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BWD:カルティック・インターネット・ナイツ SideA #パルプアドベントカレンダー2020

丑三つ時のオフィスに、ひび割れた木魚声が響き渡る。
オフィスの白い墓標壁には『コンプライアンス遵守』『法令遵守』『完全に合法でありいかがわしい要素はない』などといった欺瞞社訓が極太の黒明朝体で塗り込められていた。

「デジ・ドラッグの締め切りまで後24時間を切りましたわよ!オマエタチきりきり働きなさい!」
「アー……アーッ……」
「タスケテ……タスケテ……」

死んだ目のオフィスカジュアル姿のクリエイター達を蔓鞭で威嚇するは、呪いカカシの如き樹精<トレント>である!
樹精が、おのが伸びたる腕を振るうたび、オフィスカジュアルが裂け、死に体クリエイターに赤いミミズ腫れが走る!クリエイターの脚には根が張り巡らされ、トイレ休憩さえ許されない!何たる非道違法労働搾取行為か!

「アッアッアッー!」
「進捗は5%!残り95%を23時間で埋めるのです!」
「ムーリィ……」
「おうちかえして……」
「だまらっしゃい!」

打鞭音と共に悲痛なうめき声があがる!おお、ブッダよ、何故かような非道を捨て置かれるのですか!?否!否である!天が、ブッダが寝た振りをキメても地には非道を許さぬ者たちがいる!

樹精が三度蔓腕をふるわんとした時、オフィスのドアが爆裂と共に宙を舞い、天井に突き刺さった。異常事態に虚の双眼を向ける樹精、ノーリアクションのオフィスカジュアルクリエイター!

「なにもの!この完全法令遵守のクリーンな我が社に何の査察ですか!?」

張り裂けた入り口からずかずかと入り込んで来たのは、白黒モノクロの男二人。

黒い袈裟コートの偉丈夫が名乗る。「カリュー」
白い洒落スーツの美男子が名乗る。「セージ」

乱入者の名乗りに怒り狂い、膨張し体表面積を拡大する樹精!

「おのぅれ、討滅者<バニッシャー>か!この会社は完全法令遵守のホワイトなスタートアップ企業なのでオマエタチの仕事はありません!お帰りください!」
「すでに現時点で労基法違反だろうが、この焚付野郎」
「近頃インターネット流通している脱法デジタル・ドラッグの出処はここだって調べはツイてる、神妙にしなー」

セージの言葉に、樹精はわなわなと振動し、枯れた根脚で地団駄!

「おのれおのれ人間!わたしから伝統的麻薬生産農業を奪っておきながら、ついには新しくスタートアップしたデジ・ドラッグビズまで踏みにじるのですか!ゆるすまじ人間!滅びよ人類!」

樹精の全身より、枯れ枝槍が唸りを上げて飛来する!その数はまるで矢の雨のごとくだ!白黒コンビに着弾するかいなかの瞬間、青い烈光が枝矢を切り払う!カリューが振るった光刃の一閃!続いてセージがタブレットにフリック魔法陣を描く!

「汝、荒野を駆け巡る者。疾駆と共に無限の痛苦と死を撒き散らす者。我が呼びかけに応えよ、汝の名は……『ペイルライダー』!」

オフィス床を黒インクが駆け巡り魔法陣を織ったかと思えば、発光と共に中央から異形が浮かび上がる。最初に姿を浮かび上がらせたのはヌバタマの装甲騎士、その頭部はドクロ意匠の兜であり、彼がまたがった馬は伝承の通り死に果てた青の駿馬。

「yo旦那、いっちょサクッと頼まぁ」
「良かろう」

青の騎士は命令に応じて、二刀を引き抜き、オフィスデスクの合間を縫って愛馬を駆けさせる。蹄鉄に踏み砕かれ四散するオフィスデスク!逃げようとする樹精、しかし根脚と馬ではあまりにも速度が違いすぎる!

