魂の灯 -89- #ppslgr
自らの前に立ちはだかる鋼鉄の翠神を前に、少年は自ら織り上げた暗黒のウロの中で訝しんだ。彼は何故まだ立っている?
もう余力の差を埋める手段はない、絶望的なはずの戦力差を前に彼らは一切諦める事なく自分の前に立ち続けている。
「おおおッ!?」
鋼鉄巨神が身を猫科肉食獣めいたクラウチング態勢に低め、爆発的にロケットスタート。その大質量を物ともせず砲弾のごとく突っ込んでくる。
暗黒虚神は手にした長大なナタでインタラプトを試みるも、キャノントンファーが食い込むのが早い!砲身の先が、虚神の前面装甲を深くえぐり少年の眼に空が、黄昏が、巨神の顔が見えた。
「無駄な事を!」
機体の自己修復さえ後回しにして、虚神は敵対者を蹴り飛ばし距離をあけてからの踏み込み切り!ナタの切っ先が巨神の胸甲をえぐり裂いて、コクピット内部まで切り開く。かち合う対立者達の視線。
「もういい加減に諦めたらどうだ!」
「イヤだね!オレはブッダにだって従わねぇ!誰が相手でもだ!」
虚神がナタを返すよりも早く、巨神は踏み込んで来た。神々の額同士が隕石衝突よりも熱くぶつかりあい、コクピットの裂け目が橋を渡す。つながった足場を二人は駆け上がる!
『オオオオオオオッ!』
雄叫びと共に両者は不安定な繋がりの上で生身の拳を振り上げ、相手の顔面を撃ち抜いた。肉体に走る痛みをアドレナリンで塗りつぶして、二人は再度一撃を相手に見舞う!
「そこをどくんだ!」
「お断り!」
少年が繰り出したストレートをバティの左腕が阻み、お返しのフックはスウェーで外されれば、もはや拳を振るうのもままならない超至近距離で二人は意地をぶつけ合う。
「いい機会だからはっきり言っておく!」
「何をだ⁉」
「続きを、書けえ!」
バティの叫びと共に、渾身の一撃が少年の顔面にまともに突き刺さった。
端正な顔立ちが歪むのもいとわず、少年もまた拳を振るう!
「続き!僕の続きなんか一体誰が待っているって言うんだ!」
返す一撃がバティのやつれた顔にぶち当たっては仰け反らせるも上半身を振り子のように揺り戻して頭突きを返す!至近距離で衝突する意思!
「いる!ここに一人、オレがいる!」
その時、少年の動きは止まり、バティの振り上げた握りこぶしがアゴへ真っ直ぐに叩き込まれた。細やかな身体が夕日の中で宙に浮いて、不安定な橋桁を滑り空へと躍り出る。自由落下寸前で、バティの腕が少年の手首を掴んだ。
「……勝ちを捨てるのか?」
「死なせねぇよ、オレの目の前で」
「勝手な事、僕はもうペンを捨てたんだ。書く物なんてもう」
「だったらまた拾えば良いだろ!何度でも!」
バティの叱咤の答えないままに、少年は暗黒虚神の伸ばした汚泥を身に受けると、再びそちらへと引き込まれていく。虚無の暗黒の内へと。
「戻って!」
「わかってる!」
不気味に蠕動し再起動する暗黒虚神を前に、バティもまた巨神の胸中へと舞い戻る。振り返っても、もはや相手の姿は見えなかった。
【魂の灯 -89-:終わり|-90-へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
ファンタジーミステリー小説も連載中!
弊アカウントゥーの投稿はほぼ毎日18時更新!
ロボットが出てきて戦うとか提供しているぞ!
ドネートは基本おれのせいかつに使われる。 生計以上のドネートはほかのパルプ・スリンガーにドネートされたり恵まれぬ人々に寄付したりする、つもりだ。 amazonのドネートまどぐちはこちらから。 https://bit.ly/2ULpdyL