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マッド・ティー・チェイサー -2-

 キュイイイイィィイインッ!

 車輪の高速回転する独特の音が昼前のオフィス街に響き渡る。
こちらの姿を認めて追い越し車線を譲る自動車達。無理もない、機動兵器の保有は今は合法だが、かといってお近づきになりたいとも思わないだろう。

 車道を疾駆するのは全高5メートルほどのずんぐりとした体型に都市迷彩めいたカラーリングが施され、ミサイルポッドやヘビィマシンガン等の現代重火器を搭載した人型兵器だ。俺は今その兵器の空いている左手に立っている。

スローター・ハウンド、それがこの兵器の名称である。

「平気なんですか?左手の上に立ってるだけだなんて」
「流石に急ブレーキされると前にすっ飛ぶから止まるときはゆっくりで頼む」
「わかりました」

 胴体部のコックピットからは苦笑した気配が伝わってくる。致し方ない、都市部での活動には俺の乗機は少々でかすぎるのが実情だ。そして俺は自動車は運転しないしタクシーなど贅沢のきわみである。

 この春の時期にしてはやけに冷たい風を顔に受けつつ海のかいまみえる景色をみやる。住所の通りならドラッグと間違えて希少茶を持ち去ったとおぼしき企業はもうすぐのはずだが。

「タグの反応が移動を開始しています」
「そいつは良くないな、行き先は?」

 中身の取り違えに気付いたか、中身を確かめずに転売か、どちらにしても人通りの多い場所では少々殺りにくい。

「ちょっと待っててください……この方向は港区の倉庫エリアかと」
「なら都合がいい、売り先への取引目当てかミスった運び屋をバラしにかかってると見た」
「同意見ですね、人気がなければどうとでもなるので」

 剣呑な文脈のわりに声の調子は穏やかささえ感じる。まあ怒りが一周回ってさとりの境地に、いや、それはないか。彼は大体はこの調子だ。

「それはそれとして、着いたらどう攻めます?」
「俺がおとり、そっちがアタック。俺が気を引いてターゲットを回収するから援護頼む」
「了解」

 事前の打ち合わせは一回のやり取りで終わった。後はアドリブだが、ヤキが回った連中が腹いせに稀少茶を床とか海にぶちまけていない事を祈る。そうなったらもはやS・Cをどうなだめていいものやら。

ーーーーー

「もう一度聞きますよ、これは何ですか?」
「わ、わかりませ」

 タグの反応を頼りにたどり着いた港区の廃倉庫。そこでは余り似合っているとは言い難い白スーツの男が、床に転がって震えている男性の若者、大学生くらいか……に広げたジュラルミンケースの中身を見せつけ詰問、さらには回答を最後まで待たず革靴のつま先で若者の腹を蹴り上げた。

 どうやら凡ミスした運び屋を始末する方の展開だったらしい。雑然と積まれたジャンク入り木箱の影で相手の様子を探る。運び屋の見た目は若く、犯罪行為に慣れているようにも見受けられない。

「わからないじゃありませんよ、何のためにアナタにお使いさせたと思ってるんです」

 抑揚のない丁寧語でなじりながら幾度となく若者を蹴りつける。声色こそ荒げてはいないが、白スーツの男の怒りは明白だった。どこの誰ともわからない輩に大金を渡してしまったのだから当然と言えば当然だが、麻薬バイヤーなどに同情するほど俺はおやさしくはない。

 あえて軍靴のかかとを床に打ち鳴らして威嚇しながらこちらから出ていってやる。スーツの懐から拳銃、トカレフのコピーだろうか、古風な代物を取り出して俺に向けるレッサーヤクザ共五人。俺との距離は10メートル超。白スーツの男は後ろで手を組んだまま俺に射るような視線を送ってくる。

「そう不機嫌になるなよ、こちとら貴様らが無くしたケースを持ってきてやったんだからな」

 左手でジュラルミンケースを振って見せつけてやる。白スーツの男の表情に一瞬動揺が浮かんだのを俺は見逃さなかった。相手が判断を決する前に俺は手にしたケースを空中に投げ放つ。ヤクザ共はそろって宙のジュラルミンケースを注視。俺は猫科の肉食獣の様に地に這うが如く踏み込む。

 レッサーヤクザの一人が俺に銃を向けようとしたが、一瞬早くパス、という乾いた音と共にレッサーヤクザのこめかみに小さな穴があき、もんどりうって倒れた。

【マッド・ティー・チェイサー -2-終わり:3へと続く

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