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荒神斬り:残悔編 二話

承前

とどめを刺さんと油断なく刀を構える男!しかしてそこに闖入者あり!
そば屋に乱入したのは金糸の髪に紅葉柄の着物をまとった少女、化け狐の楓である!

「かみきり丸さま!早く逃げますよ!」
「楓か!」
「なんじゃおまんは!?」

一瞬土佐弁の男をにらむもすぐにかみきり丸に向き直る楓。

「ここのおかみさんが斬りあい始めたって大騒ぎで、じきにここに人が集まってきます!このままじゃ捕まっちゃいますよ!」
「むう……それは困る」
「ちい、時間をかけ過ぎたか」

楓の言う通りに店の前には人の気配が集まりつつある!もはや一刻の猶予もない!

「表の人達は私が気を引きます!その隙に裏手から逃げてください!」
「すまん、助かる!」
「待ていかみきり丸!逃げる気か!」
「ここでもめてたらあなたも捕らえられますよ?」
「ぐぬぬ……勝負は預けちゃる」

双方、刀を収めると一目散に裏手より退散する!

  --場面転換!--

そば屋から逃げのびた三人がからくもたどり着いたのは神主もなく放置された神社であった。

「追手は来ていないか、しかし……」
「あなたなんで一緒に逃げてるんです?」

一息ついたかみきり丸と楓から視線を集める土佐弁の男。

「わしの用は済んじょらん」
「用も何も決闘はごめん被るぞ」
「それはもうええ、われの剣の腕はわかった。本物のようだな」

男から殺気が感じられなくなったことを確認し、柄から手を離すかみきり丸。

「あのー、あなたもしかして、『天誅上手の岡田以蔵』さんですか?」

何気なく問いかけた楓に鬼気迫る剣幕で掴みかかる男。

「そうよ!われが言うた通りわしが『天誅上手の岡田以蔵』よ!わしゃ斬った!武士も女も子供も老人もな!だが現実はどうだ!世の中は何も変わらざった!竹市のやつはただ邪魔者をわしに始末させただけよ!ええか!わしをそのあだなで呼びなさんな!」

男……岡田以蔵は憤怒の形相で楓の襟元を掴んで締め上げる、小柄な楓の身体は軽々と宙に浮く。

「く、くるし……」
「以蔵、楓も悪気があって言った訳ではない。離してやってくれ」

かみきり丸のいさめに我に返り楓を降ろす以蔵。反動でせき込む楓。

「すまん、だがわしをその呼び方で呼ぶな、ええな?」
「わかりましたよぅ……」

涙目で頷く楓にようやく落ち着いたのか平静さを取り戻す以蔵。

「有名なのか」
「ええと、土佐の出でなおかつ剣の腕のたつ方となるとそういないかと思いまして」
「じゃろうな、土佐では一番じゃったきに」

楓の評に複雑な面持ちで認める以蔵。他の剣客にあまり興味はないのかふんふんと素直に聞くかみきり丸。

「で、その以蔵が俺に何の用だ?」
「われに聞きたいことがある」
「なんだ」
「荒神とやらはげにおるのか。でっち上げじゃないのか」

土佐弁にうとく、げに……にこまるかみきり丸。続く言葉で何とか意味をくみ取れたのであった。

「荒神はいる。理屈はわからんがいにしえの猛将を名乗っている」
「そうか。そいつらを斬れば人の役に立つか?」
「立つ。荒神はほぼ世の人々を害して回っている。おそらく黄泉がえりに際して理性は失われているとみている」
「そうか」

かみきり丸の回答に神妙な面持ちで考え込む以蔵。その様子に目を合わせる二人。しかるのち、以蔵は言い放った。

「次の荒神退治、わしも行くぞ」
「わかった」
「ま、待ってください!いくらなんでも即断過ぎます!」

ついていくと宣言した以蔵と即受けしたかみきり丸に割って入って抗議する楓。心無しか頬を膨らませている。

「なんで私の時はあんなに拒んだのに以蔵さんは即断なんですか!」
「以蔵は腕が立つが楓は戦えないだろう」
「理不尽ですぅー!私だって役に立ってます!」
「それはそうだが……」

ぽこぽこかみきり丸の胸板を叩いて抗議する楓。悲しいかな、ちっとも痛くないのであった。

「そもそもなんやこいつは」
「旅の共だ」
「ほーん、こじゃんと美人やないか」
「だがきつねだ」
「おおん?」

怪訝な顔をする以蔵の前でPON!と変化をといてみせる楓。
そこには本来の姿であるつややかな毛並みの狐がいた。かみきり丸に抱き上げられて以蔵の目の前に突き付けられる楓。

「ほおかぁ……きつねじゃったかぁ……」

楓に鼻先を舐められて呆ける以蔵であった。

【荒神斬り:残悔編 二話終わり 三話に続く

過去作はこちらだ

作者注記
本作の「岡田以蔵」は史実の資料と足跡を元におれがどくじかいしゃくで構築している。そのため他の作品とはキャラクター性は大きく異なる。ご了承のほどを。

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