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漫才「AI」

「なぁなぁ」

「なんや?」

「あのなあ。最近AIがどうのこうのちう話よう聞かんか? ついさっきも聞いたばっかりやねんけどなあ」

「聞くなあ」

「そやろ。なんやらコンピューターが人間みたいにモノを考えるっちうの?」

「人工知能な」

「そそそ。その、じんこうちのう、や。えーあい」

「それが最近気になってんのかいな? なんやお前らしくもない。似合わんのう~! ひひひ」

「失礼なこと言いなはんな。ワシかてなーん考えとらんことありまへんがな。いつも頭使うていろんなこと考えておりますがな。失礼やなあホンマ」

「そうムキになりなはんなや。わかっとるがな」

「AIには負けてられんからのう」

「えらい意気込みやないか」

「でな、そのAIな、どういうことに使ったら世の中ええ感じになるんやろかと、こういうことを考えてたねんな」

「ほお、そらまた大層な。どこに使うたらええとオモタんや。言うてみ」

「アンタ風邪ひきますやろ」

「なんやまたいきなり」

「アンタかてときどき風邪ひいて熱出すことありますやろ」

「まあ、そらありますわな」

「そんで念のため医者行くことありますやろ。それで薬もらって」

「ふむ」

「な。そんで、そういう人はそこら辺にたくさんおりますわ」

「おるなあ」

「すると小さな町医者も病院もな、そういう軽い症状の患者でいっぱいになると」

「そうなるわな」

「でな、医者も、初期段階の症状を確認するちう、通り一遍のあの流れをな、診察のたびに何回も繰り返すわけや」

「キミにしてはなかなかええとこに目ェつけたな」

「キミにしてはってまた余計なこと言いなはんな。まあええわ。そういうやね、通り一遍の部分をAIに任せてしまって、医者のほうはもっとややこしい症状をじっくり診て複雑な判断をするちう難しいところに力を入れられるようにしたらと、まあ、さしあたってこうオモタわけや」

「なるほどなるほど。あまり頭使って考えんでもやれてしまえるたくさんの同じような繰り返しをAIにやらしたらどうやろかと。そういうことやな?」

「そうそうそ。そういうことや」

「そこで言うとな、実はな、もう30年近くほども前にAIが流行ったときに、似たようなことが試みられたことがありますねんな」

「ほう! そうなんかいな。知らんかったなあ!」

「えーとな、知識工学の技術を応用したエキスパートシステムちうので、たとえば医者やらの専門家の知識をコンピューターに組み込んで、人間の受け答えに対して最適な結果をその都度導き出して、意思決定をさせようっちう話や。対話するみたいにや」

「へえへえ。ほんでそれはどうなったんや」

「実際に研究開発がいいセン行ったらしい。けども、下火になってしまったみたいやねん」

「へええ。なんでまた」

「簡単に言うとやね、なにがしかの意志決定をするときにはな、通り一遍の方向にはいかんことがあるっちゅうわけや」

「同じ条件でも意志や判断が変わることがあるっちゅうことか」

「そそそ。そういう話。そのあたりの、なんちゅうの?人間の機微ちうもんかな?同じことを考えててもそのときの感情や気分によって、人によっても選ぶ結果が違ってくるっちう、そういうところを判断材料のひとつとしてシステムに組み込むのがもの凄く難しかったっちうことがあったようなんよ」

「ああ~。言われてみたらそうやわな。人の思うことやら感じることちうのはややこしいもんやわ」

「当時のコンピューターの性能にも膨大なデータを処理するには限界があったちうこともあってやね」

「性能の進化はむちゃくちゃ速いからなあ」

「コンピューターの性能だけで言うたら、今は当時よりだいたい何百万倍くらいのオーダーで上がっとるちう話やでな」

「そんなにかいな!すると、もっと複雑でややこしいことをやらせられるやんか」

「まあなあ。そういうことで、その当時はAIのブームみたいなものは下火になってしもたんやわ。しばらく鳴りを潜めたと思っとったら、ここ最近またブームが盛り返してきたというな。それが今や」

