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Cahier 2020.12.01

あともうひと月で2020年も終わり。今年は色々なことがあったせいか、時間軸が少しズレているように感じることもあり、年の瀬の実感もあるような、ないような。

さて、先月のことになりますが、さいたま国際芸術祭。

瀬戸内国際芸術祭をはじめ、アートと地域性が一体となった芸術祭ならではのワクワク感が好きでよく出かけていたのですが、昨年大問題になった「あいちトリエンナーレ2019」を機に、芸術祭はただワクワクするだけではなく、アートを通じて思考する、少なくともそれを試みる場になりました。

さいたま国際芸術祭は、旧大宮区役所をメインサイトに、旧大宮図書館や宇宙劇場、現大宮図書館などをアネックス/スプラッシュサイトとして、国内外の作家によるインスタレーションをはじめとする様々な形態の作品を展示していました。現在は使われていない場所や建物を展示場として再利用するというのも面白い試みです。

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メインサイトの旧大宮区役所1階部分は、フランス生まれのアーティスト、フランク・ブラジガントさんによるカラフルなペイント作品。

建築家・青木淳さんもどこかで書いていましたが、「かつて別の何かだった場所」は美術を展示する場所に向いている。本来の役割から解放された後の空(から)の空間こそが、アートを通じた表現という行為、そしてそれを味わい理解しようとする行為を、何らかの目的や意図を外部から強制することなく、自由に解放するからかもしれません。パリのルーヴル美術館は元宮殿、オルセー美術館は旧駅舎、そしてクリュニー美術館が修道院であったように、アートには本来の「目的」から解放された場所が結構似合うような気がします。

テーマは「花/Flower」。

オフィシャルサイトにはこのテーマに関して次のように記されています。

…一見ありきたりのように思える花は、その親しみやすさと同時に多様な芸術表現を様々な形で取り入れて提示することができる重層的な存在でもあります。(...)花をモチーフとして捉えるのではなく、テーマとして考えること。完結したオブジェや調度品としての花ではなく、花の存在と関係性に目を向けることで花のある風景が浮かび上がってきます。

老若男女問わず誰にとっても親しみやすく、シンプルでポジティブなテーマです。「花の存在と関係性に目を向けることで花のある風景を浮かび上がらせる」という点がこの芸術祭の肝で、キュレーターの方がもっとも注力したところだと思います。

中でも印象的だったのは、ミヤケマイさんの「胡蝶之夢」という作品でした。

作品の冒頭には区役所時代に使われていた「外国人生活相談室」の看板。

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中に入ると、(ここだけ撮影不可でしたが)ミヤケさんのおばあさまとお母さまが小さなテーブルを挿んでお茶をしている、二人のダイアログの風景が登場します。しかし、よく聞いてみると、二人ともそれぞれ自分の過去について一人語りをしているだけで、実際には会話として成り立っていません。でもなぜかこの二人は分かり合っているようにも見えます。女性として、そして生まれ育った土地や名前から離れた者として、永遠に噛み合うことのない独白が二重奏となって不思議なハーモニーを生み出していました。それは国内外からの移住者にしても同じで、望むと望まざるとにかかわらず、生まれ育った土地から離れた人々の存在にフォーカスし、「土地」とそこで生まれ育つ「人」を草花になぞらえることから、この作品はスタートします。

続きはまた明日!


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