統一理論

【ライブ原稿&動画】ピダハン


2017年2月11日、実の弟の誕生日ライヴに向けて作ったものです。

ピダハンについて興味わいた方はこちらもどうぞ

究極のミニマリスト、ピダハン ~神も儀式ももたない民族~

「ピダハン―― 「言語本能」を超える文化と世界観」という本、ぜひ読んでみてね。

【原稿】

ピダハンはアマゾンの奥地のジャングルに住んでいる。ピダハンは300人ほどしかいない。少数民族だ。

ピダハンは、あんまり寝ない。夜中までずっと起きてる。そして気が向いた時にうたた寝をする。
別れのあいさつは「あんまり寝るなよ、蛇が来るから」。日本では「おやすみ」「ぐっすり寝てね」と言うのに、その真反対だ。

ピダハンは、あんまり食べない。1日中何も食べなくてもへっちゃらだ。しかし目の前に食べ物があれば食べる。そして、それがなくなるまで食べ続ける。保存食を作る技術はある、が、作らない。
夜中の3時だろうと気が向けば突然狩りに出る。父親が獲物をもって帰ってきたら家族は起きだしてすぐに食べる。

ピダハンは先のことを考えない。丈夫なかごを作る技術はある、が、使い捨てのかごしか作らない。ブラジル人がくれた大事な農耕具を、商人とすぐ交換して酒や食料にしてしまう。

ピダハンは結婚式をしない。男女が一緒に住み始めたらなんとなく夫婦扱いされる。もし結婚相手が突然数日間家を空けたら、きっとよその男あるいは女と駆け落ちしている。帰って来た時に元鞘に戻ることもあるし、新しい相手と住み始めることもある。ただそれだけのことだ。

ピダハンは葬式もしない。ただ埋めるだけ。

ピダハンは一切の儀式をしない。ただ、たまに、三日三晩、食べず、酒を飲んで踊りまくりセックスをしまくる。

ピダハンは神を信じない。なぜなら、目に見えるものしか信じないから。

ピダハン語で血族に関する言葉はたったの4つしかない。親、同胞、息子、娘。目に見えないものを信じないピダハンは、見たことのある祖父と祖母以上の血縁をさかのぼらない。

というわけで、ピダハンには民族発祥に関する神話は無い。

ピダハンは、語り手が直接見聞きした話以外聞こうとしない。宣教師がイエスの話をしても、彼がイエスを直接見たことがないと知るやいなや、聞く耳をもたない。

ピダハンは知らない人のうわさ話をしない。
ピダハンは、未来をもとうとしない。ただ、この、この手の平で一瞬握ることのできる「今」「ここ」を生きる。ピダハンは神も過去も未来も噂話も儀式も保存食も時間割も血筋語りも創世神話ももたない。

ピダハンは、明日に備えない。よって、ピダハンは、明日を憂えることもしない。神とか未来とか明日とか、けして存在しない抽象概念のために「今」を削ることはしない。

よって、ピダハンは自殺をしない。宣教師が、自分の継母の自殺がきっかけで信仰の道に入ったという話を聞いた時、ピダハンは爆笑した。「自分で自分を殺すだって? ありえない。ピダハンは自分で自分を殺すことはしない」

ピダハンは神も過去も未来も噂話も儀式も保存食も時間割も血筋語りも創世神話ももたない。

でも、ピダハンには、音楽がある。
音程や音の長さによって語を識別するピダハン語は、なんと、母音と子音を捨ててハミングだけでも意思疎通できる。ちなみに母音は3つしかない。

日本にも、音楽がある。
日本には金と地位と名誉と履歴と肩書と未来と過去と八百万の神と納豆とよばれる腐った豆の保存食と先祖の墓と天皇と年金と結婚式と葬式と、音楽がある。

なお、ピダハンは、音楽以外の芸術は作らない。残るからだ。

私は小説を書いている。残るから。


さてここで突然ですが、あなたの文明度はどれくらい?! 日本文化適応度チェック!
はいかいいえで答えてね!

