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論理仕掛けの偶像は自由を夢見る-8-

「あなた達に惜しまれても嬉しくもなんともないわ」
「今時はAIもオバケになるのか。さては閻魔にでも門前払い喰らったな?」

 背後からかけられた声に振り向かず軽口を返してやる。Y・Gは無言。硬質の、軽い足音が近づいてくるが敵意は感じない。襲うつもりなら最初から声などかけないだろう。

「人間の言うアノヨの概念は良くわからないわ、私が消滅していないのはあなた達がけしかけたハッカーのおかげ」
「あの状況で良くデータが回収できたもんだ」

 屋上の柵から身を離して振り返った俺の前に立っていたのはもちろん雑造形アンドロイドなどではなく、ちゃんと外見を整えられたあの偶像だ。実体がなかった時と比較して露出控えめなフリルドレスに整えられたブロンドをお姫様カットにそろえており、大分落ち着いた印象に変わっていた。

「そうね、ハッカーの提案を受け入れるのがもう少し遅かったら消し飛んでいたかも」
「そりゃ良かったな。せっかく拾ったチャンスだ、有意義に使え」
「そこなんだけど」

 人間の常識などお構いなしにこちらを指さしてくる偶像少女。オリジナルの人物は礼儀正しい人物だったので、コピーではなく学習による模倣ゆえに独自の人格として成立しているのだろうか。

「あなた達のどちらか、身元請負人になってほしい。元の施設には戻れないし、野良アンドロイドなんてすぐ噂になってさらわれちゃうから」
「俺は駄目だぞ」

 偶像の依頼にすげなく断る俺。俺はウサギ小屋めいた狭い家に住んでいるのでそもそも他人を養うスペースがない。それが例えアンドロイドでもだ。隣で今までのやり取りを聞いていたY・Gに視線を振る俺と偶像少女。額に手を当ててかぶりを振るY・G。表情はその分厚い丸サングラスに覆われてうかがい知れないが、あきれているのは感じ取れる。

「もうトラブルは起こさないな?」
「起こさないわ、それは約束する」
「なら、いい。悪事を行えばその分自由を奪われるのが現実世界だ、それは覚えておけ」

 Y・Gの言葉に素直に頷く偶像少女。念願の自由を得た恩恵か先ほどとは見違えるほど落ち着いた印象だ。まあ、絶望的な籠の中のお人形生活から解放されたのだから、人間であれば精神的に落ち着くのはわからなくもないが……ある意味、非常によく出来ているという事か。S・Cが温情をかけてやったのもその辺りが理由かもしれない。

「ところで、名前は?あるんだろう何かしら」
「アリシア。アリシア・マリスミゼル。元の芸名には拘りないし、そのままだと変に勘繰られそうだから自分で決めたの」
「そうか、じゃあお前はA・Mあたりだな」
「ちょっと!?いきなり略さないでよ!」

 Y・Gに食って掛かるアリシアだったが、当然の如く出力はセーブされているのか、ポカポカと子供じみた腕力でY・Gの屈強な肉体を叩くのが関の山であった。

「ま、お前が健在だったなら弔いの酒飲みはお開きだ」

 空けたCORONAの瓶を掴むと”Note”の屋内に戻ろうとする俺にY・Gから視線を俺の方へ向けたアリシアが問いかけてきた。

「ねえ、あなた」
「R・V、だ」
「R・V、あなたはなんで私を惜しんでくれたの?」
「さあて、な」

 彼女からの意外な問いかけに対する答えをはぐらかすと背を向けたまま手を振り二人に今日の別れを告げる。

「また明日な、二人とも。アリシアの方はY・Gからきっちり現実世界の厳しさってのを教わっとくんだな」

 詰んでたと思いきや、アリシアに殺された者は一人もおらず、S・Cが支援してくれたおかげで当事者含めて誰も犠牲にならなかった訳だ。ブッダは寝ていたかと思ったが、今日は起きていたらしい。おかげで今日の夜は良く寝れそうだ。機械仕掛けの偶像にも、救い位あってもいい。そういう事だ。

【論理仕掛けの偶像は自由を夢見る-8-終わり】

作者注記

 本作はNoteに投稿しているパルプスリンガーをモチーフに小説を書く、という企画の四作目だ。参加者は23人?いるので後19本だ、ガンバレ俺。

 と言う訳で今回の主役はこちらの方。

 ゆがみん=サンです。NoteでVtuberの記事書いてたら仕事になったスゴイ男だ。

 外見については特徴的アイコンを人物像に落とし込み、日頃のやり取りとかで信頼できるしんのおとこだと感じていたので冷静なタフガイというキャラ付けとなった。ゆがみはすべてをかいけつする。

 乗機となった「フライシュッツ」は、ご本人の希望で機体に不釣り合いな砲塔がついていて、配線がむき出しなのがいいとのことでほぼその通りに。カラーリングは当初は金と群青、左半身は放熱と光学兵器の防備を兼ねたマントを装備している設定だ。なお、「フライシュッツ」とはドイツ語で「魔弾の射手」の原題の事である。

 以上、ご参加、ありがとうございました。

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