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冥竜探偵かく語りき~雷竜輪切り事件~ 第五話 #DDDVM

彼女の眼鏡を通して、人間族の街の様子が私の視界に映る。
今私は、自分の住処に戻った状態で、彼女の調査を見届けていた。普段私が目にする人間の領域という物ははるか上空から見下ろすばかりのもので(それですらむやみやたらに街の上を飛ぶと、彼らをやきもきさせてしまうのだが)こうして人間族の視点で間近から彼らの建築物を観察するのはとても新鮮な心持ちだ。

ワトリア君が住んでいる『アルトワイス王国』は現代において、煉瓦造りの建築物にカレカ銅製の黒ずんだ蒸気機関が随所に組み込まれている。各所に設置された蒸気機関は、常に白い蒸気を霧のように吐き出しており、生み出された動力は製粉、紡績といった多大な労力を必要とする産業へと活用されていた。

知識の上では知っていても、こうしてつぶさに観察出来るのはまた違った楽しさがある。王都は確か円状の城壁都市で、内部は四分割されており、それぞれ北は統治区、東は学府区、西は産業区、そして南は居住区として整理されていたと記憶している。もっとも、利便性の都合から完全に分割されている訳ではなかったはずだ。

ワトリア君に今向かってもらっているのは、アルトワイス王立学院。そこは王国を下支えするに足る英才達を教育するための、肝煎りの教育機関だ。つまるところワトリア君は相当に優秀な学生、ということでもある。

「ええと、本当に学院で良かったんですか?魔術協会でも」
「学院で問題ないよ。理由は三つ、まず大規模な魔術儀式を行うにあたって、事前の設計自体は学院側も協力している可能性が高い。もちろん、事件を行ったのが彼らだとしたら、だけどね」

蒸気に煙る中をゆっくりとしたテンポで歩く人々の中を、ワトリア君だけが足早に進んでいく。眼鏡を通して、一際背の高い学院の姿が既に私にも視認出来ていた。

「あと二つはなんでしょう」
「魔術士達につてがない君が魔術協会に行くよりも、学院の図書館の方がまだ情報を引き出せるチャンスがある。最後の一つは、仮に魔術によるものでなかったとして、別の可能性を探るためにも学院内の図書館には行っていただきたい」
「わかりました。確かに私がいきなり魔術協会に行っても、門前払いですよね」
「なに、調査に肝要なのは、必要な情報を拾い集めることさ。そこさえ達成できれば魔術協会に頼らずとも推理は出来る。そこは任せてくれたまえ」
「はい!」

勢い込んで返事してしまったワトリア君を、同じく学院に向かうであろう学生達が怪訝な顔で視線を送るも、彼らは彼らで勉学に励んでいるゆえか早々に視線を学院の方向に戻して歩んでいく。

「失敗しました……」
「そんなに大きな声でなくても拾えるから、どうか安心して欲しい」
「はい、了解です」

私の視界にも、学院の敷地を内外に隔てる塀が見えてきた。それは人間族、あるいは同様の形態の種族に向けたものにしてはやけに背が高く、ワトリア君のおおよそ四人分の高さがあった。

自分の職務に熱心ではない様子の守衛に挨拶を交わし、私にとっては初めての学院体験がはじまった。

【雷竜輪切り事件 第五話 終わり 第六話へと続く

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