「なんやら、ファッションが繰り返されるサイクルみたいな話やの」

「まあ、似とると言えば似とるかもなあ」

「技術の方は繰り返されるちうても、過去の性能に戻るのとは違うけどな」

「さっきの医者の診断みたいな話くらいなら、今のAIやったら普通に実現できるのかも知れんなあ。もしかしたらもう実現されとるかも知れん」

「そうかあ。それやったらもっと大きなことをやらせられんかなあ」

「性能が上がったちうことはそういうことやな。よりたくさんの仕事をさせられるちうな」

「うーむ......」

「あらなんやまた考え込んだな」

「そやそや。犯罪行為を感知して取り締まるようなAIを組み込んだロボットちゅうのはどやろ?」

「ああ~、犯罪なあ。悪いところやらイヤなところばかり見なきゃならん仕事やし、人の目で監視し続けるのも大変や」

「ロボットなら判断も正確やろ。人の気分によって言うてることやら判断やらが違うちうこともなくなるでな」

「まあそれは確かに。そうやけどなあ」

「なんやの?」

「犯罪行為を取り締まるんだったら、なにが犯罪行為なのかがひと通りわかっとらんとアカンやろ。あらかじめな」

「そらそうやな」

「AIに犯罪行為をひととおり教え込むってわけや。なんなら人が犯罪に至る心理のパターンもひととおり」

「そうなるな」

「そうやとするとや。AIに教え込むネタはどうやったら揃うんや?」

「これまでの犯罪記録ちうものがあるやろ。あるところには」

「そら確かにあるやろけどな、そこにない事例ちうのもこれから起こりえるやろ」

「あるな。前代未聞の事件とかあったわ今までも。なんやかやと」

「そういうのはどうやって教え込むのやろ? アレか? 事前に生身の人間が考えられ得るあらゆる犯罪をまずは実世界でひと通りやってみて、データを溜めていかなならんちうことになるんか?」

「あっ」

「そういうことにやね...」

「いやいやアカンアカン。いろんな犯罪試したらアカン」

「なんちうか、戦争がダメやっちゅうことを思い知るには戦争することが必要だったみたいな話になってしもた」

「あーあーあーあー」

「やな話になってきたな」

「気が滅入るな」

「あーあーあー、あかんあかんあかん。ヤメヤメ。話を変えよか」

「そやな、こら却下や。却下」

「ちょっと冷静になろか」

「そうしたいわ」

「まあ、AIや。人工知能や。知能言うたら生身の人間のや。人間だけやない。犬にも猫にも知能あるやろ」

「あるなあ」

「で、人工知能。人工の知能や。人が作ったな? 知能ちう名前がついとっても、結局は人間が機械使ってなにか仕事を肩代わりさせようっちうこと自体は、今までのコンピューターとなんら変わりがないねん」

「まあそうやな」

「な」

「落ち着いて考えたら、そらそうやわ」

「でな、知能やからな、そこには知識があるねんな」

「あるなあ。言うたら本能まで含まれることにもなるやろな」

「な、それは、機械で言うたらデータになるねん」

「ふむ」

「さっきの犯罪の話でもな、犯罪の知識やらなんやらちうのは、結局データになるねんな」

「なるほど。そやなあ」

「機械にものを教え込むちうたら、データを与えるちうことになるやろ」

「なるなあ」

「それ誰が与えるんや? データを揃えるのは誰や? その源はどこにあるねんな?」

「んー、人間やな」

「そやろ」

「とどのつまりは人間やわな」

「でな、機械やで。機械は壊れるもんやろ」

「壊れるなあ」

「キミがいつも使ことるそのスマホ。そん中のアプリもやね、たまに固まったり勝手に閉じてしもたりすることあるやろ」

「するなあ。あれどうにかならんのかってイラっとすんねん」

「壊れたら治すのは誰やねん?」

「あー、人間やな」

「そやな」

「んー、でも、壊れたのを直すAIちうのが出てくるかも知れまへんがな」

「壊れかたやら直しかたちう保守作業をデータとして教え込んだAIが、っちうわけや」

「そういうことになるな」

「じゃあそういうAIができたとしてやな、それ壊れたら直すのは誰やねん?」

「んーー」

「ん?」

「.......人間か」

「そやろ? そもそもやね、その保守のためのAIにやな、壊れかたやら直しかたちう作業の手順やらノウハウやら感覚やらをデータとしてそのAIに教え込むのは誰や、ちうたらどないやねん?」

