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論理仕掛けの偶像は自由を夢見る-4-

「R・V、止まってください」

 スピーカーモードにしておいた情報端末より、S・Cの制止の声がかかる。彼を信頼し、足を止める俺とY・G。目の前には通路の行き止まり、オフィスへと繋がる電子施錠されたスチール製のドアがあるが、S・Cが制止した理由はそうではあるまい。

「オフィス内部の空調が停止してる、辺りか?」
「ええ。このまま内部に突入すると酸素が希薄な為に十全な行動ができない可能性が高いです。こちらで空調を優先してコントロール奪取するので少し時間をいただけますか?」
「もちろんだ、何から何まで頼りにしてるぜ」
「ふふ、お任せあれ」

 自信たっぷりに返事したS・Cにハッキングを任せるとこちらはこちらで待っている間やるべき事を考える。俺が対応をしていた間、Y・Gはというと通路に置かれている飲料の自動販売機を注視していた。自販機はやはり通電していないのか、機能していないのが見て取れた。

「R・V、この自販機、なるべく傷つけずに開けられるか?」
「ああ、任せてくれ」

 彼の意図をくみ取ると俺は自販機の右側に立って大型ナイフを一閃、自販機のロック部分を切断すると自販機前面に手をかけて開く。幸いにも自販機内部にはまだ飲料物のストックが残っており、俺とY・Gで手分けして持てる分何本かペットボトルを取り出す。必要であればまた取り出せばいい。

「R・V、空調の制御奪取とオフィスの空調が完了しました。ドアのロックまであけてあるのでそのまま突入できます」
「助かる」

 短く礼を言うとY・Gと共にオフィスへと突入する。一旦ペットボトルは床に置き、戦闘態勢。前衛の俺がドアを開き突入、ハックアンドスラッシュというヤツだ。

 だが、身構えたのは幸運にも無駄に終わった。整然とした如何にも現代のオフィス、という感じの整列したデスクのオフィス内は今は尚早したサラリマン達が何人も床に倒れる惨状となっていた。ペットボトルを手に取り、手近なサラリマンを助け起こす。俺の視線の端で同様の行動をとるY・G。

「あなた……あなたはいったい……」
「お前たちを助けに来た者だ。まずは気を楽にして水を少しずつ飲め」

 俺達が予想していた通り、ここの会社員たちはビル内のオフィスに監禁されていたようだ。であれば、正確な期間こそ不明だが脱水症状を起こしている可能性は高い。事実俺が助け起こした冴えない感じのサラリマンは天の配剤とばかりにペットボトルから水分を摂取している。

「ありがとう、ございます……」
「動けるようになったらすぐに非常階段から外に出ろ。経路の障害は排除しておいた」

 俺の指示に頷くサラリマン。それを確認した俺は次のサラリマンへと別のペットボトルを掴み救助に向かう。まだ自力で動ける者には破壊した自販機を指さし自分で水分摂取するように誘導。その繰り返しで要救助者を保護した後、Y・Gから声がかかる。

「R・V、救助者の一人から何があったか聞けたぞ」
「ここまでの経緯で大体想像付くが、聞かせてくれ」
「原因はやはり、強化学習させていた仮想アイドル用AIの暴走によるものだ」
「フムン、やっぱりか」

 インターネット上のSNSアカウントを制御する、という事はAIが納められたサーバーからは各電子機器に対する通信経路が確保されていたのだろう。暴走した原因についてはまだ断定すべきタイミングではないが、少なくともこのオフィスビルがAIに乗っ取られていた理由については判明した事になる。

「プロジェクト進行におけるリスクマネジメントを失敗したんだろうが、一つわからん事がある」
「なんだ、R・V」
「Y・Gに対してSOSを送った存在だ。仮想アイドルのアカウントを通して送ってきた訳だが、オフィスビルを支配しているのは当の仮想アイドルAIだろう?」
「いや、他にも当のアカウントを使える存在は居る」

 Y・Gの言葉にこちらも合点がいく。先ほどの説明ではAIの学習元はいち個人という話だったはずだ。学習対象である人物がSNSアカウントを使用できてもおかしくはない。それどころか仮想アイドルの活動当初は、オリジナルにあたる人物が活動していた可能性が高い。

「であれば、囚われのお姫様のトコにはせ参じますかね」

 俺の軽口に実直に頷くY・G。こういうシチュエーションでも彼のタフさは揺るがないのだ。

【論理仕掛けの偶像は自由を夢見る-4-終わり:-5-へと続く

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