「待って待って待ってくださアーッ!」

網籠のように築き上げられた樹壁は藁の家よりもたやすく切り払われ、本体の樹精の虚い眼孔に容赦なく青騎士の二刀がねじ込まれた。びくん、樹精の身体が痙攣する。

「アッアッアッアバババババババーッ!」

樹精の身体は恐るべき病に食い尽くされて見る間に黒ずみ、しぼんで、枯れ落ちて崩れていった。現代的オフィスの中央に、樹精だった黒カビめいた痕跡だけがわだかまる。
同時に、まほろばめいて消え去る青の騎士。

「はい、討伐完了っとな。ちょろい相手だったぜ」
「お前等ももう帰って良いぞ」

神話戦闘のさなかにもノーリアクションだった死に体クリエイターの一人に、カリューが肩を叩いたその時だった。
叩かれた側は砂城めいて崩れ落ち、オフィスの床へと転がった。

「……む?」
「イヒヒヒヒヒ、インターネットカワイイ、インターネットダイスキ!」
「おい、どうした」
「アーッ!アーッ!インターネットキモチイイ!インターネットサイコウ!」

今まで着座していたクリエイター達は次々発狂し、あるものは立ち上がって絶頂、あるものは転げ回って痙攣、またあるものは白目を剥いて動かなくなる。

「これは……」

オフィスのパソコン群には、白茶けたインターネットブラウザが色とりどりのサイトを映し出していた。

――――――――――――

時は21世紀。
ある狂人がもたらした革新技術によって現実と空想の壁は壊れ、現実世界に数多の空想存在が入り乱れ、侵略を開始するようになってしまったそんな時代。

世界の壁を越えて迫りくる神話超常存在を迎え撃つ者達を、貧弱一般人は討滅者と呼んだ。

――――――――――――

カリューとセージが第一発見者となった奇病、「インターネット病」の発見からはや三週間。都心は赤と緑のクリスマス祝祭とムード、街をゆく人々は迫りくる年越しを前に浮ついた雰囲気をまとっていても、その表情には何処か憂いと不安の影がある。

「インターネット病」、文字通りインターネットを経由する物品の使用を切欠にして発病する症例。症状として、自我漂白による廃人化、発狂しコミュニケーション不能となる、24時間幻覚しか見えなくなり現実に帰ってこれなくなるなどの深刻な症状が確認されており、具体的な原因については目下調査中である。

現代人の生活を支えているインターネットを引き金に発症する人事不省とあって、物品の流通は滞り、市役所の事務は進まず、人々は会うのでさえ連絡を取れずすれ違いになるなどの前時代的不便を強いられていた。

「なんつったって今どきは肉一つ仕入れるのもインターネットが欠かせねぇ。市場に行くにしたって、競り市に並ぶまではインターネットでの情報処理頼りよ」
「で、結果がこの具なしカレーって訳だな」

レトロスタイルなバーカウンターにて、カリューとセージの二人に愚痴こぼすのは坊主頭の屈強なマスター。二人が入り浸る拠点的なバー兼カフェである『涅槃』の店主だ。カリューといえば、眉根を寄せて普段とは比較にならない薄いカレーをすくっていた。

「具が無いだけならまだいいぜ、いずれルーもスパイスもライスも店頭在庫が無くなる。カップラーメンとかは買い貯め需要でとっくに品切れだ。このままいけば早晩、都心は飯抜きで干上がっちまう」
「いやー困るなー、でもどっからも依頼出てねーしなー」
「依頼がないのはインターネットがほぼほぼ止まっている様なものだからだろう」

わざとらしくすっとぼけるセージを肘で突くカリュー。同時に、ドアのベルが乾いた音を奏でる。ウェイトレスであるカスミが、つややかな黒髪を揺らして出迎えた。

「やだねぇ、オレァ金の出処が算段つかねーウチは何もしないぜー。ノーモアタダ働き!」
「良いご身分じゃないか、名探偵?報酬が欲しければ私が出そうか」
「ンギェ……」

干上がっていた彼らに声をかけたのは、そう、今しがた入店した客だ。
その人物は、神モデラーの組んだ高精細3Dポリゴンモデルよりも完璧な容貌と肢体を兼ね備えた金髪碧眼の美少女で、整った身体を紺ベースのガーリッシュな服装で隠した如何にも油断ならない存在だった。

「一名様でよろしいでしょうか?」
「ああ、ああ、いいんだお嬢さん。私はこの食い詰めたろくでなしに仕事を言い渡しに来ただけだからね」
「ではお冷だけお持ちします、どうぞおかけになってください」
「ありがとう」

