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荒神斬り:残悔編 三話

承前

「げにここを通るのか?」

「ああ、集落の人々の訴えでは毎晩ここを通って見つけた人間を襲うそうだ」

時はじきに丑三つ時を迎える深夜、三人は人々の住まう集落からほど離れた山道の脇に身を隠していた。

「やけんど平の怨霊とはな、あやかしなど作り話だとばっかり思うちょった」
「実物を見ればイヤでもわかる」
「きさまはもううたがっちょらん」

どっかと腰を下ろして答える以蔵にじと目を向ける楓。

「あやかしも怨霊もちゃんといますよ。最近荒神に成った方々はなんだか人為的な気がしますけど」
「うたがっちょらんってそれより、じゃ」

改まって二人に顔を寄せる以蔵。

「話が本当なら、雑兵とはいえ数が多い。そこで奴らが通り過ぎた後で後ろからさとられんように斬り捨てていく。どうじゃ?」
「いいだろう」
「ほぉん、拒むかとおもったわ」
「相手は黄泉から戻った怨霊だ、俺達が調伏できなければまた犠牲者が出る。であれば安全策を取るべきだろう」
「ふん、話がわかるやないか」

自分の提案が通り満足げに鼻を鳴らす以蔵。そこに楓が割って入る。

「なら、先頭の気を引くのは私が引き受けます」
「頼む」
「おい、そがな気安うおとりをやらせてええのか?」
「ええ、私自身は安全なところからまぼろしを見せます。お任せください」
「便利じゃのう」
「その分直接戦うのはからっきしですから」

えへへ、と可愛らしく微笑む楓にしばし見惚れたあと、ぶんぶんと被りを振って正気に返る以蔵。

「そこまでだ、来たぞ」

かみきり丸の制止に息をひそめる二人。すぐに夜更けにあるまじき多数の足音が近づいてくる。

がしゃり がしゃり がしゃり

月明りだけが頼りの夜道をいにしえの鎧武者の軍勢が進攻してゆく。その数、二十。先頭に一際巨大な影。その異様なすがたに以蔵は息を吞む。

そして、二人を置いて楓が姿を消したかと思えば軍列の先頭で喊声があがる。

『源氏じゃ!源氏の軍がおったぞ!』

ときの声を挙げて進軍するが山道のはばは限られ、思うような進軍は出来ない。雑兵からして生前と同じとは到底考えられない異形の軍団は楓の見せる源氏の幻影に翻弄され、ガチャガチャと足踏みを続けるばかりだ。

前方に雑兵が気を取られている間にかみきり丸と以蔵は共に音もなく背後に回ると抜刀、極力気配を立てぬように細心の注意を払って異形なる雑兵共を一体ずつ刺殺していく。

異形の悪鬼羅刹と言えど、急所は人間とさほど変わらないのが幸いであった。すなわち、斬れば滅ぶという事だ。

以蔵は的確に雑兵の鎧の隙間から臓腑を刺し貫き、引き抜いては動きの止まった雑兵を地に転がす。黒炎となって雑兵が瓦解するも、ほかの兵は宿敵たる源氏のまほろばに気を取られ振り向きさえしない。

(楓とやら、出来るキツネじゃのう)

以蔵とて剣の腕が立つとはいえ、天誅は万全を期して複数名での刺客を差し向けるのが常であった。逆に二十もの兵に同時に襲い掛かられれば切り抜けるのは困難であろう。

かく乱役である楓の存在をありがたく思いつつも以蔵は次の雑兵を刺し殺す。
隣のかみきり丸もまた、手にした大太刀で二人まとめて刺し貫いては灰塵へと還していた。

十五、十、五……このまま雑兵は全て始末できるかと二人が見込んだ時であった。

「……ッ!」

かみきり丸と以蔵は一瞬のうちに目くばせ、お互いの意図をくみ取るとかみきり丸は一歩踏み込んで荒々しく雑兵達をその大太刀で薙ぎ払う!
三体まとめて両断され燃え上がる黒炎!

以蔵は背後に反転すれば突き出された槍を打ち払う!

「殿、っちゅうこったか?」

月の薄明かりを受けて姿を現したのは常人とほど近い背丈の、しかしおぞましいほどの殺気と憎悪をまとった鎧武者であった。

【荒神斬り:残悔編 三話終わり 四話に続く】

過去作はこちらだ

作者注記
作り置きのストックがあるのはここまでなので次回はちょっと先になる。
すまんな、本当にすまん。

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