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魂の灯 -46- #ppslgr

どこまでも続く、黒い帳が地底の奥底へと垂れ下がっていた。
『旧・首都圏外郭放水路』。その広大な地下空間は、かつては地下神殿などという異名でも衆俗に知れ渡っていた。そして、その役目を終えた今となってはある意味邪神を奉る魔の巣窟になっているかもしれない。そんな事も考えすらした。

閉鎖空間の闇の中に溶け落ちそうな黒尽くめに、地下神殿への封印された鉄扉を開けた管理者が身震いと共に確認する。

「本当に、一人で入られるんですか?」
「ああ、もしかしたら非常に危険な状態になっているかもしれない。だから、ついてくる必要はない。むしろそちらの安全を守れる保証が無いんでな」
「さようですか……わかりました。それにしてもそんな事になってたなんて」

深くため息をつく、中年の管理者。典型的な中間管理職の公務員と言った風情で、ため息と共にさもしくなった頭髪も地下から吹き上げてくる風に巻き上がって行く。

「いたしかたない、閉鎖されている廃棄施設を毎日監視するのも非効率的だからな」
「予算、予算ですよ。ドローン一体巡回させるのだって渋るのがお上ってもんで……確かに、誰もいない、使っていないはずの場所を巡回させるのだって本当は時間とお金の無駄のはずだったんですけどね」
「思うように世界に流れないのが水と金ってもんで。解錠の為にご足労いただき感謝する。俺から3時間経っても連絡がなかったら、その頼りにならないお上に緊急事態だと伝えてくれ」
「ええ、ええ、承知しましたよ。でも何事もないのを祈ってます、あなたのためにもね」
「重ねて感謝する。あなたは俺がここに入ったら、すぐにこの施設から離れてくれ。それでは」

管理者がうなずくと、無理に頭頂部に乗せていた髪がはらりと垂れ下がった。その様子を見ることもなく、レイヴンは深い深い現代に形作られた迷宮へと下っていく。管理者の眼には、すぐに闇の中に溶け消えた様にしかみえなかった。

「お達者で……」

―――――

「んがーっ……」

一人調査に向かった相手の事が気がかりで、文章を書くどころではない心地に陥ったバティはヤケクソ気味に背を伸ばし座椅子を鳴らす。

「あーっもう、ダメだダメダメ!アイツ一人で行かせて執筆とか出来るかっつーの!」
「気持ちはわかるが、落ち着け。何のためにアイツが一人で態々行ったと思ってるんだ」
「それはさー、わかってるけど。どうにも気がかり過ぎて文章書くどころじゃ……はぁ」

でっかいため息をついてうなだれるバティ、それを見てノアに席を外してくれと視線で促すイシカワ。それに応えてむくれつつも機巧少女は席を立つが、自身の感覚にモニター付随のマイクをシンクロさせ、二人の会話へと聞き耳を立てた。

「まだ、悩んでるんだろう?」
「そう、そうだよ。センセイはオレを表彰した時、しっかりやれって背中を押してくれたけどさ。未だにオレで良かったのかって、思っちまう」

似合わないタバコを慣れない手付きで何とか一本引き出すと、バティはそれに火をともした。

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