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マッド・ティー・チェイサー -1-

 念願の稀少茶が手に入ったんですよ、と見てわかるほどうれしそうに語る執事風の品の良い優男が、このメキシコの荒くれ者共がたむろしてそうなバーのテーブルの上で開けたジュラルミンケースの中に詰め込まれていたのは札束だった。

「フムン、最近は日本円刻んでチャにするのが流行りなのか?」

 ケースの中身を見て述べた俺の感想はケースを開けた本人には届いていない様子。へなへなと崩れ落ちて俺に視線を送っている。彼の瞳の中に写り込む目つきの悪い胡乱な黒ずくめの男、すなわち俺の姿。

「そんな……どうして……」

 どうやらジョークなどではなく大真面目に彼の追い求めた稀少茶が札束の詰め込まれたジュラルミンケースとすり替えられていたらしい。彼は普段は冷静沈着な男なのだが、今回という今回はあまりの事態に平静さを失っているようだ。さもありなん、俺のあいまいな記憶が確かならば購入交渉に1年、実物を入手する為の旅行に1か月かけたと語っていたはずだ。

 ジュラルミンケースの札束を眺めながら思考を巡らせる。彼は今この場でジュラルミンケースを開けるまで稀少茶が入っていると信じて疑っていなかったようだ。であれば、この札束はなにがしかの手違いで稀少茶が入ったジュラルミンケースとすり替えられた可能性が高い。

 ではジュラルミンケースに詰まった札束と交換する……それも意図的にすり替えるようなやり方をする物品とはなんだろうか。例えば、稀少古美術品かなんかなら密室で中身を見せ合って売買するだろう。であれば、

「S・C、どうやらお前さんの稀少茶はドラッグの密売品辺りと勘違いされて運び屋にすり替えられたんじゃないか」

 俺のコメントに札束の山と俺の顔を交互に見返し思案にくれる彼、ことS・C。ショックの余り端正な顔立ちを引きつらせて俺に言葉を返す。

「そんなバカな事が、ありえると思います?R・V」
「まあ、推測だから合ってるとは限らんな。もっともここに札束があり、稀少茶が、ない。であれば最低限なにがしかの取り違えが生じたと考えられる」

 回答を聞いて深々とため息をついて札束の乗ったテーブルに顔を伏せるS・C。気持ちはわからんでもない。稀少な品物というのは金があれば買いなおせるとは限らないものだ。今回の稀少茶も同様である。

「何、持ち去られたんなら取り返せばいい。そんな大事な物なら紛失防止用の追跡タグとか付けてないか?」

 追跡タグ、と聞いてハッと顔をあげるS・C。ようやく落ち着いてきたのかシャキっと立ち上がって普段通りの冷静な立ち振る舞いに戻ると円形テーブルの上にノートパソコンを取り出してキーボードをたたき始める。

「ご指摘ありがとうございます。万が一の為、ケースにタグをセットしておいた事を思い出しました」

 コマンドをコマンドラインインターフェイスに打ち込むとモニタ上にマップウィンドウが表示、追跡タグが示したのは俺にも彼にも関わりのない地点だった。

「D&Pコーポ。業種はサプリメント販売とな」
「表向きはそうですね。でも確かこの企業は……」

 引き続きS・Cの操作で呼び出されたウィンドウに記載された情報は当然というかなんというか、邪悪犯罪行為を裏付ける情報だった。

「非合法ドラッグの密売が本業ってことですね」
「ハッハ、俺の愚にもつかない推理が当たっちまったな」

 俺はいつも通り厭世的ニヒリズムに満ちた態度を崩さずに立ち上がるとS・Cを鼓舞する。

「行こうぜ、ひと様の物を勝手に購入するようなタワケにはお灸を据えてやらないと、な」

 俺の言葉に力強く頷きノートパソコンを畳むS・C。後は彼一人でも十二分過ぎるほどだが、そこは乗り掛かった舟だ。ヤクとチャを取り違えるようなアホの顔を拝見する事にしよう。

【マッド・ティー・チェイサー -1-終わり:2へと続く

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