うやうやしく会釈するカスミにほほえみを投げかけた後、謎の美少女はセージを挟む形でカリューの反対側のカウンターへと腰掛けた。ほっそりとした脚が床に着かず宙ぶらりんとなる。憮然とした表情のマスター。

「おかえりください!」
「釣れないじゃないか探偵君。わざわざこの私が、困窮している君のために、徒歩で依頼を持ってきたというのにね?」
「えーっ、閣下が絡む依頼ってゼッテーろくでもねーやつじゃん……やだやだ受けたくなーい」
「依頼書があるなら見せてくれ」
「はい。カリュー君は素直でいいね、流石マイ・ディアの愛弟子だよ」
「あのセンセーにそんな親しい相手が居るなんて聞いたこと無いけどな……」

ブロンド美少女の差し出したる便箋、それは確かに非インターネット的遺物なる紙書類での討滅者用依頼書であった。ミッション内容はインターネット病の流布根源の討伐。

「良い金額じゃないか、これなら文句ないだろセージ」
「カネの問題じゃねーの!オレはこのヒトがトラウマだっつーの!」
「じゃあ今日の支払いお前持ちな」
「ぐっ、グヌヌヌヌヌ……ウケマス」
「よし、依頼成立!じゃあ任せたよ凸凹コンビ」

そこらの凡夫など百人単位で魅了せしめる晴れやかな笑顔でそう言い切ると、ブロンド美少女は出されたコップを優雅に傾けた後に軽やかに席を立った。

「ところで、俺達はインターネット病の出処だけ叩けば良いのか?首謀者の吊し上げまでは指定されていないが」
「うん、そっちは別口に頼むから。二面作戦というわけさ」
「承知した」

来た時と同様に、謎のブロンド美少女は名乗りさえあげず幻のように去っていった。カランと鳴ったベルが止まると彼女の痕跡はカウンターに残されたコップと、カリューが持つ依頼書ばかりとなる。
セージは依頼書をまじまじと見てはカウンターに突っ伏すと、彼の人生で何度目かというサイズのクソデカため息を吐き出した。

「受けちまったかぁ~……」
「どっちみちやる気ではあっただろ、おまえ」
「そうだけど、余計なケチがついた気分だぜ。ありゃオレにとっちゃ百万匹の黒猫よりやばいバッドフラグなんだ」
「働かなきゃどっちみちデッドエンドだろが、キリキリ働けい」
「へーい」

カリューとマスターの二人にせっつかれ、セージは渋々と重い腰を上げた。
仕事の気配に、カスミもまたカウンターへとスカートのフリルを揺らして駆けつける。

「討滅者のお仕事ですか?私も行きます!良いですよねマスターさん」
「ああ、良いぜ。どっちみちインターネット病が解決しなきゃロクなメニューが出せねぇしな。カレーは具なし、ナポリタンはケチャップ漬け、ショートケーキはスポンジだけって具合だ。店は俺だけで良いから、とっとと解決頼むな」
「へ~い……」

巨塔の如き姿勢のカリューに、黒百合の清楚さのカスミに対し、セージは路傍のシケモクめいたしょんぼり加減であとに続く。そこにかかるバーのマスターの声。

「おっと、お前等行く前に表の連中は掃除していってくれよ」
「ハ?」

言われて駆け寄った窓からは、一斉のシュプレヒコールがその場の全員の鼓膜を打ち叩いた。デモ隊だ、大通りを埋め尽くさんばかりの。

「インターネットをー!開放せよー!」
「インターネットバンザーイ!」
「アアアアアインターネットアアアアア」
「横暴な政府は直ちにインターネットを開放せよーッ!」

名状しがたき罵声を挙げるインターネット解放戦線デモ隊に、セージは塩をまかれたナメクジよりしおしおになった。

「……デモ隊じゃん、オレたちには関係ないぜ?」
「営業の邪魔だってんだ。どうせ出ていくには片さないとダメだろ」

すっとぼけてんじゃねぇぞ、というマスターの眼に肩をすくめるセージ。
そんな彼を他所に、カリューとカスミはまどろっこしいとばかりに窓から飛び出していく。カスミの古式ゆかしい、フォーマルメイド服のフリルがたなびいた。