「人間や」

「そうなるな。そんでやね、その保守のためのAIを保守するためのAIができたとしてや、それ壊れたら直すのは一体誰......」

「人や!ヒト!」

「そんでさらに、その保守のためのAIを保守するためのAIを保守するためのAIができたとして」

「やめんかい」

「だってそういうことやろ」

「キリがないわ!」

「まあまあまあ、で、それはどういうことかちうとやね」

「どういうことやねん」

「結局な。どんなAIが出てきたところで、そのAIっちゅう機械を保守するのは、どこまで行っても人間でしかないちうことや」

「人間の仕事はどこまで行ってもなくならんちうことに...」

「そそそ」

「AIが人間にとって代わってしまって人間のやることが奪われてしまう、みたいなこと言う奴もいるけど、それはないちうことに」

「そういうことになるな」

「うーん。なんか未来は生身の人間にとってそんなに暗くない気がしてきた」

「どんだけテクノロジーが進歩して社会が発展しても、人のやることがなくなることはないちゅうわけや」

「ふむふむ。やっぱり技術は人の未来を明るくするためのものでないとあかん」

「キミもたまにはええこと言うな」

「そらアンタ当たり前ですがな」

「そんならやね、どの辺りにAI使うたら未来がもっと明るくなるやろか?」

「んー、人の未来が明るくなるにはなにがよくなったらええやろか?」

「そや。そういうこと考えていかなな」

「…政治?」

「え」

「政治がよくなったら人の未来は明るくなると思いますです!」

「そうやけど!」

「政策やら政局の判断にAIが絡んで、意思決定のスピードが早くなってやね、それを実行した結果がデータとしてまたAIに蓄積されていって、学習効果でますます政策や政局がよくなっていくちゅうね、そうなったらええと思わんか?」

「政策や政局がよくなっていくのはいいけども!」

「いやな、ホンマにそうなってほしいねんな」

「確かにな。確かにそうやけどもな。ちょっと待て」

「なんやのもう」

「その話からすると、これまでの政策や政局をデータ化してAIに学習させるちうことになるやろ」

「うーん、そやな」

「だとするとやね、取り敢えずここ最近でもええわ。どうよ?

『記憶にありません』
『記録は残しておりません』
『その方向で検討しておるところでございます』
『慎重に、適正にですね』
『ここは質問に答える場でないと考えます』
『答弁の原稿をしっかり読ませていただきます。朗読です』
『仮定の質問にはお答えいたしません』

そういうふうにろくろくまともな答弁すらできんような国会の状況な。それデータ化して学習させると...」

「あーーいやいやいやいやいや」

「グダグダぶりが加速するだけになってしまうわ」

「それはアカン。絶対にアカン! あー、政治はAIには任せられんかあ」

「少なくとも今はてんでアカンな。もっとクオリティの高いサンプルデータが採集できなアカン」

「それや。それどうやったらできるねん」

「んー。サンプルデータの源はとどのつまり人の振る舞いやからね。まずは人が今の状況をよくしていって、よい実績を積み上げていって、それをデータ化するほかないな。まずそれが先や」

「先は長いな…ついさっき政治の場面でAIって聞こえた気がしたから、もしかしてと思ったけども」

「あ、いや、もう既に下手に適用されているかも知れん。政治にAIが」

※この作品(みたいなもの)は
 以下のニュースを一読して
 2017年8月に創作した架空の会話です。

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