌアをすくって、口の中へと運ぶ。
 程よい塩味の卵とトマトの甘味、ニンニクが効いたキヌアの香ばしい香りが彼女の中で広がる。
「う?!(うんま~い! なにこれすごい美味しい! ママに教えようっと!)」
 身体から小さなハートが溢れ出てしまうほど感激した愛叶は、オストロオムライスと自撮りをし、写真を母親に送った。
 オストロオムライスのあまりの美味しさに二口目からは夢中になって食べていた。

 例の二人組は注文した品を食べ終わると、十分ほど世間話をして席を立った。気づかれないように愛叶も席を立ち、会計をスマートに済ませ店を出る。
 愛叶は探偵のごとく、二人の後をついていく。

 オストロから二分ほど歩いた十字路で、二人は互いに手を振り別れた。水色髪の少女は左の道へと去っていき、サキという女性は水色髪の少女とは反対方向の道を歩いていく。
「どっちについていこう……。あの子はちょっと性格キツそうだから、優しくしてくれたお姉さんのほうで」


 ◇


 車一台分しか通れそうにないほどの狭い道路。商店街から離れたことで店の数は極端に減り、風景は静かな住宅地へと変わっていく。
 十メートルほど前を歩くサキは、ぽつんと現れたシンドウ理髪店という店の向かい側に立つ西海風建築の建物の前で一旦足を止めた。
 愛叶は慌てて視線を地面に逸らしてスマートフォンを取り出し、操作するフリをしながら、サキの行動を目で追っていく。
 幸いこちらに気づかれることはなく、彼女は外に置かれている小さな黒板とおしゃれかわいい洋服を着たトルソーの位置を整え、建物の扉を開けて中へと入っていった。
「ふぅ~……」
 一安心した愛叶は建物の前に移動する。
「あの人、ここの店員さんなのかな? トルソーを出しているっていうことは服を扱うお店かな」
 外から店内を覗こうとするものの、ひし形の窓はちょうど頭が収まる大きさで、しかもガラスが反射しているため、中の様子が全く見えない。
 【OPEN】の札がぶら下がる扉に近づき、耳を澄ませると、店の中からサキともう一人、女の子の声が聞こえてきた。

 『うん、来てたよ。今度は大家族のお客さん』
 『大家族? それで、服はどれぐらい売れたの?』
 『ウチが小さい頃の服三着と、小学生の時に着ていた服五着、ママの服ワンセットが売れたよ』
 『おお、結構買ってくれたね。その大家族結構お金持ってるわね』
 『子ども手当の給付金が出たから買いに来ましたって言ってたよ』
 『なんか申し訳ないわ……』
 『それと、お客さんのお母さんがまた一人身ごもったらしいから、追加で赤ちゃん服タダであげちゃった』
 『へっ?! ちょっとメル、赤ちゃん用でも一応は売り物なんだから、タダであげちゃダメよ。この前だって若い夫婦にあげてたでしょ』

「(タダであげる? ここお店だよね。そんなに有名なのかな)」

 愛叶は店の前から離れ、モノシリを起動。この店をスマートフォンでかざした。しかし、店名や詳細情報は一切表示されなかった。
「え~……」と言いながら、今度はマップを起動して現在地を調べていると、前方から突然、「お前か、さっきから後ろをついてきてるのは!」少年に近い少女の声がした。
「はっ! へ!」
 腑抜けた声で顔を上げると、そこには先ほど、サキと別れた水色髪のおさげの少女が立っていた。
 両手をポケットの中に入れている彼女は明らかに嫌そうな表情で愛叶に訊ねてくる。
「ここに何か用か?」
「あ、はい。あのわたし、この街に来てまだ間もなくて、さっき助けてもらったのでお礼が言いたくて……後ついてきちゃいました」
「あっそう。それじゃ」
「え、ちょっと!……何がどうなってるのか教えてよ! 君は何者? さっきの怪物は?!」
「知る必要はない」
 引き止めてくる愛叶に対し、少女はそう答え、店の扉を開けて中へと入っていく。
「えへぇ~、そんなこと言われても……ネットで調べても出てこないんだもん」
 店の中から声が漏れてくる。

 『おかえりノゾミ。外で誰と喋ってたの』
 『ただのストーカーに一言言っておいた』
 『ストーカー? お客さんじゃないの?』
 『客じゃないって言ってた』
 『どういうこと?』

