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冥竜探偵かく語りき~雷竜輪切り事件~ 第七話 #DDDVM

「フェッフェッフェ、そこの君、確か医学部の学生じゃろう。何故魔術書の棚を調べておるんかの?」
「あ、これは、その」

不意にかけられた老人の声に、ワトリア君が後ろへと振り向く。振り向いた先に居た人物を見て私はつい眼を細めてしまった。

声をかけた老人は、端的に言って半裸だ。着ている服といえば、七分丈の麻製ズボンだけで、後は靴くらいしか履いていない。頭頂部までつるりと禿げ上がっており、口元には豊かなヒゲを蓄えている。付け加えておくと、この様な格好はこの国では標準ではない。非常に特殊な風体と言っていいだろう。

「個人的な、好奇心でして」
「ほう、ほう。ま、ええがの。素質のある学生ならいつでも学部転向を歓迎するとも。ほいで、何を知りたいんじゃ?」

学部転向、それを歓迎できる立場にいるということは、この老人は服装に反して責任ある立場のようだ。肌を晒しているのは大気中の魔力要素『マナ』を察知するためだろうか。

「ここ最近の大規模な魔術検証の実績について……」
「そいならワシが一言で答えられるぞい。ここ一ヶ月はなーんも、しとらん」
「何か確かめられる履歴はありますでしょうか?」
「司書に聞けば、何の記録も追加されておらんことがわかるじゃろーて。満足かの」
「はい、ありがとうございます。フェート学部長」

学部長。その事実に私は少々眼を丸くしてしまった。人は見かけによらないとはいうが、この人物は特に見た目の実際の立場のギャップが激しい。

「おっと、ちなみにウソはついとらんぞ?ワシ一人がここでウソかました所で、三桁人は動員せにゃならん魔術儀式なぞ、隠しようがないというもんじゃ。口の軽い参加者が口を滑らすか、カネの流れをたどるか、あるいは目に見えた事象が発生するかでどっちみち露見するじゃろて」
「確かに……」

老人の眼が、ワトリア君ではなく眼鏡の奥の私を見た様な気がしたが、ここで反応を返すとなおの事怪しまれるだろう。ぐっと口を閉じて彼の講釈を聞き受ける。

実際の所、彼の回答は私の推理のパターンのうち、魔術儀式については正確に否定材料を提供してくれている。ブラフである可能性も考えられるが、彼の言う通り少し深堀すれば実体が露呈しうるのも事実だ。

「そういう訳じゃて、また何か知りたい事があればワシに連絡を入れるとええ」
「よろしいんですか?」
「学部が違おうと、生徒の知的好奇心に答えるのが教師の努めじゃからの」

そう言うと彼は、本棚よりタイトルの無い古めかしい巻物を引き出して丁寧に抱えた。そして、こちらに振り向いて一言付け加える。

「おっと、そうそう。余りウチの学生に危ない真似はさせないでくれたまえよ、物好きなドラゴン君?」

やはり、とっくに看破されていたらしい。察知されているのに黙りこくっていても仕方がないと判断し、私からも返答を返す。

「その点については、お約束いたします。しかし何故私の存在に?」
「フェッフェッ、そんな精緻な魔術式を仕込んでおいてこっちが気づかなかったとあっちゃー、学部長の名折れっちゅーもんじゃ。そじゃろ?」
「おっしゃる通りです、こちらの完敗ですね」
「謙虚なやっちゃ!よしよし、君らの謎解きが上手く行くのを祈っとくとしようかの」

そう言って、奇妙な老学部長はその場を去っていった。
しかし、彼のくれたヒントは実に有用だったと言っていいだろう。初めの推論こそ、間違ってはいたがここに来てもらったのは無駄ではなかった。

【雷竜輪切り事件 第七話 終わり 第八話へと続く

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