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マッド・ティー・チェイサー -3-

しかるに、人間という生き物は一つの事にしか集中できない生き物だ。
宙に放られたジュラルミンケースが落下の衝撃で開き、中ががらんどうである事と、レッサーヤクザの一人がヘッドショット殺で即死したという現実を他のヤツラが認識するまでに一瞬のタイムラグ。

 その一瞬の間にさらにもう一人が脳天を撃ち抜かれて力なく崩れ落ち、俺は床に開け放たれたままのジュラルミンケースを掴んで中身を確認してから確保。ほんのわずかのチェックだが幸いにも中の茶葉は無事なままだ。ようやく銃撃先にレッサーヤクザ達が向き直ったタイミングで三人目がやはり頭を撃ち抜かれて転倒する。素晴らしい腕前だ。

 頭目の白スーツはレッサーヤクザの一人目が死んだ時点で逃げ出している。一瞬俺の方を振り返ったがその表情は怯懦ではなく怒りと殺意に彩られていた。今は追わず、レッサーヤクザの取り落としたトカレフを拾い上げるとS・Cへ注意を払っているレッサーヤクザ二人の内片割れの一人に引き金を引く。四人目が倒れるのと五人目が倒れるのはほぼ同時だった。

「ターゲットは無事ですか!?」

 足早に駆け寄ってくるS・Cにケースの中身を広げて向ける。緊迫感のある表情から一転して安堵する彼にハンドサインでもって「増援アリ、乗機に戻られたし」を知らせる。頷くとすぐさま屋外に待機させた愛機へときびすを返すS・C。

 傍らに転がっている運び屋の若者が震えているのは恐怖からだけではないだろう、焦点が定まっておらず、うわ言をつぶやき続けている。嘆息つきつつ米俵めいて運び屋を担ぎ上げる。もちろんターゲットのジュラルミンケースを持ったままでだ。

 白スーツの男が走り去った方向から建造物解体音がとどろく。やはり切り札は隠し持っていたようだ。

 俺の視界には10M級の一つ目ゴリラに分厚く曲線で形成された装甲鎧を取り付け、巨大なミートマッシャー棍棒を握らせたような不格好な人型兵器がうつる。原始的極まりない構成だが、チンピラの威嚇用途ならこんなもんだろう。人も兵器も殴れば壊せる、それが現実だ。

「叩き潰して差し上げます!」

 ミートマッシャー棍棒を振りかぶり、廃倉庫の天井を裂きながら俺に肉薄する装甲ゴリラ。だが振りかぶられた腕に銃弾による掃射、装甲に弾かれつつも銃撃が棍棒が振り下ろされるのを防ぐ。

 キュイイイイイィィィイイイイッン!!!

 高回転する車輪が大地を鳴らし、脚部のホイールが火花を散らしつつスローター・ハウンドが俺と装甲ゴリラの間に割って入った。両者の全高はおよそ二倍の差がある、さしずめダビデとゴリアテといった所か。彼が気を引いている間に一目散に撤退する俺。

「一体何なんですかあなた達は!敵対バイヤーの差し向けた刺客ですか!?」
「失礼ですね、列記とした善良なる一般市民です。麻薬バイヤーの様な輩と一緒くたにされるのは心外です」

 怒り狂ってミートマッシャー棍棒を横薙ぎに振るう装甲ゴリラだが、陸上において二足歩行とホイール走行ではその機動力には雲泥の差がある。振り回される棍棒はホイール走行による軽快な機動のスローター・ハウンドをとらえる事が出来ずむなしく廃倉庫を破壊していく。

 一方でスローター・ハウンドの携行火器では装甲ゴリラの分厚い防御装甲には若干力不足であり、命中はしている物の決定打となっていない。一見双方には決定打がない様に見える。

 だが、怒りに任せてスローター・ハウンドを追い回していた装甲ゴリラにある時異変が生じた。

【マッド・ティー・チェイサー -3-終わり:4へと続く

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