 店の扉が開く。中からクリーム色の髪の毛の女の子が顔を覗かせた。この子がメルっていう子なのだろう。愛叶はその子と目が合うと軽く頭を下げた。
「ねえ、外に女の子いるよ? あ! お客さんじゃないなら志願者かもしれないよ!」
 愛叶が外にいることを確認したメルは扉から手を離した。
「あっ、待ってくだ……さい」
 扉が再び閉まる。
「はあ~……」
 愛叶は肩を落とし、トルソーの隣に座った。店の中からはどこか事情がありそうな言い争いの声が聞こえてくる。
 これは長く続きそうだ……そう感じた愛叶は立ち上がり、店の前から離れた。
 深くため息をついて諦めて帰ろうとしたその時、後ろのほうで何かが止まる音が鳴った。愛叶は後ろを振り返る。
 車高の高い、大きいサイズのスポーツユーティリティビークル車。色はホワイト。車の運転席と助手席のドアが開いて、中から黒いサングラスをかけたブラックスーツを着込んだ男性と女性が降りてくる。
 男性は体格のいい長身で白肌銀色短髪、女性は褐色肌の黒髪セミロングヘアーで、小柄だが筋肉隆々の逞しさが窺える。
 二人は無言で扉を開けて店の中へと入っていく。すると騒がしかった店内は静かになった。

「(あの人たち誰? なんか怖そうな雰囲気だけど……)」

 そう思い、様子をうかがっていると、僅か数分で二人は店の中から出てきた。
 じーっと見つめてくる愛叶を気にも留めず、二人は再び車に乗ると何事もなかったかのように車を発進させた。
 耳鳴りのようなエンジン音を出して走り去っていく車に視線を向けたままでいると、店の中からサキの怒鳴り声が響いてきた。今度は扉が開いているため、一言一言がはっきりと聞こえてくる。
 店の入口まで近づくと、サキが店内奥へ消えていくのが見えた。
「あらら~、どうしようか~……ね?」
 メルは振り向き、少し呆れた表情で首を傾げ、愛叶に語りかけてくる。
 彼女の右耳掛けセミロングヘア、青く透き通る瞳にときめきつつ、愛叶は尋ねた。
「あ、あの……入ってもいいですか? まだ営業中ですよね……」
「勿論だよ。入って入って♪」
「お邪魔します」
 鼻水をすすり、愛叶は店内へと足を踏み入れた。




