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【ライヴ原稿&動画】「 」


【原稿】

おめでとうございます。元気な男の子ですよ。

病院で生まれた赤ちゃんは、新生児室のベッドのマス目をずらっと埋めつくす同胞を見て思いました。
うわ、この世、人多くね?! 俺もう間に合ってんじゃね?!
そしてさっさとママのお腹に引っ込んでしまおうとしました。なぜならそこは定員1名で、それ以上でもそれ以下でもなかったから。でも、そういうわけにもいきませんでした。

小学校にあがった彼は、入学式の日、初めて入った教室で、ずらっと並んだ40個の机と80個の目を見て思いました。
うわ、子ども多くね?! 俺もう間に合ってんじゃね?!
そしておうちに帰りたくなってしまいました。なぜならおうちの子どもはたった一人で、それ以上でもそれ以下でもなかったから。でも、そういうわけにもいきませんでした。

そんな彼も無事小学校をあがり、大学まで進学し、やがて仕事を探し始めたころ、ずらっと並んだ就職説明会のパイプイスと黒い頭の群れを見て思いました。
うわ、働きたい人多くね?! 俺もう間に合ってんじゃね?!
そして大学に戻りたくなってしまいました。なぜなら研究室には彼の席がちゃんとあったから。でも、そういうわけにもいきませんでした。

そんな彼も就職し、結婚し、そろそろ子どもも生まれるから分譲マンションを買おうかと思いマンションのモデルルームに足を運んだところ、1フロアに23戸、それが15階分、ずらっと並んだ間取り図の群れを見て思いました。
うわ、家族多すぎじゃね?! 俺たちもう間に合ってんじゃね?!
そして嫁とお腹の中の子どもを置いて実家に帰りたくなってしまいました、土地のあり余っている、田舎の一軒家に。でも、そういうわけにもいきませんでした。

そんな彼も無事子供を育てあげ、独立させ、自身も老いていき、そろそろ墓でも買おうと思った頃、ああ、あの新生児室のベッドのマス目そっくりにずらっと並ぶ墓地の区画のマス目を見て、思いました。
うわ、死んだ人多くね?! 俺もう間に合ってんじゃね?! 俺死ぬ必要無くね?!
でも、そういうわけにもいきませんでした。

彼が死んだあと、彼のパソコンを開けた遺族は、彼のインターネットの履歴から、彼が書いたたくさんの文章を、画像を、音声を、動画を、見つけました。観ても観ても観尽くせぬ、果てしない彼の痕跡。そこに広がる世界は、新生児のベッドの1マスよりも、彼の購入した分譲マンションの1マスよりも、今彼の眠る墓地の区画の1マスよりも、何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も何倍も広かったのでした。


【セルフ解説】

世界中の面積よりも、インターネットの方が広いぞ! と言いたい曲。「インターネットばっかりやってる奴はバーチャルばっかりでリアルを見てない」みたいなことを安易に言う奴が嫌い。結局、現実を見てる奴の見てる現実だって超狭いでしょって。

↓は、この演目をやったあとの会話。


【動画】

https://www.youtube.com/watch?v=vyoEvu7nu0M


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