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9 しきたりをやめる

子供を亡くした遺族となって、初めて体験することがたくさんありました。まさか自分の子供の葬儀を行うとは思っていませんでしたが、この立場になってみて、当たり前と思っていた法事が、とても辛いことだと知りました。私たち夫婦は葬儀こそ、葬儀屋さんが勧めるまま行いましたが、その後は相談しながら、常識にとらわれることなく、亡き娘との関係を築いていこうとしました。

具体的には、四十九日以降の法事をやめ、納骨せず、喪中はがきと年賀状の習慣をやめました。やめた理由をここから言い訳のように書き連ねていきますが、私はこの方法をとってよかったと思っています。そして自由に亡き娘との関係を築けた今、とても幸せに生きています。誰かの参考になれば、こんなに嬉しいことはありません。

そもそも法要の目的とは、残されたものが故人の死を肯定的に捉える機会を提供するためだと思います。そうだとしたら、残された家族が心地よくいられることを最優先にしても良いのではないかと思うのです。

親のエゴかもしれませんが、親孝行者の娘が成仏するなど当たり前の話であって、幽霊でもいいから会いたいくらいなのです。それなのに法事の度に肉体的な別れを認識するのはとても辛い事です。もちろん心が休まる方もいると思うので、法事そのものがある事にはとても意味があると思いますが、弔いの儀式で苦しむ人がいないように、選択の自由があっていいと思います。

私がこのような事を言う事に、眉をひそめる方もいるかもしれませんが、なぜ自由ではいけないのか、この際考える機会にしていただけないでしょうか。神様は人の自由が許せない心の狭いお方なのでしょうか?それとも仏様は人が幸せになる事をお咎めになるのでしょうか?キリストは罪人が無理をするのは当たり前だと思っているのでしょうか?ご先祖様は泣いて苦しむ子孫を見たいと思っているでしょうか。そして故人は、私たちにどうやって見送って欲しいと思っているでしょうか。

少し暑苦しく語ってしまいましたが、法事をしないことを自分に認めるために、行き着いた私の答えは、神仏も故人も、私たちを苦しめようとはしていないということです。無理をする理由などどこにもないのです。むしろ、神の恩恵を受け取って、安らかでいることこそ、供養であり、信仰だと思ったのです。

そして実際にゆったりとした時間の中で、じっくりと悲しむ時間を取ったことは、私たちが愛し合ったことを証明し、これからも愛し続けるだけだと覚悟させたと思います。法事がなくても、自然に任せたことで、私たち家族は亡き娘との新しい関係を築きあげていけたのです。

次にお墓ですが、我が家にはお墓がありませんでした。正確には、義父が青森にある先祖代々のお墓をどうするかで、親戚と話がついていない状態で、父が関東でお墓を立てようかと思案中とのことでした。義父母はお墓を早急に準備しようとしてくれましたが、お墓のことを考えると、寂しくて胸がキューっと痛みました。離れたくない。お骨は家に置きたい。そして、私か夫のどちらかが死ぬ時に一緒に埋葬したいと思いました。

夫は両親が進めてくれていたこともあり、初めはお墓を建てることに前向きでしたが、現代のお墓事情は形だけのようなものもあり、次第にお墓に埋葬することにこだわらなくなりました。両親も自分たちの青森のお墓のことも解決したいので、とりあえずお墓を急いで建てることは白紙になりました。そして今では、私も夫も娘が好きだった海に一緒に散骨して貰いたいと思っています。生き物としてナチュラルなことだと思うのです。娘たちにお墓のお世話もさせたくないですしね。

そして、悩んだ末に決めたのが、喪中ハガキを出さずに、年賀状もやめるという選択です。これまで子供たちの写真入りで送ってきた年賀状は私だけで毎年100枚程度あり、長く続けている友人もいて、正直悩みました。でも娘のことを知らせて心配させるより、年賀状をサボって好き放題生きている自分を想像してもらう方がいいかなという結論に至りました。

もしも年賀状のやり取りだけの関係なら、この機会にやめるのもお互いの為かもしれませんし、また、もしもそれで気分を害してしまう相手がいたとしたら、娘のことで手いっぱいの私には面倒な関係です。実際私に面倒な関係の友人はいないと信じての決断でした。そして、そのまま年賀状という文化は私の生活からは消えました。(娘たちはそれぞれにやり取りをしているようです。)

こうして、私たち家族は、好きなように、毎月の命日を過ごし、お墓まいりも、年賀状のやり取りもない中で、娘とは毎日のように会話し、幸せな供養を続けています。娘の妹たちは何やら仏壇の姉に向かってお願い事をしたり、娘は神様のように扱われていて、生きていた頃とあまり変わらない三姉妹の光景に微笑ましい限りです。

命日についても、我が家は少し変わっているかもしれないので、そのお話も次に書きたいと思います。

つづく

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