1 タバコはとても身体に良いので一日何百本でも吸ってよい。
2 パスワードは忘れないように1234などの覚えやすいものが良い。
3 鬱病の人は落ち込んでいるので、頑張れ!と言って強く励ましたほうがよい。
4 老人は咀嚼する力が弱まっているので、餅やこんにゃくゼリーなど、かまずに呑み込めるものを与えた方が良い。
5 部下の女子社員が生理休暇を申請してきたので、仕事のスケジュールを組みやすいように部署全員にそのむねを伝えた。
6 ライブハウスに来る客は音楽でなく友達作りに来ているので、演奏中だろうとガンガン話しかけた方が良い。
7 良い音楽をやっていれば必ず誰かが見つけてくれるから、宣伝や売りこみは一切しなくて良い。
8 みんな実は、音楽が好きなのではなくて、音楽をやっている自分が好きなだけだ。(答えはCMのあと)


「ういーっすおつかれー ねね今度の土曜あいてる? 俺のバンドメンバーの◎◎と昔バンドやってた◎◎さんて人が脱退して今やってる◎◎ってバンドのベースの人がやってる◎◎というイベントの系列の◎◎っていうライヴハウスの◎◎のスタッフの彼女の元彼がさ、今度◎◎ってイベンターの企画に出てた◎◎って人のオーガナイズする◎◎っていうフェスの姉妹イベントの◎◎ってやつのアフターパーティに出るらしいんだけど」

「その前に、あなたは誰ですか?」

「俺は…◎◎てバンドのベースの◎◎で、今日は◎◎ってバンドのサポートもやってる関係で◎◎ってやつと知り合いで、それで呼ばれて来た…」

「私は、今日の企画主の宙に浮いた扁平足というバンドのバンマスの水野健人の父の父の父の父の父の父の父の父の父の息子の息子の息子の息子の息子の息子の息子の息子の息子の娘です」

「あー、なんだ、水野君のお姉ちゃんだ!」


……という肩書を最大限に利用して、かつてはただの客の割には割とバンドマンに認知してもらえる存在となり、ライヴハウスに出るようになった今は全然営業をしないのに毎月何かしらのライヴに誘ってもらえる程度には認知されている。

でもね、私、あなたのお姉ちゃんじゃないから。
水野君のお姉ちゃんって言うのが呼びやすいのは分かる。でも私シブサワレイだから。自分でつけたレイっていう名前があるから。レイっていう、完全に無意味な名前があるから。レイちゃんって呼んでよ! 

名前なんかに意味はない。肩書なんかに意味はない。過去語りなんかに意味は無い。

説教ですか? 結構です 天皇制の正当性 徹頭徹尾 疑わなかったあなたは ゼロ戦で 戦争へ そして伝説へ

「たたかう 魔法 アイテム 死ぬ」「たたかう 魔法 アイテム 死ぬ」

逃げちゃだめだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ 死ななきゃだめだ

って、あんたバカ?

俺は音楽に命かけてるんだ!

って、あんたバカ?


「この人すごくて元◎◎ってバンドのメンバーで武道館で何万人埋めたことがあって元◎◎の◎◎さんも知り合いで」

って、は?


プロフィールは自己紹介じゃないよ。プロフィールは自己紹介じゃないよ。
プロフィールは過去だよ。プロフィールはただの過去だよ。

元何のバンドメンバーだろうが意味はない。誰の元彼だろうが意味は無い。兄弟だろうが意味は無い。元彼だって、他人だ。兄弟だって、他人だ。

プロフィールは過去だよ プロフィールは過去だよ
過去の自分すら、他人だ。


ピダハンは、しばしば、名前を変える。理想の自分になるためだ。
日本の若者も、しばしばアカウントを変える。理想の自分になるためだ。

「新宿なう」と打った時点でもうなうじゃなくて過去だ。
「新宿なう 誰か飲みませんか?」という文字列を見るとちょっと悲しくなる。ああ、私はあなたの誰かなんだなって。
誰も、「誰か」の「誰か」になりたくない 誰も、「誰か」の「誰か」になりたくない