「俺が車を回す、悪いが隙間をあけておいてくれ」
「りょうかいしました!」

歩道へ着地するやいなや、カリューは振り向かずに路地裏の駐車場へ走り、デモ隊の前にはカスミただ一人が残される。

「インターネットをー!かえせー!」
「いあいあインターネット!んがんがインターネット!」
「インターネット病は怒り狂ったインターネットの祟りである!」
「インターネットを崇め奉りお怒りを鎮めるのだ!」

理不尽な罵声を挙げるインターネット解放戦線デモ隊が、不意にぐわりと宙を舞った。まるで見えざる鉤爪に捕らえられたかのごとく、カスミに近いものから次々と吹き飛んで宙吊りとなっていく!

「ごめんなさい、どうか少しだけ場所を空けさせてくださいね」

決して少なくない人数のデモ隊が、あたかも母猫にたしなめられた子猫めいて空中にぶら下げられ、無力化されていく。もっとも、傷の一つもつけられていないせいか、デモ隊は空中でも一心不乱に自分たちの主張を繰り返すばかりで、恐慌に陥る様子さえない。

「それにしても、ちょっと数が多すぎますね……」

頬に指先当てて可愛らしく首をかしげるカスミの横へと、タブレットフリック召喚をかざして、遅まきながらセージも着地する。

「其は夜闇に溶け落ちし者。其は瞬きの影に潜みて夢見へと誘う者。我が呼びかけに答えて来たれ、其の名は……『ザントマン』!」

昼間都心の歩道が歪み、黒線でもって輪郭を描かれた何者かが二者の背後より奥ゆかしく歩み出た。まほろばの影めいてゆらめいた輪郭を持つその存在から、しゃがれた声が滲み出る。

「ヒョヒョヒョ、あるじ……また、ですな?」
「あー、まただよまた。頼むぜザントマン」
「カカ、たまには道真公辺りに、一面焦土にしてもらえばよいのではないじゃろか?愚か者にはいい薬じゃってのうなんて……ヒョハ、じょうだん、冗談」

輪郭線は本気とも冗談とも取れない口調でこぼすと、やおら跳躍した。その背にはサンタのそれよりも大仰な袋が描かれている。彼はそのしわがれた手を袋にねじ込み、拳いっぱいの砂を投げはなった。

「辺り一面の狂気の花畑に、まどろみの蓮を!眠れ悪童共!」

するとどうであろうか、砂をかかった空中から路面から、辺り一面のインターネットデモ隊がすやすやと眠りに落ちていくではないか!大通りを埋め尽くしていたデモ隊は、残らず深き眠りへと引きずり込まれ、昏倒していった。そのうち、道路を塞いでいる連中を丁寧にカスミの見えざる手が歩道へと並べていく。

「これでよし、と。後で警察に連絡して、保護していただきましょう」
「やさしいねぇカスミちゃんは」

と、同時に空いた道路へ滑り込む様に、黒のレトロカーが滑り込んでくる。もちろんカリューの車だが、彼の趣味ではなく単に安物を買っただけであった。

「乗れ、二人共。追加のデモが来る前に行くぞ」

――――――――――――

「目的地はナビに回した、そこに向かってくれよ」
「承知した」
「アレ?もう何処にいけば良いかわかってるんですか?」
「コイツがカネになるトラブルに網を張ってない訳がない、前々からカネの出処さえ算段がつけばすぐどうにか出来る様に下調べをしてたんだろう。そうだな?」
「そゆこっと。もっとも閣下が絡む話なら他の奴に横流ししたんだけどなぁ!」
「誰に流す気だ誰に、こんな厄ネタを」

車の外では景色が飛ぶように移り変わり、ETCゲートを経て首都高に至る。

「じゃあ、インターネット病の原理もご存知で……」
「もちろん、カスミちゃんは『サブリミナル効果』って知ってっかい?」
「ええと、潜在意識に働きかけて人間に影響を及ぼす現象、だったと思います」
「正解、要するにそれなのさ。インターネット病は」

代わり映えに欠けるコンクリートジャングルを遮るように、隣車線に大型のトラックが割り込んでくる。構わず講釈を続けるセージ。

「何処の誰が考えたんだか、そいつはインターネットを経由してありとあらゆる端末にサブリミナル効果を仕込む事を思いついたんだ。いやー、悪魔的な発想で、人の心がねーよ。今どきインターネット使ってない奴なんてほぼいないのに、そこにサブリミナル仕込むとかさ」
「そんな事が出来るんですか?」
「技術的な話をすると長くな、ぐわーっ!」

衝突!黒山の如き大型トラックがレトロカーの後方へ強襲!

