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悩めるは年収矮小ヒモドラゴン #DDDVM

「収入が 欲しい」

看取り屋などと呼ばれる竜。そんな私、シャール・ローグスのところに訪ねてきたのは、私と同系色である黒色の鱗をまとった、私の目から見ても屈強にして強大であることがひと目でわかる竜であった。シュルトと名乗った黒竜は、自己紹介の二言目にそう告げた。モノクルの奥の瞳を丸くする私。

「まずは楽になさってください。菓子の類はお食べになられますか?」
「ああ いただこう」

うなずく彼に、私は食料保管庫から紅い龍珠果のタルトのピースをふわりと浮かせて取り出すと、白磁の皿にのせて彼の前に遇する。私の住居は広めの空間がある洞窟ではあるが、シュルトの体格では私とニ柱でいっぱいいっぱいだ。

「これは ?」
「龍珠果のタルトです。我が友、樹竜ティアン・ラーカの手に寄るもので、竜が食しても問題ありません」
「ふ む」

彼が指先で招くと、巻き起こった風がタルトを彼の口へと運んでいった。
感じ入るように芸術品にもみまごうタルトを咀嚼した彼は、瞳を閉じてその味わいを記憶する。

「実に 美味い。これも、商品 なのか?」
「ええ。ティアンは菓子をつくる事を生業としています。美味しすぎて文句を言われるくらいですよ」
「それは 良い。生業があるのは 実に 良い。俺とは 違うな」
「仕事があることを羨む竜、というのも珍しいですね。お金を介さなくても、力で奪い取る事を良しとする竜は少なくないものですが」

私の言葉に、彼は眼を細めて頷いた。

「そう だろう 竜とは そういうモノだ。 だが、今の俺には それは 良くない」
「何かご事情が?」
「ああ 今は 人と共に歩むを良しと している。だが、今の俺には収入が ない」
「おっと、これは失敬……承知しました。ご相談に乗りましょう」

おおよその事情を察した私は、彼の言葉を遮って相談にのることを了承した。おそらくは、彼の生活に必要な物は、彼と共に暮らしている者が用立てているのであろう。だが、共に生きる者に一方的に負担をかけさせるのは良くない、彼はそう考えたのである。であれば、私とてその思いに真摯に応えないわけにはいかない。

「問題を整理しましょう。貴方は竜生で生まれて始めて生業を得ようと考えた。しかし、今まで人間社会と関わった事がなく、どうすればよいかわからない。ここまでよろしいでしょうか」
「ああ その通り だ」
「承知いたしました。順番に解決していきましょう」

けして狭くはない空間に、竜ニ柱詰め込みながら、私はシュルトに向かって板状の幻像を形成した。そこには経済システムを模した円図形が描かれている。

「まず、お金とは価値の交換券です」
「価値 だと?」
「はい。価値を獲得するために引き換える交換券がお金です」
「ふ む 食物という価値 それを買える道具 それはわかる」
「ええ、ここをご理解いただければ、仕事を得ることは難しくありません」
「ほう 教えて ほしい」
「もちろんです。念の為、貴方の得意とする力を教えていただいてよろしいですか?」

彼の竜種としての力は、おそらくは風、大気の振動を操るものだ。私の推測は実際正しかった。

「俺は 風を 操る。それが どうかしたか?」
「ええ、とても大事なことです」

浮かべた幻像を動かして、お金の流れを彼に明示してみせる。

「価値を得る為にお金を渡す、ということはつまり、お金を得たい場合は価値を提供すれば良いのです。そして、竜であれば人間種に対して価値を供与することは難しくありません」
「理屈は なるほど わかった。だが、俺の 力は 価値が あるだろうか」
「もちろんですとも、風は強大な力です。例えば……」

幻像が経済の模式図から、風車の戯画へと移り変わる。

「貴方がお食べになったタルト、その生地は麦科の植物を挽いて粉末にしたものを使っています」
「ああ」
「ですが、麦を挽くのは重労働です。そのため、人間は労力を軽減するために風車小屋を考え出しました。風車小屋とは、風の力で麦を挽く施設なんですね」
「なる ほど わかったぞ。風の無い そんな日に 俺が 風を起こせば いいのだな?」
「そう!その通りです。天然自然の風には強弱がありますが、貴方であれば必要な時に、必要な分、風を供給出来るでしょう」
「加減が 難しそうだが 可能だ」
「でしたら、風車小屋の所持者に交渉して、風車を回す対価にお金をいただくことが出来ます。これが生業の基本です。他にも、応用次第で貴方が提供出来る付加価値は沢山あるでしょう」

私の助言に、シュルトはいかつい顔をわずかに歪めて微笑した。

「良い。よく わかった。お前に 聞いて正解 だったな。だが……」
「何かわからない所が?」
「いや そうでは ない。思えば 俺はお前に 返せる物が ない。そう 思ってな。すまない」

彼の言葉に、私も控えめに微笑んで答える。

「お気になさらず。例え何もいただかなくとも、貴方との会話で私は多くの物をいただいておりますので……そう、貴方に寄り添う方たちと同様、形のないものを」
「ほう そうか。そうか、だが 最近の俺は リュシア達から 貰い過ぎたな。やはり 少しは 返そう。感謝する シャール」
「いいえ、また何かあればいらしてください。貴方の試みが上手くいくことを祈っています」
「ああ またな。さらばだ」

シュルトはその身に緑風をまとうと、猫よりも鮮やかに私の居室から滑り出ていった。引きこもりの私がドタドタと外にでて見送ると、彼の姿はすでに遥か彼方へ飛び去っていくところであった。

【悩めるは年収矮小ヒモドラゴン:終わり|マガジンリンク

本作品は『ワールドフリッパー』と自作品のクロスオーバー二次創作です。
皆、置鮎龍太郎氏の演じるイケボヒモドラゴンをすこれ。

現在は以下の作品を連載中!

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ロボットが出てきて戦うとか提供しているぞ!

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