見出し画像

広がる世界

最近、心が温かくなるマンガを読んだ。
「王様ランキング」。アニメ化もされ、話題になった作品だ。
友人の何人かもその魅力にハマり、何度か話題に上っていたのだが、その時はまだ、あまり興味を持てずにいた。

今までわたしは、自分で見つけて「面白そう」「好きかも」と心が動いたものだけをチェックするようにしていた。他人が好きなものを自分も好きになれるとは限らないし、実際に見てみて「あんまり好きじゃないな」と感じてしまったとしたら、せっかく割いた時間がもったいない……。そう思っていたのだ。だからわたしは、世間の流行や話題から、一歩引いた目で眺めていることが多かった。

……今思えば、そんなふうに考えていたこと自体がものすごくもったいなかったなあと思う。

きっかけは、思いがけず職場の上司に「読んでみない?」と貸してもらったこと。マンガが好きな人で、今までにも何度かマンガを借りて読ませてもらっていた。

その日の休憩時間にさっそく読み始めてみたら、その世界観にあっという間に引き込まれて、気付いたら休憩が終わる時間が来ていて驚いた。シンプルで読みやすく、ごちゃごちゃした説明や長ゼリフなんかが全く無くてサクサク読めてしまうのだ。純粋に面白くて、そして何より、キャラクター一人一人がとても魅力的だった。

非力な主人公、ボッジが、周囲にどれだけ笑われても、期待されていなくても、決して諦めないという強く真っ直ぐな意志を持って立派な王様を目指す。
簡単に説明すると大筋はこんな感じのシンプルなストーリーなのだけれど、そこに絡んでくるキャラクター達がそれぞれ抱える複雑な事情や思いが絡んで、とても味わい深く、広がりのある内容になっている。

わたしはすぐに、この作品に登場するキャラクター達の魅力の虜になった。

誰もが心の中に光と闇を持っていて、完璧な善も完全な悪も無い。人の思いは色んな事情や背景があって簡単に移ろってしまうし、どんなに「悪い」と思えた存在にも等しく心はあって、善悪を明確に決めることなんてできない。

当たり前だけれど忘れてしまいがちなことを、このマンガは教えてくれる。そして、様々な光と闇が入り乱れる中、最初から最後までどこまでも曇りなき「光」であり続けたボッジは、あんなに小さいのにあまりにも大きな存在だった。

みんな最初はどこか見下し、諦め、哀れみすら抱いていたはずのボッジに、いつしか勇気をもらい、励まされ、救われている。その眩しくて鮮やかな逆転劇に、わたしは心の中で拍手喝采を贈った。

そしてわたしも、ボッジに救われた一人になった。ちょうど仕事で落ち込むことが多くて、不安になっていた。自分には価値が無いように思えて苦しかった。逃げ出したくなっていた。

読み進めるうち、わたしはボッジと自分を重ねていた。あんなに健気で純粋で優しくなんてないけれど、非力な自分を克服しようと頑張る気持ちは、わたしもボッジと同じだった。挫けそうになっていた心を、ボッジが優しく掬いあげて、笑いかけてくれたような気がした。

きっと、上司に勧めてもらえなければ出会うことはなかっただろうこのマンガに、わたしは宝物をもらうことができた。ずっと胸に大事にしまっておきたい宝物だ。「信じて諦めなければ世界は変えられる」。今まで何度も目にしたような、ありふれたメッセージではあるけれど、こんなに強く「そう信じよう」と思わせてくれたマンガは初めてだった。

こんな、思いがけない素敵な出会いがあるのなら、知人や友人の「おすすめ」はできる限り、チェックするようにしよう。わたしはそう決意した。今まで、自分で自分の世界を狭めてしまっていたのだと思うと、恥ずかしいくらいだ。

自分の「好き」から広がる世界ももちろん大事だけれど、自分とは価値観も考え方も違う「他人」が教えてくれる世界は、きっともっとわたしを成長させてくれる。
25年も生きてきて、わたしは今更そんな大切なことに気付いたのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?