「おいでなすったな!」
「だからもっと頑丈で早い奴にしろって言ったのに!」
「すぐ壊されるんだから一緒だろうが!むしろ廃車代が浮く!経費扱いで!」
「壊される前提で車を買うなよ!」

衝突!大ぶり力士めいた大型トラックがレトロカーの左方から強襲!

「きゃっ……」
「クソッ、離脱できねーのかカリュー!」
「無理だな」

衝突!殺戮アイアンマンモスの如き大型トラックがレトロカーの右方から強襲!

レトロカーのおよそ六倍の質量を持つ大型トラック群は四方を取り囲み、高速走行からのサンドイッチ!レトロカーを挟み込む!軋み悲鳴をあげる車体!

「正気かよコイツラ!」
「洗脳されてんだから正気じゃないだろ」
「美味いこと言ってる場合かっつーの!」
「左は私が何とかします!」

言うが早いか、カスミの見えざる霊障がトラックの車輪を捕らえたかと思えば、高速ニンジャJAFが取り付いたかの如くタイヤのボルトを解体、一瞬のウチに走行機能を奪って脱落させる!

「右は俺だな」

カリューはハンドルを押さえたままに右腕に長大なる数珠を掲げ、硝子を打ち破り、トラックの車輪へと数珠を鞭めいて叩きつけた!見る間に車輪へと絡みついて強引に回転を止める数珠!右方トラック横転脱落!

「あらよっと」

左右の空間が空くと同時に、一呼吸でもってカリューはハンドルを切って前後のトラックから外れ、追い越し車線からのレッドゾーン加速!

「カスミ、前後の連中も頼む」
「頼まれました!」

猛追せんと加速するトラックだが、場所を選ばない霊障タイヤ解体攻撃の敵ではない!八輪のタイヤが同時に脱落すると、殺戮猛獣めいたトラックは香箱座りする張り子の虎へと成り果て、高速に放置されてしまった。

「うへーぇ。黒幕が筋金入りの人でなしだと妨害もイかれてるぜーぇ。カリュー、早いとこ現場入り頼まぁ」
「うるさい気が散るだまってろ、やることが無いなら警戒でもしてるんだな」
「へーい」

ベコベコに凹みながらも走行能力を保ったレトロカーは、滑るように首都高から抜け出て都心から離れた奥多摩の秘境へとなだれ込む。申し訳程度に舗装された田舎道の先には、不釣り合いな白い墓標めいた建造物。

「あれか」
「アレアレ、関東一円の通信を高速化する、そういう触れ込みで建てられた最新鋭のデータセンターさ」

――――――――――――

「インターネットを讃えよ」

厳重な電子警戒態勢を保つデータセンター入り口にて、幻想存在による汚染の疑惑を御題目に、調査を名乗り出た三人。そんな彼らを出迎えた受付係は開口一番にこう述べた。額に手を当て眼を覆う三人。

「のっけからコレか」
「インターネットを……讃えよ……!」

野生の猿同然にインターネット賛美にて威嚇する受付係に、カリューはツカツカと歩み寄ると、おもむろに喝破した。

「破ァッ!」
「アバーッ!」

裂帛のボンズ・シャウトによって白目を剥いて受付に倒れかかる受付係。
セージはというと慣れた様子で受付デスクに飛び込み、開けっ放しの電子金庫よりIDカードを他二人に投げ渡す。

「いつもの事だけどぶった切るのは最後の手段にしとけよカリュー。爆破もな」
「チッ」
「もっとスマートにやろうって気はないんですかね我が相棒は……」

明らかに不満げなカリューは、先頭をきってガラスゲートにIDカードを当てて何事もなく通る。このガラスゲートはIDカード無しに突破しようとする全裸中年乱入者を、粉微塵にすりつぶす危険モデルで実際危ない。