新宿なう 誰か飲みませんか 顰蹙なう 誰でもいいんですか

こんにちは、「誰か」です! 私と飲みたいんですよね? あなた、「俺は特別な人間なう、誰かかまってくれませんか?」と思ってるならまずは目の前の私にちゃんとかまってあげることから始めませんか? 私? 私は、あなたです。二度と、私の事「誰か」なんて呼ばないでね。あなたはあなたにとっては誰でもないあなたなのだから。


今日もインターネットにはいろんな感情があふれている。
寂しい悲しい楽しい、と書いて、寂しいね、悲しいね、楽しいね、と返して、雑なでかい箱を共有して、感情を共有した気になっている。
箱の中身はみんなちがうのに。

私は才能があるので、さみしい時にさみしいといわない。
私は才能があるので、かなしい時にかなしいといわない。
私は才能があるので、たのしい時にたのしいといわない。

私はナイーヴで繊細で自分だけの感性がある。私はナイーヴで繊細で自分だけの感性がある

「渋澤さんは才能があるから女として見れない」って言われました。
嫉妬しちゃうから、ライバル心出ちゃうからって言われました。
じゃあ私は誰に「さみしい」「つらい」って言えばいいわけ?

目が大きい子が好きって言ってたのに、「何でも見透かされそうで怖い」って言われました。
「分かって」「分かって」って言ってるくせに見透かされるのは怖いわけ?
「誰か分かって」と思ってるくせに「誰かに分かられる程度の自分じゃない」と思ってるし、「誰でもいい」とか言ってるくせに全然誰でも良くない。

新宿なう 誰かのみませんか 瀕死なう 誰か助けてくれませんか


ピダハンは、死にゆく人間を助けない。
自分を助けることが出来るのは自分だけと知っているのだ。

うちの弟は、アカウントだけじゃなくて身体を使って、死んだり、しななかったりしている。
死ぬのは1回で、生まれるのは1回で、今日はどうやら彼が生き延びた28回目の節目だそうだ。
ピダハンは、誕生日を祝わない。でも、一瞬一瞬を生きるなら、毎日「今」を握りしめていれば、毎日が誕生日だ。そう、君が望むなら毎日がバースデーだ。


【解説】

『Happy Birthday Dear ×××』

「ピダハンというアマゾンの奥地に住む少数民族は、神も過去も未来も噂話も儀式も保存食も血縁関係も創世神話も、持たない」
――しかし、彼らは音楽を持っていた。

音楽の天才であるカート・コバーンもジム・モリスンも27歳で他界した。ロックスターが27歳で死ぬということは、それ以降はスターになり損ねた人が迎える余生に過ぎないのだろうか。あるいは、日付をまたぐ前にリアルアカウントを強制終了することで、その悲惨な現実から目をそらすしかないのか。……ピダハンは自殺をしない。自分を助けられるのは自分だけ。自分で自分を殺すなんて有り得ない。誰かは言った。''自分を甘やかしてやれるのは自分だけ。自分を愛してやれるのは自分だけ。自分を最高と言ってやれるのは自分だけ。'' ピダハンは誕生日を祝わない。相手にプレゼントを贈らない。Happy Birthday Dearに続く言葉は存在しない。
いっぽう、私たちはピダハンのようには生きられない。何故なら、私たちは神も過去も未来も噂話も儀式も保存食も血縁関係も創世神話も持っているから。そして、大多数の人間には必ず誕生日という特別な1日がある。だから、誰かが死な (ね) ずに歳を重ねれば、せめてささやかな祝辞を述べるべきだろう。それがたとえ、ロックスターになれなかった者に捧げるレクイエムだとしても。

この動画は、誕生日=命日を祝うものである。それ以外の意味はない。

文責 麻枝龍


【動画】https://www.youtube.com/watch?v=O87vQJ_uB1A

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