Chapter 05 「ネオボランティア?」


 店の中に入ると人肌にちょうどいい温度の暖かさが愛叶を迎い入れてくれた。ハンカチで鼻水を軽く拭きながら店内を見渡す。
 穏やかな明かりに照らされるモダンエスニック風の店内には新品同様の古着と雑貨や家具が置かれており、二階へと続く幅の狭い手すりが付いた木製の階段が、レジカウンターと奥の部屋のすぐ隣にある。
 外から見たときよりも意外と広く感じる。店としては特に不自然なところはなく、至って普通の様子だが……。
 ここは先ほどまで怪物と戦っていた彼女たちの集まるなのだろうか? そう思うと体が緊張して固まってしまう。そんな愛叶にメルはフレンドリーに話しかけてくる。
「ねね、君は志願者だよね?」
「へっ? し、志願者? 志願者って……なんですか?」
「リザエレの志願者だよ。もしかして違うの?」
「あ、はい……。わたしはただあの二人について来ちゃって、ここにたどり着いただけなんです」
「なんだ違うんだ~……残念」
「あの教えてもらえませんか、わたしが見た怪物と……そのリザエレっていうのを」
「だよね。何のことかわからないよね。でも、ウチから言うのはあれだから、代表に説明してもらうよ。ちょっと待ってて」
 メルはそう言い、店内奥の部屋の扉を開けて中へと入ってしまった。扉上の隙間から三人のごちゃごちゃとした声が聞こえてくる。しばらくすると静かになり、部屋から三人が戻って来る。
「待たせちゃってごめんね。まずは自己紹介よね」
 サキが謝ると、彼女は自分から言うように肘でノゾミの体をつつく。
「……あ、あたしは高乃たかの希海のぞみ
「私は風林かざばやし沙軌さき
「ウチは華山はなやま芽瑠めるだよ」
「わ、わたしは勇木愛叶です。さっきはどうもありがとうございました!」
 愛叶は深く頭を下げた。
「頭なんか下げなくてもいいよ。あれがあたしたちの活動だから」
「へっ?」
 頭を上げた愛叶は訊き返す。
「あの怪物と戦うことがですか? 裸の女の人が倒れていましたけど――」
「戦って倒しているように見えるけど、あれは怪物の力を無力化するためにやってんの」
「無力化?」
「あの怪物は人間がEDCカードを使用して体を鎧機がいきに変身させているもので、その状態をイヴィディクトと呼んでる。イヴィディクトを無力化しないと警察が変身者を逮捕できないからな」
「イヴィディクト……何でそんなのと戦えるんですか? 警察じゃないですよね」
「あん。けど、あたしらリザエレはルートに所属しているネオボランティア団体だから怪物と戦える」
「ルート? ネオボランティア?(なんか強そう……)」
「ネオボランティアは有償ボランティアの一種で、簡単に言えば賃金が発生するヒーロー活動って感じかな。ルートは世界平和を目的としている国際調査機関。ネオボランティアの活動はそのルートに所属していないと行えない」
「だから戦えていたんですね……普通なら警察沙汰になるはずなのに……」
「警察にはあまりいい印象は持たれてないけどな」
 希海は頭をかいた。ため息をついた後、愛叶にこう言う。
「もういいだろこれで。で、あんたは、リザエレの志願者なの?」
「えっ……今は」
「違うならさっさと帰ったほうがいいぞ」
 希海は腕を組み、突き放すような言葉をかける。そんな彼女に対し、沙軌は怪訝そうな顔で反応する。
「希海、もう少し優しく会話出来ないですかね……」
「これは遊びでやってるものじゃないんだぞ。志願者じゃない素人にキツく言ったっていいだろ」
「そこを指摘してるの。あんたの言い方いつもトゲがあるのよ」
「うるさいな……」
 再び喧嘩が始まりそうな雰囲気に、芽瑠は視線を逸らして鼻でため息をついた。
 希海の言う通り、目の前にいる彼女たちは遊びでやっているわけじゃない。あんな怪物に対し、堂々と立ち向かえる存在になるには相当の訓練が必要だ。生半可な気持ちではやり遂げられない。ここで立ち去るのが賢明だ。関わらないほうが身のためかもしれない……昔の愛叶だったらきっとそうしているだろう。
 だが、今の彼女は違う。身勝手な欲に侵され、情けなさに浸っていた未熟な自分を終わらせて立ち直ったばかりだ。
 愛叶は口を開く。
「このまま知らないふりをして帰るわけにはいかないですよ……。少しでも人の役に立つ何かができるなら、わたしもリザエレの活動に加わってみたいです」
 真剣なまなざしで愛叶は三人に伝える。沙軌、芽瑠は顔を合わせ微笑んだ。
「希海、ルミカの代理、この子で良いんじゃない?」
「ウチもそう思う。解散を防ぐにはとりあえずそうするしかないと思うよ!」
「(えっ、代理? 解散? なんのこと?……)」
 愛叶は問いかけるように三人を見つめる。
「……ったく、しょうがないな」
 沙軌と芽瑠の意見に希海は渋々同意した。
「じゃあ決まりね。愛叶ちゃん、明日またここで――?!」
 突如、沙軌の顔色が変わり、芽瑠も希海も同じ顔色に変えて、
「イアシス、場所は? ――は? 旧臨港プロムナード南通り付近で大型のイヴィディクトが暴れてる? なんだよそれ……」
 希海はここにいない誰かに話しかけ、独り言のように呟いて反応を返した。
「私と希海だけじゃキツそうね。今度は芽瑠も来てちょうだい」
「うん! あっ、ここの店番はどうする?」
「そこの代理人に任せておけ」
 希海は愛叶を指さしたあと、沙軌とともに店の外へと出て行く。愛叶は自分を指さした。
 芽瑠が軽いストレッチをしながら愛叶に訊ねてくる。
「愛叶、この後予定とかある?」
「特に予定は……ん? なんかあったような……」
「それじゃあ店番よろしくね~」
 芽瑠はそう言って右手でピースサインを取りながら右目をウインクし、扉を開いて店の外へと出て行った。
「えっ~!? みんな出て行っちゃうの?! わたし店番なんかしたことないのに……」
 愛叶が店から外へ出る頃には、三人はすでに青色、緑色、黄色のリザエレの制服に変着へんちゃくしていて、風を吹かせ宙に浮いている。三人の戦士たちはそのまま空気を蹴って飛び上がり、空中を移動し始めた。夕焼けの空を見上げながら彼女はつぶやく。
「人類も進化したね……」
 愛叶は店の中へと戻り、店内の暖かい空気を逃がさないようドアを閉めた。レジカウンターの裏に回り、短い背もたれ付きの木製の椅子に座る。座位部には紺色のクッションが敷かれている。
「さっき、代理とか解散とか言ってたけど、前に誰かいたのかな?……。それにみんなは誰と話してたんだろう――」
 もう一度店内を見渡す。
「……誰も来ないよね? 監視カメラも無いよね?」
 ここはただの古着雑貨店じゃない。彼女たちリザエレの秘密基地のはずだ。
 愛叶は椅子から立ち上がり、店内を探索し始めた。




 お話はEPISODE01 Vol.3へと続きます。

 貴重なお時間の中、最後までお読みいただきありがとうございました!✨

 続きも読んでもらえると大変嬉しいです!😊


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