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「経済やくざ」海外進出する企業の広報担当が知っておきたいリスク

あなたの会社の海外子会社の社員が、現地の公務員に賄賂を要求されやむなく応じました。このことが検察当局に発覚し起訴され、メディアから問い合わせが殺到します。あなたがこの会社の広報担当者ならどのように対応しますか?

グローバル展開する企業の広報担当者にとって、このような危機に遭遇したときの対応も考えなくてはいけない時代になりました。

新興国などに進出した外国企業を脅して賄賂を要求する腐敗した政府関係者は、Economic Gangsters「経済ギャング」「経済やくざ」とよばれています。
グローバル企業にとってこの「経済やくざ」から、例えば港に着いた資材を陸揚げしてくれない湾岸局から賄賂を要求される、政府関係者が工事受注と引き換えに賄賂を要求する、処罰を免れる方法として賄賂を要求されるなどといった問題が大きなリスクになっています。

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外国公務員贈賄罪紹介マンガ

では広報担当者としてこのようなリスクにどう対応すればいいでしょうか?

求められる背景

OECDは開発を強化し、貧困を減らし、市場への信頼を支えるため国際商取引における贈収賄と闘う活動を行っています。そして日本は、このOECDの活動による外国公務員贈賄防止条約に基づき、不正競争防止法で外国公務員等に対する贈賄が禁じられています。
経済産業省は今年5月に「外国公務員贈賄防止指針」を改訂し、日本企業が社内で策定している贈賄防止規程その他のコンプライアンス・プログラムの内容や、贈賄防止のための実務対応を見直すことが望ましいとしています。

経産省「外国公務員贈賄防止」ウェブサイト

「経済やくざ」の問題は現地で危険にさらされる「社員の人権問題」ともされるので、SDGs達成に向けた活動で人権デューデリなどの取組みが進む潮流の現在、今後も対応がより求められることが予想されます。

人権デューデリはこちらの記事を参照

もし会社の経営陣や子会社の幹部が「この国の慣習だから仕方ない」などといった対応すると、多額の罰金を課せられたり、最悪の場合有罪となり刑務所に収監されてしまうリスクがあります。

経営者はもちろんこのようなリスクを認識する必要がありますが、広報担当者も世の中の動きを見誤らない等にリスクトレンドをキャッチすることで経営陣のサポートになります。

もしもの時の対応ポイント

ではもし「経済やくざ」に賄賂を要求されたらどのように対応すればいいでしょうか?こうしたケースでは迅速な対応が明暗をわけるので、初動を誤らないよう、以下のステップのように通報や管理ルールはあらかじめ策定しておく必要があります。

1. 有事対応(危機管理)体制をつくる
   現場に問題を抱えこませない子会社と本社の情報伝達ルールの一元化
2. 対策本部で事実関係の確認、把握
   弁護士や専門家を入れた対策チームで、事実関係の正確な把握
3. トップ主導で対応
   トップ自ら、賄賂要求には絶対応じないといったメッセージを直接伝える
4. 証拠化
   可能な限り賄賂を要求された事実の記録化

日本弁護士連合会(日弁連)は、海外贈賄防止を推進する上での実務指針に関する現時点でのベスト・プラクティスとして、ガイダンスを公開していますので、参考にされてもいいでしょう。

日弁連「海外贈賄防止ガイダンス(手引)」

広報担当者は、このように社内で策定された贈賄防止規程やその他のコンプライアンス・プログラムの内容を理解するとともに、有事の際にメディアを含めた各ステークホルダーに対し迅速な情報開示を段階的に行えるよう、リスクイベントごとにリリースするドキュメントなどを備えることが必要です。

会社の規模によりますが多くの場合、このような備えにはリソースやお金がかかります。このリソースを割くかどうかは会社の判断になりますが、問題が起きたとき多くの経営者は「やっておけばよかった」と考えます。

毅然とした対応をとる企業に「経済やくざ」は寄りつかなる一方で、脇の甘い企業はお金を吸い上げられ続けることになります。会社がリスク管理不在のままで海外進出することのないよう対応が求められています。


【書いた人】
大杉 春子/コミュニケーション戦略アドバイザー

PR会社(レイザー株式会社)代表 民間企業・地方自治体・省庁などのパートナーとして、PR戦略の策定から広報物の制作監修まで支援。SDGs/ESG視点からの「攻める」コミュニケーション戦略と、「守る」レピュテーション・リスク管理の2軸から広報の施策をサポート。2020年に専門家らとともに、日本リスクコミュニケーション協会を設立し、リスク管理から危機管理広報までを網羅した、リスクコミュニケーション人材の育成を展開。

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