ずかずかといくカリューを先頭に、終末医療機関めいた味気ない白壁の通路を抜けていくほどに異様な空気が一行を包み込んだ。空調管理が行き届いているはずのデータセンターを持ってして、その空気は重くよどみ、息苦しさにみちみちている。およそ最新鋭の現代施設に漂っていていい空気ではない。

一行がたどり着いた、サーバールームにつながる二重扉は、大仰な観音開きで、まるで核シェルターのごとき威容。そして邪悪な空気はその厚ぼったい金属扉をして、重く漏れ出ていた。

「さあて、SAN値チェックのお時間です。二人共発狂すんなよ?」
「大丈夫です」
「何を今更」
「へへ、頑丈だねぇ二人共。オレはもううんざりだってのに……さあて、御開帳だ」

ギシリ、新築の建物とは思えない苦鳴をこぼして、中央扉が開いた。
瞬間、どっと中の禍々しい空気が突風となって通路に吹き抜け、一行の横を駆け抜けていく。

「こいつはヒデェな、OhMyブッダ」

そこは、データセンターらしからぬ高層吹き抜け構造となっており、中央には集合オブツダン塔めいたUNIXサーバーラックの塊が集積され、その禍々しいオブツダンを取り囲むように無数のインターネット狂人達が、一心不乱に祈りを捧げている。

「インターネット様ぁ、どうかどうか、お救いください!」
「あはっあはっあはっ、インターネットサイコウ!」
「南無大日大聖不動インターネット王……」
「ひらにひらに、お怒りをお鎮めくださいインターネット様……!」

辺り一面には等間隔にて墨色のロウソクが黒混じりの灯火を上げて黒煙を噴き、それを天井の空調が呻き声と共に飲み込んでいく。最新鋭のサーバールームにして、ここは邪悪なる祈りの部屋と化していたのだ。

「アレか、わかりやすくていい」

空気を読まず光刃を抜き放ったカリューが中に踏み入った途端、インターネット狂信者達は一斉に入り口へとたなびいた。老若男女色とりどりではあるが、その表情は肉を見たゾンビーのそれだ。

「イーンーターネーッートーッ!」
「イーンーターネーッートーッ!」
「イーンーターネーッートーッ!」

次々に叫び声を上げ掴みかかってくるインターネット狂信ゾンビー集団!
さしものカリューも一般人を斬るほど傍若無人ではない、ないが、数珠を鞭めいて振るい容赦なく殴打する!弾けとぶインターネットゾンビー!

「アバーッ!」
「喝ッ!」
「アアアアアアアーッ!」

ボンズ・シャウト!前方のインターネットゾンビーが一斉に吹き飛び、白目を剥いて転倒!しかして数秒後には痙攣と共に戦線に復帰する!

「洗脳が深い、本体を強引に割るぞ!」
「はい!」

モーゼめいてインターネットゾンビ共をなぎ倒して押し開き、一行は強引にUNIXオブツダンへとたどり着く。その麓より見上げると、インターネットUNIXオブツダンはより一層、その内側に冒涜性を感じさせた。
迷わず、カリューは握りしめた光刃を振り上げる!輝きサーバールームの暗がりを照らす神秘的な刃!

「悪霊!退散!」
「……!ミュルミュルーッ!」
「ムゥーッ!?」

恐るべき光の刃がオブツダンに到達せんとした瞬間、サーバーラックは内側より爆裂した。否、爆裂したかのごとき勢いで秘められていた物が開放されたのだ……!自らに飛びかかるLAN触手を切り払い、後退するカリュー!彼の眼に、ラックの狭間よりはみ出たインターネット肉がうつる!

「こいつは……!」
「驚いた、ニューロンの速さって例えにしても、生物を通信集積機器にすんなよ!」
「ええと……言うなればサーバーミミック、でしょうか……」

沈痛な面持ちで命名するも、カスミは冷静さを保ったままに迫りくるインターネットゾンビーの猛攻を霊障ガード!前門のインターネットミミック邪神、後門にはインターネット狂信ゾンビーの群れ!絶体絶命か!

