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論理仕掛けの偶像は自由を夢見る-2-

 都心、オフィス街にある真新しいビルの前に立つ俺とY・G。平日昼だというのに目的のビルの前には誰一人として出入りする様子はない。オフィスビルにありがちなガラス張りの自動ドアの向こうには受付らしき場所があるが、受付担当の姿もない。

「コイツはビンゴだなぁ」
「ああ、いくら何でも人気が無さすぎる」

 やはり、単なる悪戯ではない可能性が高まった。そして自動ドアは通電していないのか、それとも意図的に閉じられているのか俺達を前にして開く様子はなかった。

「トドメ、だな」
「フムン……一体何が潜んでいるのやら」

 思案する俺の情報端末にS・Cから連絡が入る。高度な電子論理錠などは流石に俺達二人では開錠できないため、事前に連絡しておいたのだ。幸い時間は取れるとの事で自宅からハックしてもらえる事になっていた。

「R・V、そちらはどうです?」
「もう玄関の自動ドアの時点で開かんな。そっちは?」
「雑な構成ですがセキュリティが既成品の物よりいじられています。今ドアだけでも乗っ取りますので少々お待ちください」
「頼む、緊急事態とはいえ真昼間に真正面からガラス破りは目立ちすぎるんでな」

 S・Cのハックが完了するまではわずかに時間がある。俺はY・Gに目くばせし話を振った。

「今回助けを求めてきた仮想アイドルには何か縁が?」
「ネット越しに一度インタビューした。仕事の縁だ」
「仕事のインタビューから転じて魔性退治とは合縁奇縁というヤツか」
「かもな。運営会社の話じゃ個人の人間のふるまいをAIに集中学習させてアイドルとして振舞わせてるそうだ」
「なるほど、ベンチャーの一環って事か」
「そういう事だ」

 実にきな臭い。体面としては仮想アイドルの運営でありながら、その実態はAIの研究開発か。新技術開発にはトラブルが付き物だが、今回のコレもまたその手のトラブルだろうか。

「開きました、続いてビル内部のサーバーを攻めます」
「ああ、助かる」
「このまますんなり進めると良いんだがな」

 俺達を招き入れるようにここに来てから初めて開閉する様子を見せた自動ドアを二人並んで踏み越える。中のエントランスにはやはり誰一人として人影が見当たらない。

 そして自動ドアが開いていないという事は通信によって制御されている機構はほぼすべて何者かに掌握され侵入者を拒んでいるはずだ。試しに手近なエレベーターのパネルを押してみたが、やはり無反応である。

「ダメか」
「ダメだな」

 泰然としているY・Gに肩をすくめて答えて見せる。S・Cにはこのまま中枢サーバーを攻めてもらうとして、こちらは面倒だが非常階段を使うしかないだろう。どんなビルでも大抵は非電子の非常階段はある。もし建物内が完全電子制御されているオフィスビルがあれば、そんな物は停電時には閉じ込められてしまうのでお近づきになりたくないな。

 非常階段の入り口はさして歩き回らずともすぐに見つける事が出来た。内部側の出入り口のため錠もかかっていない。

「こっからは何が出るかわからん、備えていこう」
「了解した」

 Y・Gは脇のホルスターより、その体格に見合った大口径の拳銃を引き抜く。銃を握る姿は、外見だけなら軍隊帰りか特殊部隊上がりといった風体だ。彼も俺も一応作家なのだが、見た目でそれとわかる者は鋭いを通り越してエスパーか何かに違いない。

 薄暗い非常階段の螺旋を俺が前衛となって上がっていく。果たして上の階層には何が待っている物やら。

【論理仕掛けの偶像は自由を夢見る-2-終わり:-3-へと続く

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