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遺灰被りのコフィン・ポーター

 冒険には危険が付き物だ。だからこそ、彼女の仕事も尽きない。

「こちらシリス。目標地点に到達しました」
「了解、対象はそこでロストしている」

 シリスは、自らを覆う手足の付いたコフィンを立ち上がらせる。そしてコフィンが背負うのもまた、棺だ。これが、彼女の仕事だ。

 場所は、現代にはない意匠が彫り込まれた遺構。近年一夜にして、こつ然と発生した山に発見された迷宮。未探査の遺跡とあってこぞって冒険者達が押し寄せた。その後は、この通り。

 コフィンの眼を通して、シリスは辺りを探る。血痕、戦痕、あるいは遺体。いずれも見当たらない。だが、耳は音を捉えた。コフィンが、跳ぶ。蒸気を伴って。箱組の人形が、あたかも猟犬のように迷宮を跳び翔ける。そして、獲物を捉えた。

 二階建てほどもある、一つ目鬼サイクロプス。コフィンは、その岩めいた腹を蹴り上げると同時に、背の棺を開く。転倒する鬼を前に、シリスは告げる。

「乗ってください」

 その言葉を聞いた女性、ローブ姿に割れた眼鏡……は弾かれたように棺へ飛び込んだ。

「こちらシリス、目標を保護しました」

 いうが早いか、コフィンは甲高い音を伴って180度ターンすると鬼の怒号を背に、地を滑るように疾走する。駆け馬よりも早く、崩れ落ちたがれきを飛び越え、突き出た柱を蹴り跳び、樹上の猿よりも俊敏に。後方で怒り狂う鬼の乱雑な駆け足が響き渡る。前方に光。

「耳を塞いでください」

 遺跡から射出したコフィンは山の中腹へ弧を描きながら反転。脚を踏みしめ、大地に杭を打ち付ける。そして、筒の付いた右腕を掲げた。

 次の瞬間、出口から飛び出た一つ目鬼は、眼前に撃ち込まれた砲弾を受け止め、後転しながら爆散した。一瞬で焼き尽くされた遺灰が、コフィンに降り注ぐ。

「マスター、困ったことになりました」
「どうした?」
「山が、飛んでいます」

 彼女の言葉通り、迷宮を抱いた山は今や、空へと浮かんでいた。

【続く】

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