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魂の灯 -96- #ppslgr

最後の言葉を残すさなかも、バティは装甲板に指をくいこませんと力を込めてはいた。だが、最新鋭の特殊装甲は間違っても人の指先がたつ様な、やわな代物ではない。

震える指先は、徐々にずれ落ちて、あっさりと滑り落ちた。
終わった、短い人生だったなぁ。燃え尽きに燃え尽きたバティは、末期の悔いさえ思い返すことなく、ぼんやりと終わりの瞬間を受け入れつつあった。
夜空の星が、遥か遠くに見えた。

だが。

「バティ!」

落下が、止まる。そして、バティの腕を浅黒いたくましい腕が掴み止めた。

「イシカワ…!?」
「待ってろ、今引き上げてやる」
「いや二人分一気にとか無茶だろ!というか腕がいたいいたいいたいちぎれるって!」
「そうでもないようだぜ」

イシカワの言葉と同時に、バティは自身の体重がふわりとゼロに近づく感触を覚えた。なけなしの力を振り絞ってあたりを見回すと、そこにはドレッドノートへ複雑に押し合いへし合いしながらも、その手を伸ばす五機のソウルアバターの姿があった。アステリオス、レギルングリッター、バロール、アークデウス、グラディエーター。

慣性制御技術、人型機動兵器を十全に稼働させる為の必須要件。
それを彼らは、とっさにバティの下方へと機体の腕を伸ばし、慣性方向を反重力になる形で展開。落下速度を相殺したのである。

「みんな……」

軽くなった二人を、イシカワは一気に引き上げて平地へとあげてやる。
そこは、かろうじて存続していたドレッドノートの左手の平だ。冷たいマニピュレーターの感触が、今は頼もしかった。バティはその上に転がって、荒く息を吐く。見下ろすイシカワ。

「死に損なったよ」
「なんなら、今からでも蹴り落としてやろうか?」
「やめてよ、転落からの水没、溺死なんてどうかんがえても最高に苦しい死に方じゃん。どうせならもっと痛くないやつで……そうだ、アスネ!」

バティは体だけ置き去りにして飛び起きようとするも、思うようにいかない。言うことの聞かない体を引きずって、イシカワが指差した方へ向き直る。バティのすぐ隣に転がっていた少年は、今にも崩れ去りそうな灰めいていた。

「おい、おい!生きてるか、俺の顔、みえるか!?」
「バティ……そこに、いるんだな」
「バカ、しっかりしろ!死ぬな!」

アスネは、自身を見下ろすバティとは見当違いの方向を向いて、柔らかく微笑んだ。

「ぼくの作品……おもしろ、かった……?」
「ああ、ああ!でもおまえ、あんな中途半端なとこで止めちまって……最後まで終わらなきゃ、評価なんか、出来ないだろ!」
「書けなく、なったんだ……どうしても……誰が見ているのか、わからなくなって……」

アスネは笑みを深める、バティは彼の残された手をつかんだ、つもりだった。バティが掴んだ物は砂細工めいて、真っ白に崩れ去っていった。

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