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天牢、空より墜ちる

 天牢は落ちる、お前が止めぬ限りな。

 逆巻く渦のランアの言葉が、ロウの頭の中で反響し、同時に先ほどの死の記憶も引きずりだされた。自分が挽肉になるのはああいうことか、と今も生生しく思い出される。

 視線の先にはもはや見慣れた石造りの天井。見るのはこれで三度目となる。一度目はランアの言葉を無視して、落ちた『天牢』ごと木っ端みじんになり、二度目はこの地に封じられた怪物、その一体に粉砕された。

「クソ……」

 身を起こす。己の身体を見定める。手足目耳鼻、全て万全だ。何もかも受け入れがたいやり直しの中で、肉体が万全に戻るのだけが救いであった。次はどうする。ロウは自分に問う。

 巻き戻る時間はざっと三日ほど。三日たてばまた確実に、死ぬ。そしてまたやり直しだ。たった三日で、この広大な迷宮を止めねばならない。ロウは渋々石牢を出た。差し込んだ光に目がくらみ、目を見張る。

「嘘だろ」

 そこは、真っ青な青空、白くきめ細かな砂浜、そして種々の異国の植物が生い茂る海岸であった。ロウの記憶とかみ合わない。そもそも天牢は遥か上空に浮かぶ途方もない迷宮塊であり、海などあるわけもなかった。

 硬直するロウを、岩が見た。いな、アメンボめいて細長い四脚を屈伸させて歩行する石人形が。中央の胴体に灯る赤い光がすぼまる。

「……ッ!」

 石の眼を見たロウは、跳び退った。が、間に合わず彼が居た場所を、岩塊が打ち砕く。肉片が飛び散り、三度目の死。

「チクショウ」

 自分の身体が砕ける感触も生々しいまま、彼はもう一度石牢を這い出た。
今度は、雪に覆われた樹氷の原が彼を迎える。これも、初めて見る景色だ。
ここでロウは歯噛みした。どうやらやり直す度に、天牢の構造は全く変わってしまうらしい。

 だが、石牢に引きこもっている訳にもいかない。それはそれで死に続けるだけだ。そんな後ろ向きの覚悟を、目の前の光景が破壊する。のっそりと起き上がった、樹氷原が。

【続く】

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