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魂の灯 -97- #ppslgr

バティの手のひらを、アスネの腕だったものが珊瑚の残滓のように流れ落ち、真っ黒な暗闇の海面へと吹き散らされていく。上がりゆく月の光の中で、バティは亡霊じみたアスネの顔を凝視する。

コクピットからようやく抜け出でて、バティとイシカワの元へ駆けつけたノアが目配せするも、イシカワも堅い表情のままかぶりを振る。

「そんな、悪い冗談やめろよ……おまえ、自分の作品ほっぽり出して、そのままくたばるんだぞ……?こんな無責任な話、あるかよ」
「そうだね、本当にその、とおり……ゴフッゲホッケホッ……はぁ」

せき込むアスネの口元からは、血の塊は出なかった。まるで大理石の彫像からつもりにつもった風化の痕跡が零れ落ちるように、白い砂が吐き出されては、なにものにもこびりつくことなく彼方へと風に運ばれていった。

「バティ、最後に一つだけ、君に頼みたいんだ」
「やめろよ」
「僕の作品を、どうか残しておいてほしいんだ」
「だから、やめろよ!背負えねえよ、そんなもの……!」
「もう、きみにしか頼めないんだ」
「うるせぇ……っ!」

押し問答を続ける二人を、影が覆った。もとより日は沈み、星月のあかりばかりが光源だった二人のもとへ、夜空の巨大な影より黄泉の使いめいた存在が降りきたった。レイヴンだ。夜闇の中ではあまりに視認しずらい男は、目を細めて現状を把握した。歩み寄っては、バティに抱えられたアスネに視線を落とす。

「バティ、まだこいつに息はあるか」
「ああ……」
「この様子だとソウルアバターシステムのセーフティを解除して、精魂尽き果てるまで機体を動かしたんだろう。馬鹿なことをしたな」

アスネは答えなかった。少年の視界は真っ暗な夜の闇で、その中で死神の目だけが幻のように瞬いている。

「自分が一番よくわかっているだろうが、お前はもう間もなく、死ぬ。それを踏まえた上であえて聞くが、この世界にまだ未練はあるか?」

アスネの目は、問いかけに張り裂けんばかりに見開かれ、頭上の男を見た。そして、血反吐を吐きだすがごとく必死の形相で訴える。

「ある……ある!あと、一か月……いや半月だけでもいい!それだけあれば僕は書きかけの作品を、ちゃんと……完成、させて……」
「よく言った」

訴えを聞き届けると、凶鳥は視線でバティに離れるようにうながす。すぐに彼の意図を理解し、アスネをおろしてイシカワとノアのところまで離れるバティ。

もはやいつ死出の旅にでるかいなか、といった様子のアスネの傍らに立つと、レイヴンは自身の右腕をまっすぐ突き出したままに、こぶしをぐっと握りこんだ。彼のこぶしからしたたった真っ赤な血のしずくが、少年の胸元にぽたりと落ちる。

と、一瞬で少年の灰の身体はごうごうと渦巻く炎に包まれ、夜闇を煌々と照らし出す。炎は青く、赤く、あるいは緑、紫などに色を変えて少年の身を焼いて舞い上がらせ、アスネは声にならぬ絶叫をあげた。

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