「こんなんだから閣下の依頼受けたくなかったんだヤダーッ!」
「愚痴ってる場合か!真面目にヤバいぞセージ、何か手はあるか!」

頭をかきむしって悶絶するセージに、LAN触手につながったインターネット肉分銅が迫る!インタラプトと共に叱咤するカリュー!

「……あるよ、あるぜ、でも二人共怒らないでくれよな!?」
「なんだろうが死ぬよりはマシだろうが!さっさとしな!」
「こっちも長くはもちません、早く!」
「マジで後で怒らないでくれよ!」

ヤケクソ気味に叫んだセージは、手にしたタブレットにふにゅふにゃした幼稚園児が書いたかのごとき魔法陣を描く!

「汝、虹をまといて空の狭間を征く者。汝、数多の楽器と共に称賛を受け入れる者。汝、果てなき楽奏の高みを統べる者……ええい!汝の名は……ソロモン七十二柱が一柱……!」

「『アムドゥスキアス』!」
「イエーイロックンロール!!!」

それは如何なるインフルエンザの時に見る悪夢であったか。

中空に描かれたふんにゃりしたゲーミング虹魔法陣から、さっそうと飛び出してギターを掻き鳴らしたのは、七色のゲーミングたてがみを持つケンタウロス形態めいた豊満な美少女ユニコーンである!ユニコーンはゲーミングたてがみを振り乱しながら重低音のロックンロールを奏でる!その瞬間、インターネットゾンビーも、インターネット邪神ミミックも、カリューもカスミも沈黙して彼女?を迎えた。

「はあいマイダーリン!ボクを呼ぶなんて珍しいね!でもダーリンのこと大好きだからボクがんばっちゃうよ!」
「ああ、うん……がんばって。いまはアムリンだけがたより」
「やったー!ダーリンマイ・ラブ!」

やつれたセージに投げキッスをキメたゲーミングユニコーンロックンロールガール、アムドゥスキアスことアムリンはふにゃふにゃゲーミング魔法陣からガールズバンド楽器を次々に吐き出すと、七色に分身し自分ひとりでバンドを結成!それぞれのカラーに応じてアムリンの豊満度合いもキャラも異なる!ファンサービスだ!

「イエーイ!今日はアムリンのライブに来てくれてアリガトー!あれー、みんな元気ないね?でも大丈夫!アムリンのライブ聞いてくれたらきっと元気でるから!それじゃいくよ~、ファーストサウンドは、『多次元世界の果てまでも!マイ・ダーリン・マイ・ラブ!』

そこからはもう、すごかった。
七色のゲーミング波濤が邪悪なるインターネット聖堂をゲーミング蹂躙し、ロックンロールの波動が陰鬱なるインターネット狂信者をロックンロールの高みへと突き上げた。

白目を剥いてインターネット狂信にすがっていたインターネットゾンビー達は、一曲終わる頃には眼をゲーミング発光させてアムドゥスキアスへとコールを送り始める……ロックンロールだ!

「アームーリーンーッ!」
「アームーリーンーッ!」
「アームーリーンーッ!」

熱狂渦巻くロックンロールコール!もはやインターネットサーバールームは完全無欠なるゲーミングライブ会場と化した!アムドゥスキアスの名が熱情と共に叫ばれる程にインターネット邪神は痙攣し、悲鳴を上げて縮んでいく!ロックンロール邪神払い!だがその悲惨な有様に注意を払うものは、ライブに気を取られて誰も……いな、ただ一人だけ、いた。

「おまえがよ、もっとしょぼかったら良かったんだけどな」

魔術的なまでのライブ熱狂のさなか、ゲーミング発光を受けてただ一人正気を保つ男がいた。その男は右手に蒼き烈光を掲げると、今や盆栽サイズにまで縮んで今にも枯れ落ちそうなインターネット邪神を見下ろす。

「これに懲りたら、二度とこっちに来るんじゃないぞ!じゃあな!」
「ミュル……ミュル……ミューッ……!」

烈光が、インターネット邪神を灼く。かの者のか細い断末魔は、ロックンロールに踏み潰されて、何者にも届くことなくサーバールームの床に溶け落ちていった。

「邪神、灼断」

カリューの決めもまた、アムリンのゲーミングロックンロールへと飲み込まれていったのだ。セージはげっそりと壁にもたれかかり、カスミはロックンロールライバーにまぎれて七色賑やかし棒を両手に掲げていた。

