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冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第三十ニ話 #DDDVM

見様見真似で作成した魔法陣は、空中にほのかに浮かんで停滞している。
後は私の思考を魔素、一般的にはマナと呼称される力を介して反映するだけだ。

と、迷宮公の入り口から離れるわけにもいかず、さりとて、いよいよ竜である私が奇怪な魔術をはじめたとあって対応にまごついている門番さんたちに、首を振って危険はないことを知らせる。

私のそぶりを見たおふた方は、安堵半分、畏怖半分といった様子で私の仕草を見守っている。

そして、私の意を受けた『それ』は、獲物を狙う大蛇のごとく迷宮公の中へと滑り込んで行った。それから、私は彼らに一つ頼み事をかさねる。

―――――

「まだかしら?」

シャンティカ君の言葉に、私は魔術を並行で動かしながらなだめる。

「もう、着くよ」

嘆息を隠さないシャンティカ君、周囲の物品をノートに書き留めるワトリア君、そして芸術的な彫像めいて佇まいを崩さないリューノ殿。彼ら三者の前に、私が送り込んだ存在は棚の垣根をはいわたり、つる草よりも繊細にあの黄金酒の湾曲ガラス瓶へとたどり着き、カマ首をもたげてはその透明な身柄で瓶のガラス栓を抜いてみせた。

「えっ、待って、それって……」
「まさか、これが凶器?」

困惑する二人の前に現れたのは、透明な、まったくも透明な純粋でかたどられた水の蛇だ。正確には途方もない長さでも問題なく稼働する水の管であった。

「なるほど……さしもの雨竜のしずくでも、元より形のない水なら溶かされる事はない。そういう理屈ですね?」
「その通り。この水蛇は管の輪郭をマナで形成していて、管の内部表面は純粋な水で覆っているんだ。だから内容物とは混ざらない優れもの。ほら、ちょっとコップを出してくれるかい?」

誰よりも素早くコップを差し出してくれたリューノ殿へと、水蛇は頸をかしげ薄暗がりから葡萄の暗い紫を流し届けた。

「失礼」

逡巡することなく、彼は暗闇より深い液体をあおった。

「……驚きました、あなたの言葉通りこのジュースはなんら薄まった印象はありません」
「試してみるまで、私も半信半疑だったけれどもね」
「ちょっと待って、そんな完璧に液体を伝達出来るなら、なんで犯人はわざわざ跡が残るような使い方をしたの?」

シャンティカ君の疑問に対して、私は自分の首の代わりに水蛇の首を振ってみせる。

「まず前提として、竜の私と、恐らくは人間族か類する種族であろう犯人とは若干前提が異なる。天井についた溶解痕は魔力消費を抑える為の省エネ運用、といったところだね」
「ああ、そっか……それって望遠鏡の代わりにもなるのかしら」
「もちろん、じゃないと本体が離れたところから悪さなんて出来ないだろう?」
「ほへー、良く思いつくわねこんなの」

シャンティカ君が熱心に聞き取る隣で、ワトリア君はというと黙々と私の説明を書き取っていた。
聞いてくれれば二度三度説明するのだが、彼女はことのほか初回で詳細に書き留めることを好んでいる。

「アリガトウ、ソンナ仕組みだなんて、全然わからなかったヨ」

その言葉を発したのは、この場にいる誰でもなく、私にすら気取られることなくその場に現出した第三者であった。


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