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"And Just Like That ..."危機を好転できたコミュニケーション戦略_ミスター・ビック48時間でCM撮影

※ご注意:この記事には、 "And Just Like That ..." シリーズ初演のネタバレが含まれています。

私はセックス・アンド・ザ・シティ(SATC)のドラマや映画が大好きで、数えきれないほど繰り返し見てきました。なんとなく元気が欲しい時、女性の大好きがたくさん詰まったSATCを見ると頭が空っぽになり、見終わった後にキラキラした気持ちになるのです。
待望の新シリーズ"And Just Like That ..."は一気に見たい!と全話完結するその日をひっそりと心待ちにしていたのですが、連日のようにニュースサイトにネタバレ記事の掲載が後をたえません。我慢できずついつい見に行ってしまったところ、ネタバレに残念な気持ちになるのですが、思いかけずコミュニケーション戦略において好事例を見つけたので、今回は世界的な話題作"And Just Like That ..."の中で展開された、危機を好転できたケースを解説したいと思います。

ペロトン社、一夜にして株価が11%下落

第1話は、主役キャリー・ブラッドショー(サラ・ジェシカ・パーカー)のお相手でお馴染みのミスター・ビッグ(クリス・ノート)が、アメリカで人気のエクササイズバイク「Peloton(ペロトン)」を45分間ライドした後、心臓発作で死亡するという衝撃的な展開。シリーズの初放送後、ペロトンの株が一晩で11%と驚くほど急落し、ブランドにとって大きいダメージとなりました。

しかしその数日後、ペロトンは立ち直ります。この騒動に対し、迅速かつ柔軟に以下の対応をとりました。

1)心臓専門医の声明を発表し、ファンの苦悩を認め、サイクリング後に心臓発作を引き起こす可能性のある実際の健康問題を指摘。ペロトンの自転車の使用と不使用によって心臓発作を避ける方法を要約し発表。
2)広報担当者を通じて、ペロトンの自転車が番組内でどのように使用されるかは知らされていなかったことを宣言。
3)ミスター・ビックとペロトン社の人気自転車インストラクターが自転車に乗ることについて語り合う「He's Alive」というタイトルのCM広告を公開。

結果として、ペロトンはファンへの共感と理解を示し、事実を明らかにし、ブランディングを駆使して、ストーリーを有利に展開させることに成功しました。
ペロトンのインストラクターたちが、会社のメインアカウントとは別に、個別にソーシャルメディアでCM広告をシェアするという、周到に仕組まれたコミュニケーション作戦は、ファンの間で大評判となりました。ドラマチックなCM広告は、Twitterで45,000以上の「いいね!」を獲得し、ビッグの死は、ペロトンのマーケティング戦略の一部だったのではと推測する人も出るほどでした。後にこのCM広告は48時間以内に撮影されたとペロトンは述べています。

台本のナレーション:
「定期的なサイクリングは、あなたの心肺と循環を刺激し、改善し、心血管疾患のリスクを低減する」
「サイクリングは心臓の筋肉を強化し、安静時の脈拍を下げ、血中脂肪レベルを低下させる」

映画やテレビ番組で自社製品を使用するリスク

では、この事例から私たちは何を学べるでしょうか?

映画やテレビ番組で自社製品が使われる場合、どのように使われるのか、どのように描かれるか注意が必要という点だと考えます。
ロサンゼルスでマーケティングとブランディングを行うHollywood Brandedの最高経営責任者ステイシー・ジョーンズ氏は、今回の事例に対し「ペロトンが脚本を十分に理解していなかったのは不手際だった」と述べました。BuzzFeed Newsの報道によると、ペロトンは自社のプロダクトが、番組でどのように紹介されるかを知らなかったとしています。

そんなペロトンは、2019年のクリスマスに広告が炎上して株価が急落したことがあります。若い夫婦の夫が妻にペロトンのバイクをプレゼントするサプライズするという内容で、以前にこちらの記事でご紹介しました。

今回の好事例から、ペロトン社の迅速な対応は、過去の広告炎上の経験が活きていると考えます。
アメリカやイギリスではスタンダードである、コミュニケーション戦略におけるリスク管理。この分野では数年遅れをとっているとされる日本で、今年も普及できるサポートがたくさんできるといいなと思います。2022年も引き続きよろしくお願いします!


【書いた人】
大杉 春子/コミュニケーション戦略アドバイザー

PR会社(レイザー株式会社)代表 民間企業・地方自治体・省庁などのパートナーとして、PR戦略の策定から広報物の制作監修まで支援。SDGs/ESG視点からの「攻める」コミュニケーション戦略と、「守る」レピュテーション・リスク管理の2軸から広報の施策をサポート。2020年に専門家らとともに、日本リスクコミュニケーション協会を設立し、リスク管理から危機管理広報までを網羅した、リスクコミュニケーション人材の育成を展開。

内容についてのご意見やご質問はinfo@razer.co.jpにお願いします。


参照文献
・LosAngelsTimes "Peloton really filmed that snarky Mr. Big ‘And Just Like That’ commercial in 48 hours"https://www.latimes.com/entertainment-arts/tv/story/2021-12-13/peloton-big-and-just-like-that-sex-and-the-city
・TheNewsYorkTimes"‘Sex and the City’ Reboot Is Not the Only Problem for Peloton" https://www.nytimes.com/2021/12/15/style/used-pelotons-sale-satc.html
・BBC News "And Just Like That Peloton resurrects show character"  https://www.bbc.com/news/business-59632383

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