――――――――――――

「おう、おかえり……どうしたんだい、三人ともそんなにやつれて」
「なにもきかないでおくれやす」
「お、おう」

朝焼けにもえるバー『涅槃』に何とかたどり着いた三人は、なんとも憔悴仕切った表情だった。なおかつ、キャラ崩壊しているセージの返答にさしものマスターも深く突っ込むのは断念したのだ。

「俺はもうガールズバンドのライブとか一生行かないぞ……」
「私もです……」
「お、おい。ひでえ有様だが帰る前に何か飲むかい?」
『お冷を』
「わかったぜ」

マスターがポットを取りに背を向けたのと同時に、三人はカウンターに持たれて三者三様の寝息を立てて睡魔へと取り込まれた。カリューのスマホに、討伐完了の一報が入っていたが、もちろんそんなことは知る由もない。

おうちに帰る余力すら、今の彼らには残っていなかったのであった。

【カルティック・インターネット・ナイツ SideA:おわり】

 本作は #パルプアドベントカレンダー2020 参加作品です。

あとがき

よくもまあここまで生きてたどり着いたな。
おれはハイパー胡乱インターネットバトルサイボーグ怪僧だ。

おそらく、俺の見立てではページを開いた奴の8割は最初の800字で頭がおかしくなってしぬ確率が250%だ。二回死んだ後もう一回死ぬ確率が50%だ。わかるな?わかれ。

本当はもっと2000字くらいの軽い奴にするつもりだったのだが、何か皆本気出してきたのでギリギリまでプロットを組み直した結果、こうなった。おれの本気だ、受けてみろ。最初のプロットの奴はまた時間をとって別に書く予定だ。

流れとしては、まず慣れ親しんだものがおぞましい邪悪存在だったら恐ろしかろうとアイデアが出たので、インターネットを邪神にし、インターネット疫病を思いついた。まじめなホラー文脈のもとに、この作品は書かれている。

そしておれはおもった。
クライマックスのシーンにパンチが足りない。
そこまでがあまりにも胡乱すぎるので生きてクライマックスまでたどり着いたしんのせんしに、ちょっとやそっとの胡乱をお出ししても肩透かしになってしまうだろうと苦悩したのだ。

そして、クライマックスでとりあえずアムドゥスキアスを出す事に決めて(音楽のパワーでなんとかするというアイデアだ)キャラ付けのために伝承をチェックしたその時、アムドゥスキアスがユニコーンめいた奴だという記載が眼に入ってしまったのだ。

そして出来上がったのがアムドゥスキアスを名乗るゲーミング豊満美少女ユニコーンロックンロールガールズバンドだ。つまり電子ユニコーンとブーブスとアムドゥスキアスの三身合体の産物だ。わかるか?わからずとも良い。おれもわからない。どうしてこうなった。ちなみにやつは暖色ほど豊満で明るく、寒色は平坦で暗くなる。ゲーミングカラーの時が一番テンションが高いとかいうどうでもいい設定もあるぞ。すごいな。FGOのアムドゥスキアスよりは眼がちかちかするが、かわいいから許せ。ちなみにおれが一番カワイイとおもうアムドゥスキアスはメギド72のやつだ。さいこうだな。

なお、ゲーミングユニコーン豊満アムドゥスキアスはだいたいテンションが高くボクっ子で尽くすタイプなので娶ると幸せになれるタイプだぞ。あのテンションに24時間365日ついていければな。

ところでサイドAとかついているがこの話は実は二本立てで、B面の方が本当に書きたい話だ。しかしこのトンチキ胡乱ゲーミングユニコーン悪魔にエネルギーを持って枯れたので書けるかはわからない。なんとかガンバル。

そして俺はここまでだが、このパルプアドベントカレンダー2020にはおそるべきパルプ戦士がまだ23名もあり、未投稿の作品も17本も待ち構えている。
おれの渾身でボロボロになったおまえは温泉とかに入ってニューロンを癒やしてから他の作品も読みにいけ。いいな?

今回はここまでだ。じゃあな。息災でいろ。

現在は以下の作品を連載中!

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ロボットが出てきて戦うとか提供しているぞ!

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